ドグラマグラ
次の朝。 ベッドの上でグダグダとシーツを引っ張っている情けない顔の男が一人。 その横で、アイスコーヒーをあおりながら、うめく男が一人。 ホルマジオ:「頭…イテェ〜」 イルーゾォ:「やる気おきねぇー」 ホルマジオ:「で、どうすんだよ、これから?」 イルーゾォ:「リゾットの前でカッコつけちゃったしな〜…。」 ホルマジオ:「俺も調子に乗った…もうちょっと資料集めネェとしのびこめねぇな。」 イルーゾォ:「いっそ、酔った勢いでしたごめんなさいってリゾットに頭下げるか」 ホルマジオ:「うわ!カッコワリ!カッコワリぃよそれ!」 イルーゾォ:「だ〜よ〜ね〜…」 ベッドの上にうつぶせになってうめく。 ホルマジオ:「でもよぉ…」 イルーゾォ:「なによ?」 ホルマジオ:「今回の報酬があれば俺達…すげぇよな?」 イルーゾォ:「無理無理、出来ねぇって」 ホルマジオ:「何言ってんだよ、プロだろ?プライドねぇのお前?」 イルーゾォ:「命のほうが大切だもんねーだ」 むぐぅ。ホルマジオがゴツンと殴った衝撃で、イルーゾォが枕にぶつかった音。 ホルマジオ:「バカやろ、そんなんだから 俺等いつまでたってもデッカクなれねぇんだよ!」 イルーゾォ:「金持ちにはなりてぇけど、デッカクはなりたくねぇ!」 ホルマジオ:「一緒だ!同じだ!同一だァ!」 イルーゾォ:「同じモンかよ!デッカクなったらだな、なんかこう、命狙われたりとか」 ホルマジオ:「それが男ってモンだ。」 イルーゾォ:「うお…なんだかよくわかんねぇけどカッコイイ気がする…」 ホルマジオ:「だってよ、考えてみろよ、屋敷に入って絵持って来るだけだぜ。」 妙な間。イルーゾォが突っ伏したまま動かない。 ホルマジオがきょとんとしている。 イル&ホル:「簡単じゃねぇか…。」 ……単純思考、イイのかそれで。 ……ガチャン。 小さな会議室のような場所。取調室を心持大きくしたようなソコで 男二人がパイプ椅子に座っている。 扉の開く音に振り向いたのは、ホリの深い、黒髪の男だった。名を、ソルベと言う。 もう一人の男は、我感知せずと言った風で、携帯電話をいじくっている。 短髪で銀髪、名前はジェラート。 携帯の画面では、一斉を風靡し、いつのまにか退廃の一路をたどったらしい ぷよぷよが舞っていた。ふぁいやー。 扉を開いて、めがねをかけた男が入って来る。 ソルベ:「遅い。いつまでまたせんだギアッチョ!それでも刑事かよ!」 ギアッチョ:「うっせーな!お前はお前で仕事がある、俺は俺で仕事があるんだ。」 ソルベ:「三分も待ったぞ!」 ギアッチョ:「あのなあ〜最近じゃ3分でラーメンも作れねぇんだよ! 4分のインスタント麺ってのはありゃなんだ? つうか、なんでインスタント麺ってフライになってんだ?! 揚げちまったらフライラーメンだろうが! ソバやうどんまで揚げてあるんだぞ、 それは違う食いモンになってるだろうが!ああ?!」 ソルベ:「俺に言うな!それに俺はインスタントは食わん!添加物は身体に悪い」 ギアッチョ:「誰もそんなこと言ってねぇ!」 ジェラート:「ふぁいやー」 ソル&ギア:「ゲームしてんなー!」 ジェラート:「白熱した戦いでした。僕の勝ち。最高得点更新中。」 ソルベ:「ネット対戦?」 ジェラート:「うん。ついでに屋敷の辺りについて調べといたよ」 ギアッチョ:「屋敷?なんだ、始めっから説明しろよ」 うん、と頷くと、表情も変えずにジェラートが立ちあがった。 奥にひっそりと置いてあるホワイトボードに、写真を貼りつける。 絵と、建物と、二人の男。 あまり抑揚の無い声で、ジェラートが説明を始める。 ジェラート:「この二人がホルマジオとイルーゾォ。たいした犯罪者じゃ無いんだけどね」 ギアッチョ:「犯罪集団のシッポってやつか?」 ジェラート:「その通り。この二人が次に動く時に、 この二人をダシにして、犯罪集団を暴く。その話は前に課長に聞いたよね」 ギアッチョ:「ああ、で、この話が出るってことは…」 ソルベ:「ジェラートがこの二人の動きを追ってた、そんで昨日掴んだらしいぜ」 ギアッチョ:「そうこなくっちゃなぁ…開幕ってワケか!」 ジェラート:「ううん、まだ。」 ソル&ギア:「はぁ?!」 ジェラート:「動くつもりはあるみたい、でも迷ってる。 ……あ、ケンカ始めた」 ソル&ギア:「???」 ギアッチョ:「何してんだ?」 ジェラート:「盗聴」 ソルベ:「ジェラート…やっぱりお前情熱のバラだ…」 ギアッチョ:「何言ってんだラッキョウ坊主」 ソルベ:「ラッキョウだと?!あのな、コレは社会に反骨精神を見せつけてだなー!」 ジェラート:「あ。動いた。」 突然六ヶ月の妊婦みたいなこと言い出すジェラート。 そっと目を閉じ、貝殻の音を聞くかのように、耳に手を当てる。 ソルベとギアッチョも、じっと耳をすませて口をつぐむ。 ややあって、ジェラートが口を開いた。 ジェラート:「大丈夫、強風と雨だって。」 ソルベ:「天気予報?」 ジェラート:「うん」 ソルベ:「ウチでゲームでもするか。」 ジェラート:「でもお仕事だし。」 ギアッチョ:「って言うか、なんで天気予報なんだよ!」 ジェラート:「この二人が動く日時はわかったよ。 狙いの屋敷はこの写真で見てもわかるように崖の上だね。」 そう言ってジェラートが指差した写真の中には 切り立った崖の上に、高い塔のような屋敷がある。 思わず、息を飲むギアッチョ。 ギアッチョ:「まるで幽霊屋敷だな…」 ジェラート:「実際その辺りにはそう言うウワサもあるみたい。 そんで、天気予報が最悪。良かったね」 ギアッチョ:「さっきから、なんで天気予報なんだ。 納得いく説明が無ければ俺はそろそろキレるぜ!」 ジェラート:「崖づたいの家、入るには真正面か、海のほうから崖を上るか、 空から以外、手はないよね。 この崖のあたりはこの地形から言うと、 浅瀬で岩が多い、ちょっと船でつけるのは無理だね。 あとは空か、陸づたいか。 空からのばあい、目立たないように 夜にエンジン音の小さい小型機を使うのが一番。 小型機の使用可能範囲は、天候によって左右される。 ……ご清聴ありがとう。」 ギアッチョ:「陸づたいを張れば…いいと言うことか」 ジェラート:「無駄なことは面倒くさいしね」 ソルベ:「OKだぁ!これで、作戦まとまったな?課長に出動要請しようぜ!」 そうそう。 貴方達役者を、屋敷で待っている。 屋敷が待っている。 屋敷の名前はドグラマグラ。 塔に囚われた衆人の歌う歌に惑わされ無いように…くれぐれも。 | |
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