ドグラマグラ 8

  チョコラータ:「そうそうそうそう!足掻いてくれなきゃツマラナイ!くふふふ。
          セッコ!セッコ、来なさい」

いつのまにかどこかの部屋に逃げ込んでいるチョコラータ。
チョコラータの前には、どうやら監視カメラの画面がずらりと並んでいる。
ズボリ、と、チョコラータの足の間から、セッコが顔を出す。

  チョコラータ:「出て来る所を変えなさい…」
     セッコ:「ウギ。」

ブミ。と頭を踏まれて慌てて床に潜りなおすセッコ。
今度はちゃんとチョコラータの右横に顔を出す。

  チョコラータ:「イルーゾォから鏡取り上げてきなさい。
          コレではやつらの命にしがみつく表情がカメラに収められないのでな」
     セッコ:「ギハー!」

今のって返事?嬌声に耳をふさいで顔をしかめるチョコラータを残して、
セッコは床に潜っていった。

  チョコラータ:「くふふふふ。それでは第1幕と行こうか…クフフフフ〜〜」

にこにこしながら、目の前にあるスイッチを押す。
ガツリ。ブツ。ウイーン。突然画面全体に、ポケモンが表示される。
ピッカッチュゥ〜!
…………

  チョコラータ:「…コレはテレビの電源だったか」

チョコラータ、機械音痴?
気を取りなおしてもう一度。
その真横にあるボタンを押す。

  チョコラータ:「なんのボタンだか分からんが、苦しめー!ひゃはああ!」

なんだかド低脳なんですが…。
チョコ先生アナログ派?
実はヘリコプターの免許もいまだに仮免。
そのころ、イルーゾォ達は…
脱出するか、チョコラータを追うか。
議論の最中でありました。

   イルーゾォ:「とにかくここから出なけりゃしょうがねぇじゃん!」
   ジェラート:「僕がここに、ギアッチョとソルベを
          やっと連れて来たってのに…無にしようって言うの?」
     ソルベ:「うんうん。チョコラータを追うべきだろ。」
   ホルマジオ:「言っちゃ悪いが、俺達には関係ないンだぜ」
   ギアッチョ:「犯罪者風情が偉そうに言うな!お前らだって逮捕だ逮捕!」
   イルーゾォ:「ならなおさら協力なんかしねェ!お前ら鏡から出てけ!」
   ジェラート:「取引しようよ」
   
今まで無表情だったジェラートがイルーゾォに向かってにっこり笑う。
ギグリ。
この作り笑顔は、なにものよりも怖い。

   ジェラート:「協力してくれれば、今回は見逃す。協力者が必要なんだ。」
     ソルベ:「うんうん、見逃す」

ソルベッちゃんなんだか言いなり?
ギアッチョが何か言いかけるのを、両手で制する。

   ホルマジオ:「捕まえないと言う保証がねぇ」
   イルーゾォ:「そーだそーだ!」
   ギアッチョ:「あのな、泥棒より、殺人者捕まえるの優先に決まってるだろが」
   ホルマジオ:「ついでに捕まるってのはあらゆる意味で最低だぜぇ」
   イルーゾォ:「別に俺達が協力しなくったって捕まえられンだろ、
          俺達は勝手に出口探して逃げッから」
   ギアッチョ:「ンじゃ脅してでも協力させてやろうか?超低温、味わってみるか?」
   イルーゾォ:「グ…今度は脅しかよ」
   
まあまあ、とジェラートがわって入る。
ギアッチョに何事かささやいている。ギアッチョが大人しくなった。
さて、なんとささやいたのでしょう?答えは元日にね!

   ジェラート:「どっちにしても、チョコラータを見つけなければ、
          出口見つからないよね」
   ホルマジオ:「…そうとも言う」
   イルーゾォ:「組んだほうが状況はイイってことか…くそ」

やっと成立。
そんなにのんびりしててイイのかな?
チョコラータさっき何かボタン押してたよ…?

   ホルマジオ:「あ?」
   イルーゾォ:「なんだよ」
   ホルマジオ:「一体…なんだ?」

ズズズズズズ。階段の下のほうから音がする。
パシャン。波打ち際の、緩やかな音。

     ソルベ:「水が、上がってきてんぞ!野郎、水攻めのつもりか?!」
   ジェラート:「チョコラータのやつ、遊び始めたね」
   ギアッチョ:「くだらねェ!水なんか意味がねぇんだよぉぉ!」

ホワイトアルバム。
そういやコイツがいたね。便利便利。
水は瞬く間に凍り、そこにアイススケート場のような氷の面が広がる。
鏡の外に全員が出た。
鏡の世界はせいぜい数百メートル。移動するには不利だと言う判断からだった。
カメラでその様子を見ていたチョコラータ。つまらなそうな顔をして舌打ちをする。
階段づたいに、上に昇って来る様子がカメラに写る。
ふん、と鼻で笑うと、もう一度ボタンを押す。こんどこそ!
ピッカチュー。ピカーー!
…いい加減ボタン覚えなさい。先生。
彼らはもう2階に入っちゃったよ。

     ソルベ:「ここは、なんだ?」
   ジェラート:「お風呂の部屋。」
    
ジェラートにそう言われてよく見ると、水の入った大きな円が部屋の中央に石で作ってある。
中の水に手をいれると、ぬるま温かい。
水の底にまばらに土が沈んでいる。

     ソルベ:「???」
   ジェラート:「あ、さっき僕が使ったから」
     ソルベ:「ブフゥゥウ!!」

ソルベがジェラートを見る。見つめる。なんか妙な雰囲気が漂う。

   ホルマジオ:「だからアンタ、泥の野郎に捕まったのに、
          普通のカッコしてんのか〜イイなぁ、俺も入りてぇ…」

ありがとうホルマジオ。
なんかアブナイ方向に行きそうだった二人の世界が元に戻ったよ。

   ジェラート:「ここは何もないはず…あるとしても、水道管だけ」
   ギアッチョ:「ココも凍らせるか?」
   イルーゾォ:「バカの1つ覚え」
   ギアッチョ:「お前が凍るかァあ!アアン!?」

