ドグラマグラ 6

    ソルベ:「ジェ、ジェラートオォォ!?」
  ギアッチョ:「馬鹿野郎!近づくなってんだろぉ!」
  ジェラート:「そのまま、行って。僕も後から行くから、ね?」
    ソルベ:「ん、んな、お前置いて行けるかよ!」

ギアッチョに肩をつかまれ、もがくソルベ。
これでもかとばかりに、ジェラートを掴む腕を睨み付ける。

    ソルベ:「ジェラ…」
  ジェラート:「僕が信用できない?大丈夫、先に行って…ッ!」

ガクン、と引きずりこまれ、泥の中に片足が膝まで埋まる。

    ソルベ:「冗談じゃねぇ!ジェラート!俺の手に…!」 
  ジェラート:「ギアッチョ!連れて行って!」
  ギアッチョ:「俺に命令すんじゃあねぇぇ!」

ソルベが引きずりこまれるように、玄関の中に入って行く。
ギアッチョ以外と馬鹿力。

    ソルベ:「離せ!このすっとこどっこい!ボケ!カス!」

声が遠くなる。ソルベがやっとギアッチョの腕を振り払って扉の前に戻った時、
すでにジェラートの姿はそこになかった。
あるのは、泥の上を這うように動く腕だけ。
ギアッチョがソルベを突き飛ばすように退ける。

   ギアッチョ:「ホワイトアルバム!」
  
泥の表面が急速に凍り…
その瞬間、そこを這っていた腕が消えた。
アンビリーバボー!ジェラートはどこ!?

   ギアッチョ:「なにっぃぃ!?かわしやがった?!」
     ソルベ:「ジェ、ジェラート…」

愕然とうなだれるソルベ。ギリギリと歯噛むギアッチョ。
ジェラートの姿はもうそこにはない。
ソルベがギアッチョの胸倉を掴んだ。ちょっと涙ぐんじゃっている。

     ソルベ:「なんで俺の邪魔すんだ!?みんなテメェのせいだ!殺してやる!」
   ギアッチョ:「ウルセェエエ!恋人の言ったことも信用できねぇのかテメェはぁ!?」
     ソルベ:「信用…してぇけど…ジェラート…どこ行っちまったんだよォォ」

チ、とギアッチョが舌打ちをする。
凍った泥の固まりの見つめながら呆然としているソルベ。
オイ、と声をかけるが、微動だにしない。

   ギアッチョ:「ヤツらも…このスタンドにやられたのか…」
  
そのギアッチョの呟きに、ソルベがやっと口を開いた。

     ソルベ:「スタンド…、そうか…アレはスタンドか…」
   ギアッチョ:「落ちついたか?」
     ソルベ:「さっき入り口にあった泥の靴跡は1つだった。
          イルーゾォかホルマジオのどちらかが襲われ、
          どちらかが中に入ったと…」
   ギアッチョ:「ちょっと待てソルベ」
     ソルベ:「あ?」

ギアッチョが指差した方向を見る。
乾いた泥の固まりが辺りに散乱している。
ちょうど人の大きさくらいの泥の広がりかた。
館の中に入り、近寄って調べる。

     ソルベ:「誰かここに倒れていた…」
   ギアッチョ:「泥の靴跡が近くにあるが…歩いてきて倒れたにしては不自然な…」

ドガオオオオン。
大きな音が館に響き渡る!
何ごとかと銃を構えるソルベ。ギアッチョの背後にホワイトアルバムが出現する。
音はすぐに消えた。
何事も起こらない。

   ギアッチョ:「妙な…感じがするぜ」
     ソルベ:「振動は少なかった。音は壁のほうから聞こえた…まさか…」

ガキン。
扉に手をかけて動かす。
ガキガキン。軽い音がするだけで、動かない。動かない。

     ソルベ:「な…」
   ギアッチョ:「閉じ込められたと言うわけか…!?」
     ソルベ:「罠…?なんの?一体なんのための罠だ?
          まるでどこからか見ていたような…」

