ドグラマグラ 5
ホルマジオ:「正面以外…入り口らしい物がねぇな」 イルーゾォ:「変な家だなー実用性まるでねぇ。作ったヤツの顔が見てぇぜ!」 ホルマジオ:「妙な作りではあるよな…しかし、防衛策としてはイイのかもしれねぇ」 イルーゾォ:「こんな家作って守らなきゃならんもん、 集めようって精神が理解できないな俺ァ」 ホルマジオ:「金持ちはわからんな」 イルーゾォ:「わかりたくもねぇや」 そう言いながら、正面の門を押してみるイルーゾォ。 ホルマジオ:「バーカ、そう簡単に開くわけねけじゃねえ…」 ……ギー… イルーゾォ:「開いた…」 ホルマジオ:「ぶ、無用心にもほどが…金持ちってのは…」 イルーゾォ:「真正面から入るのって…こう、抵抗があるよな…」 確かに、正面玄関から堂々と入る泥棒ってのはどうもしっくりこない。 なんだか押し売りのような気分で門をくぐりぬけ、そっと門を閉める。 中庭もなく、目の前に玄関の扉。 イルーゾォ:「寝静まっているのか…それとも誰もいねぇのか…」 ホルマジオ:「うわ!でっけぇネズミの死体」 イルーゾォ:「気味わりぃ…か、帰っちゃったら駄目?」 ホルマジオ:「さっきもスタンド使いが守ってたんだ、気抜くなよ」 辺りを見まわしてみる。 1階…2階…3階…4…5 五階建て。まさに塔と言った雰囲気の、細長い建物。 イルーゾォが玄関脇の壁に近寄って上を見上げた。 きょろきょろと、見まわしている。 何ごとかと、ホルマジオが近くによる。 二人で上を見上げ、きょろきょろと見まわし… ホル&イル:「窓…は?」 窓がない。あるのは遥か上、5階に当る場所に、 鉄のアミに覆われた出窓のような物が見えるだけ。 ホルマジオ:「あそこから入るにゃ〜ちょっと高いかな…」 ガキ。石を重ねて作ったように思われる壁。ソコに手を掛けて、よじ登ろうとしてみる。 イルーゾォ:「こりゃ、雨で滑って無理っぽい」 つうか。あんたら、下調べぐらいしなさい。 時計を見ると、ここにきてからすでに1時間が過ぎている。 イルーゾォがおもむろに玄関に手を掛ける。 それって泥棒のすることですか? イルーゾォ:「コレで開いたら大笑いだよなー」 ホルマジオ:「そんなんさっきの魚野郎の警備、意味まったくなしじゃぁねぇか」 ガチャリ。 ああもうイヤ。そう言う顔をしてイルーゾォがホルマジオを見る。 ホルマジオも驚いて口をあけている。ハニワのような顔をして。 そろそろそろ…。扉が開く。中を覗くと真っ暗。 イルーゾォ:「一体…なんなん…だよなぁ?真っ暗でよくわからねぇ 灯りになるようなもん持ってるか?おい?聞いてるか??」 振り向いた先には誰もいなかった。 さっきまで、後ろでハニワ顔をしていたホルマジオがいない。 ごくり。息を飲む。状況が把握できない。ホルマジオがいない。 声も立てずに消えてしまった…!おばけ屋敷の一番怖いところに取り残された恐怖。 静寂。雨音。自分の乱れた呼吸の音。 ……ドン! イルーゾォ:「!!!!!!!」 声にならない声を立てて「きをつけ」をするイルーゾォ。 音の主は、玄関の中。さっき覗いた暗闇の…中… 息をグッと止めて、ゆっくり…ゆっくり振り向くのは怖いから、バっと振り向いちゃえ!バッ! イルーゾォ:「ホルマ…ジオ?」 そこには泥にまみれたホルマジオが無造作に投げ捨てられていた。 ズブリ。 妙な音を聞いたような気がして、玄関の石畳の向こう、ぬかるみを見る。 ズブリ。 イルーゾォ:「ギ…!」 慌てて口を押さえて声を押し殺す。 ぬかるみに動く物体。あれは…そう、どっかで見た。見たはずさ! そりゃだって、俺の腕の先にくっ付いてるものと同じ…!あれは、手だ! その手は、ぬかるみを探るようにじわじわと動いている。 まるでソコから生えているかのように、地面から突き出て。 コレじゃまるで、B級ホラーだぁ!! ……カチャリ。 そっと館の中に入り、扉をしめ、それを背にして立つ。 