イルーゾォの足元が凍る。
ピキイイイン。
  
   イルーゾォ:「しもやけになるゥう!」

そう言う問題じゃないでしょ。
ズブリ。何かの音がする。
ホルマジオとジェラートが敏感に反応した。

   ジェラート:「来た!」
   ホルマジオ:「泥の野郎だっ!」

ズバアアアアッ!イルーゾォの足元から、何かが飛び出す。
ちょうど足元が、ギアッチョに固められていて動けない。
慌てるギアッチョ、引きつるイルーゾォ。
床から飛び出したセッコの腕が、イルーゾォを捕え…!!!
ガギグギン。
どこかで聞いた金属音のような。

     セッコ:「グゲェェエーー〜〜!!」

ズブン。
イルーゾォに手をかけられずに、セッコが床に倒れ、そのまま気絶する。
イルーゾォの目の前を通ったのは、銀色の物体だった。
それが、セッコの首にに銀色の歯を立てたのだ!
 
   ジェラート:「スクアーロ!?」
   イルーゾォ:「魚野郎!?」

バチャン。
風呂のぬるま湯に魚が戻る。
その魚が、ウゴウゴと小さな声で喋った。

   スクアーロ:『ジェラート。おまえ俺を助けたな』

全員の目が集中する。
スクアーロのスタンド、クラッシュは悠々と風呂の中を泳いでいる。
ソルベが妙な顔をする。そうね、恋人が入ったお風呂だもンね。変態。

   ジェラート:「…助けた…かな?」
   スクアーロ:『とどめをさそうとしたそいつらから俺を取り上げ、海に放ったろう』
   ジェラート:「うん」
   スクアーロ:『何故なんだ?』
   ジェラート:「さあ」

イルーゾォとホルマジオが顔を見合わせる。
ギアッチョがそろそろと、イルーゾォの足のスタンドをといていた。
ジェラートとスクアーロの会話から推測するに、スクアーロは敵ではないらしい。
ソルベがたまらずにジェラートの腕を掴んだ。

     ソルベ:「ジェラート、コイツとどう言う関係なんだ?」
   ジェラート:「操られたフリをした僕と行動を共にして、
          イルーゾォとホルマジオをハメたのは彼なんだ。
          あらゆる水の中を移動しながら、
          僕にイルーゾォ達の会話を情報として流してくれたのは彼なんだ。」
   イルーゾォ:「と、盗聴してたってのか!だから俺達こんな目に!?」
   ホルマジオ:「許せん魚!なんでこんなやつ助けた!」
   ジェラート:「スクアーロは、チョコラータに何か握られてるね?」
   スクアーロ:『……』
   ジェラート:「チョコラータは僕達が捕まえる。すぐ自由になれるよ」
   スクアーロ:『……ありがとう…』

ブツブツ言うソルベとギアッチョ、府に落ちない顔のイルーゾォとホルマジオ。
スクアーロの話はこうだった。
チョコラータの集めている美術品、その中にシャガールがある。
それが実は自分の描いた贋作だと言うのだ。
チョコラータにそれを見破られ、上手くこき使われているといった話。

   スクアーロ:『俺は売るつもりなんかなかった、描いてみたかっただけなんだ』
   
その絵を勝手に売ったのは、スクアーロの絵の先生であったポルポと言う男。
その男も、すでにチョコラータのコレクションの1つとなっているらしい。
無論ホルマリン漬けとなって。
でっかいホルマリンの瓶が必要だなんて思っちゃいけない。
想像しちゃ体に毒よ。
話終わると、クラッシュはふっと消えた。
スクアーロは「4階のいつもの所にいる」といっていた。
階段を昇りながら、ソルベが言う。

     ソルベ:「いつもの所ってのは、なんだ?」
   ジェラート:「僕の部屋だったとこ。以降、3階は目を閉じて抜けたほうがイイ。」
   ギアッチョ:「なんだそりゃあ?」

そうイイながら、3階の扉を開けるギアッチョ。
見ない方がイイよ、と言う言葉を無視して、あたりを見渡す。
その部屋は、薄暗い灯りがともっていた。
青い光り、その中にガラス張りの縦長の器が10ほど置いてある。
中身は、全部…。

   ギアッチョ:「ひ、人じゃねぇか!これか!コレクションってのは!」
   ジェラート:「後ろにあるのが、彼らが所有していた美術品。
          シャガール…コレがスクアーロのだね」

異常に大きな水槽、その中に異常に大きな人間。
コレ以上はやめておこう、バイオハザードのパッケージのように
「グロテスクな表現が含まれています」ってシールは貼りたくなーい。
とにかく吐き気をこらえながら、その部屋を抜ける。
抜けた先に、4階に昇る階段があった。
  
  チョコラータ:「ハァァアアッ!しまった!
         ついポケモンが終わるまで見入ってしまった!」

なにも起きなかったのはそのせいですか先生。
とにかくセッコの帰りを待っていたつもりが、なぜかポケモンを見るハメに。
さて、気合入れてやりますよ…って思ってとたん、画面の2階の部分にセッコの人影が。
倒れたまま起きあがりません。

  チョコラータ:「……あとでお仕置き決定ダベェ。
         しかし…意外とやるねぇ。ここに来られては困る。アレを使うかな。」

そう言って部屋の隅にある小さなガス栓のような物をひねる。
な、なにが起きるの!?
NEXT

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