ギアッチョのホワイトアルバムが、扉をこぶしで叩くが、ビクともしない。
ソルベが暗闇を照らそうと、ジッポに火をつけた。
中央に大きな階段。今入って来たそれ以外に扉はない。
キラリ。炎に照らされて何かが光を反射した。

     ソルベ:「……?鏡…?」
   ギアッチョ:「鏡!?イルーゾォの野郎だ!」
     
駆けよって、鏡を覗きこむ。ドンピシャ。
突然鏡の向こうに現れた、ギアッチョとソルベの二人組に、
ただただ呆然としているイルーゾォがいた。

   ギアッチョ:「見つけたぜこのやろう!出てこい!」
   イルーゾォ:「な、なんだテメェ!?」
   ギアッチョ:「警察だ!おめえらを張ってたんだぜ!」
  
鏡に向かって一生懸命罵倒するギアッチョ。
見ようによってはアブナイヤツ…?
するり、とギアッチョの手から、鏡を奪ったのはソルベ。

    ソルベ:「ホルマジオか?泥の野郎にやられたのは。」
   
ソルベが緊張した面持ちでイルーゾォに話しかける。
鏡に向かってお話タイム。見れば見るほど異常な光景。
イルーゾォの後ろに、泥まみれのホルマジオが見えた。
イルーゾォはそこを動こうともしない。安全圏ってのはイイねぇ。

  イルーゾォ:「泥の…野郎…?」
    ソルベ:「おそらくスタンド使いだ。…ホルマジオは生きているのか!?」
  イルーゾォ:「生きてるよ…クソ…テメェらの罠だったのか…」
   
イルーゾォの背後にマンインザミラーが浮かび上がる。
ちょっとだけやる気のイルーゾォ。でも立ち上がろうともしない。さすがイルーゾォ。
ギアッチョが唇を突き出してすねた顔をしている。

    ソルベ:「生きて…じゃあ…ジェラートも生きている可能性が…」
  ギアッチョ:「イルーゾォ出てこーい。この館に閉じ込められたぞ」
  
ギアッチョの言葉に首をかしげる。
閉じ込められた?また罠か。誰がその手に乗るかとばかりに、
ちらりと覗きこんだギアッチョにあかんべーをする。
ギアッチョの額に青筋が走る。
ムキー!火を吹かんばかりの形相で鏡を投げつけようとするギアッチョ。
慌ててそれを止めるソルベ。漫才かあんたら。

    ソルベ:「イルーゾォ。信じるか信じないかはお前に任せる。話を聞いてくれ。」
  イルーゾォ:「いやだ。」
    ソルベ:「俺の相棒も泥の野郎にやられた。」
  イルーゾォ:「そこにピンピンしてんじゃねぇか、マヌケヅラでよぉ」
   
またもや青筋のギアッチョ。ブンブンと振りまわす腕に鏡を取られないように必死のソルベ。

    ソルベ:「コイツじゃない、もう一人、銀髪のショートヘアの俺の相棒がいたんだ!」
  イルーゾォ:「ヘタクソなウソついてんじゃァねぇよ、バーカ」
    ソルベ:「名前はジェラート…俺の…恋人で…
         クソ、ジェラートのやつ…助けられなかった…」

しんみり。
ギアッチョもばたばたを止める。
イルーゾォが鏡のなかで困った顔をする。
だってソルベのおっちゃん泣きそうなんだもん。

  イルーゾォ:「閉じ込められたって、証拠は?」
  ギアッチョ:「見ろよマザーファッカー!」

ガン!扉を蹴り上げるギアッチョ。

  ギアッチョ:「こんなじめじめしたところ、
         さっさとお前らの首もって出て行けるはずだったんだ!」
    ソルベ:「他に出口になりそうな場所がないのは…気づいてるんだろう」
  イルーゾォ:「……マジかよ…」
  
カツン。
カツン。
ギアッチョがかまえる。
ソルベが鏡を後ろ手に隠す。
カツン。
音が聞こえるのは、階段の上のほうだ。
カツ…
音が止まる。ライターの炎で見上げたそこには…