歯の根が合わなくなりそうなのを、噛み締めて止める。ガチガチガツン。 あれは…。なんだ?ホルマジオはどうしたんだ?生きているのか? 館の中に入らされたような気分。追いこまれて行きついた先がここか? ホルマジオに恐る恐る近寄る。これで死んでて動いたら、バイオなんとかの世界だ。 イヤ、でも、有り得るかも… ホルマジオの近くにしゃがんでみると、微かに腹が動いているのがわかった。 息をしている。それだけ確認すると、おおーきなタメ息がでた。 やっぱ一人じゃ心細いもんね?しかし誰かと一緒でマンモーニだね、キミも。 イルーゾォ:「マンインザミラー…ちょっと休ませてくれ…」 鏡の中…簡易休憩所にホルマジオを引き連れて入る。 鏡の中も、外と同様気味が悪いが、安心は出来る。 気を失っているらしいホルマジオ。おとっつァンを看病する息子イルーゾォ。 それは言わない約束よ。 ところ変わって雨の中。 ギアッチョがずんずんと、先を行く。 ソルベにくっ付いたまま離れないジェラート。まんざらでもなさそうなソルベ。 あんたらマジでおばけ屋敷の探索状態だね… ギアッチョ:「もうなんも、出ねぇみてぇだな?つまらねぇ…チッ」 バシャバシャと、ぬかるみを踏みつける。 ギアッチョ:「ったくよぅ、水はけの悪い土地だなァオイ。 なんでこうぬかるみが多いんだァ?」 ジェラート:「海際にこうやって岬として残っていると言うことは、 地層が水を吸わないからこそだから…」 ギアッチョ:「テメェ知ったような口ばっか聞いてっと、輪ぎるぞ!」 ジェラート:「う〜ん、知ってるから言っただけなの。ご免ね」 ギアッチョ:「……わかったよ…」 理屈派と理論派が重なると、理論の方がどうしても強い。 ブツブツ言ってはいるが、それ以上口に出さないギアッチョ。 ソルベが苦笑いしていた。 開いている門を、目で確認する。 人一人通れないくらいの隙間。 ソルベ:「なんか…妙なんだよな…誰かいるんじゃないか?」 ギアッチョ:「アア?なんで妙なんだよ説明しろ説明」 ソルベ:「開けっぱなしで入る泥棒って変じゃねぇ?」 フン、と鼻を鳴らしたギアッチョが、人一人入れるくらいにまで門を開ける。 振り向いてソルベの前に顔を突き出した。 ギアッチョ:「妙でも変でもとにかく中に入ってヤツら捕まえりゃいいんだろうが?ア?」 ソルベ:「……注意して進むに越した事はないって言ってんだよ」 ギアッチョ:「フン、自信のねぇヤツの言う言葉だな」 ソルベ:「猿にも学習能力くらいはあるぜ。」 ジェラート:「意見より現状。」 ソルベとギアッチョが、グ、と詰まる。 恨めしそうに自分を見るギアッチョを無視して、館を見上げるジェラート。 ジェラート:「ぬかるみのおかげで、玄関から入ったのがよくわかるね」 そう言って指差した玄関の前の石畳に、泥の靴あとが残っている。 ギアッチョ:「ん?」 ソルベ:「あ?」 ギアッチョ:「気づかねぇんかお前ら」 ソルベ:「靴の跡か?」 ギアッチョ:「1つしかねぇってのはどうしてだ」 何?と言ってソルベが覗きこむ。ジェラートが雨に打たれたまま、少し離れてソレを見ている。 ジェラート:「中にはいろうよ」 ソルベ:「しかし…」 ギアッチョ:「何言ってんだ?相手の動きも掴まずにナァ…」 ジェラート:「入ろうよ…中に。」 無表情にそう言うジェラートの顔は真っ青に見えた。 切羽詰ったように何度も繰り返す。 ジェラート:「早く…中に入って!駄目なんだここにいちゃ…!」 ソルベ:「どうした?どうしたんだジェラート…」 いつもと様子の違うジェラートにソルベが近寄ろうとする。 ジェラート:「きちゃ駄目。早く。入って…お願い」 ジェラートの足元を見ると、泥にまみれた腕がその足首を掴んでいた。 | |
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