    ソルベ:「ジェラート!?」

そこで無表情に見下ろしているのは、ジェラートその人だった。

    ソルベ:「生きてたのか!」

嬉々とするソルベに、鏡の中のイルーゾォ緊張の面持ち。
一瞬見えたあの影は、どう見ても男だった。
このラッキョウ頭、ホモ?!恋人って言ってたし!でも見間違い!?いや、でも〜!?
困惑のあまりホルマジオの頬をつねってみる。痛がっている。夢じゃない。
自分のホッペ使いなさい。

  +++++:「よく出来ました…」

よく通る歪んだ声が、遠くからする。
動こうとしたソルベがぴたりと止まる。
見ると、ジェラートの肩にかかっている手がある。
ギアッチョがホワイトアルバムを発動させる。
へらへらとして気味の悪い声……そう、悪役登場だ!

  +++++:「そうそう、並のヤツじゃ面白くない。だろう?ジェラート?」
  ジェラート:「……はい、先生。」

1歩前に出たジェラートの後ろにいる男を、炎が照らし出す。
顔に緑色の文様。化粧か?
激しいドレッドヘアがちょっと壊れたような髪型の、白衣の男がそこに立っていた。
白衣の真中には、怪しい十字架の模様が刺繍されている。
見るからに怪しい!アブナイ!変だ!言いすぎ?

  チョコラータ:「こんばんわ。エサに引っ掛かった諸君。私はチョコラータ。」
     ソルベ:「そんな…ジェラート!お前が裏切ったと言うのか!?」
  チョコラータ:「んっふっふっふ。鏡張りの部屋に閉じこめてね、
          よーく聞かせてやったのだ。
          いまやジェラートはこのチョコラータの可愛い患者なのだよ。ん?」
   
宝塚のような怪しい文句を吐いて、ニタニタ笑うチョコラータ。
ソルベプッツン寸前。ギアッチョがスタンドをまとい始める。

  チョコラータ:「人間はどの程度の恐怖で狂うのか、個人差がある。
          医学は発達しようとも、人体実験をどんなに重ねようとも
          人間の精神の実験まではまだ行われていないのだよ。
          私はその先駆者となる。さ、見せておくれ、お前達の狂気を。」
     ソルベ:「この程度で狂うか!ジェラート、気づいてくれ!おまえは俺の…」

鏡の中でその言葉を聞いて口をぽかんとあけているイルーゾォ。
狂うどころの話しじゃないじゃん。ホモじゃんコイツ!
ホモの手に握られた鏡の中で男と二人きりって、なんか気持ち悪いじゃん!
オロオロオロオロ。
そう言う趣味じゃないと分かっていながら、ついホルマジオと距離をとってしまうイルーゾォ。
単純すぎますアナタ。
外ではロミオとジュリエット。

   ジェラート:「ソルベ…は、僕の恋人で、僕の言いなりで、先生のライヘ。」
  チョコラータ:「よしよしよし。よーく出来ました!
          しかし、ジェラート、ライヘになるのはは死んだあとだよ。
          いまはまだ、ただの実験材料だね?わかるかな?」
   ジェラート:「実験…材料」
   ギアッチョ:「ライヘの意味が分かるかね。医学用語だ。誰か分かる人?」

鏡の中で挙手するイルーゾォ。
自分で気づいて、赤くなる。
  
   イルーゾォ:「ライヘ…医学用語で死体のことだぜ…どうする気なんだ、
          あのイカレ野郎…」

そうか、と初めて気がつく。
何かオカシイと思った。そうか、ただの人間じゃツマラナイから、
館の入り口で魚野郎を使って選別する。
それを抜けた人間を、泥の野郎が館にぶちこむ、そう言うことか!
んじゃ俺達は、ここに、上手くつれてこられた…とそう言うわけ?
一人呟いて納得イルーゾォ。
それどころじゃないでしょ?!
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