ドグラマグラ

  ++++:「だぁからよぉ〜言ってんじゃねぇかよ〜?」

酔っ払いの声。
カウンターに座った二人組が、互いにののしりあっている。

  ++++:「何言ってんら。テメェがちゃんとやらなかったからだろひゃー」
  ++++:「まぁた人のセイにして、しょーがねぇなぁあ〜」

イルーゾォとホルマジオ。カウンターでほっぺたの引っ張り合いをしている。
ホルマジオのほうがよく伸びる。

 イルーゾォ:「お前…ほっへやわわはいはぁ〜!!(ほっペ柔らかいなぁ)」

イルーゾォが感心して、一生懸命伸ばしている。
カウンターの向こうでそれを見ていたマスターがため息をつく。
酔っ払い同士ってのは、こう支離滅裂でしょうがない。
マスターの名前はリゾット。部屋の仲でも帽子は取らない。お気に入りの可愛い帽子。
コレがじつは特注だってことは誰にも言ってない。
モチロン、理由は恥ずかしいからだ。

  リゾット:「お前たち、そんなことしてて、メドは立ってるんだろうな?」

おやおや、マスターにしてはちょっと偉そうでないかい?
その声に反応して、引っ張りあいをやめる二人。
ホルマジオの頬が、かすかに赤い。酔ってるのか腫れてるのか。

 ホルマジオ:「こいつがヘマばっかりやるから、コンビ解消してぇよぅ」
 イルーゾォ:「な、何言ってんだ!ヘマやんのはお前だろ!」
  リゾット:「日本語でな、どんぐりの背比べというのがあるそうだ」
 ホルマジオ:「へー」
 イルーゾォ:「どんぐりって、背比べすんの?」

リゾットの大きなため息。

  リゾット:「次の仕事は決まったのか?」
 イルーゾォ:「あるにはあるんだけど…」
 ホルマジオ:「妙な仕事なんだよ」
  リゾット:「詳しく聞かせてくれ」

そう言って、リゾットが二人の前にヒジをついた。
悪い話でもするかのように、コソコソを頭を寄せあって会話する。
実際悪い話なのだが…。

 ホルマジオ:「ある屋敷に、しのびこむんだけどよ…」

悪者だったこの三人。じつはこのバーに来るものはすべて泥棒と言った算段。
ホルマジオ達以外にも、顔をつき合わせて会話をしているものがテーブルを囲んだり。
その泥棒稼業の元締めがこのリゾットというワケ。
苦労の跡もアリアリと、クマの消えない目をこすりながら、ホルマジオ達の話を聞く。

  イルーゾォ:「じつはこのあいだ、この店をでた直後だったんだけどな」
  ホルマジオ:「そうそう、突然変なネーチャンに、手紙を渡されたんだよなぁ」
   リゾット:「女?」
  イルーゾォ:「綺麗なおねーさんだったよな」
  ホルマジオ:「何お前、ああ言うの好みなのかぁ?ははぁ〜ん」
   リゾット:「……で?」

ホルマジオの話はこうだった。
その女に「ある人から預かった、中を見てくれれば分かります」と言われ、それを預かった。
その手紙の中身には、最近世の中を騒がせているとか言う、怪盗の名前のサインと
ある屋敷に、しのびこんで欲しい。
ある絵を盗んできてほしいのだ、と言う内容が書いてあった。
書いてあったというと少々語弊がある。
すべて印刷された文字であったのだから。


   リゾット:「俺を通さない依頼ってのは、怪しいな…」
  ホルマジオ:「でもよぉ、報酬金額のトコロで悩んじまうわけよ。」
  イルーゾォ:「信じがたいぜ、この金額…イタズラにしちゃ、妙だしなー」
  
えー、イチ、十、百、千……の後に丸が5つ…

   リゾット:「コレは…1億!?し、しかし、信憑性がなさ過ぎる…」
  ホルマジオ:「そうなんだ、しかし実際その家調べて見たんだがよ…」
  イルーゾォ:「海の近くの崖伝いにある屋敷なんだが、塔みたいな形してやがって」
  ホルマジオ:「元々どっかの研究所らしいんだが、別荘として買いうけられてる」
   リゾット:「買いうけたのが誰なのかわかるのか?」
  イルーゾォ:「聞いたことない名前なんだ。東洋人の名前だが…。」
   リゾット:「偽名か。」

ホルマジオが鷹揚にうなずく。
イルーゾォがこっそりホルマジオのグラスに塩を入れているが、リゾットは顔色一つ変えない。
教えてやれよ…

   リゾット:「それで、どうするんだ?受けるのか?危険だぞ?」
  ホルマジオ:「何かの罠かも知れねぇなぁ〜」
  イルーゾォ:「でもよ、金になりそうなモンも転がってるっぽい」
   リゾット:「何故わかる?」
  イルーゾォ:「そこの東洋人の名前で、美術品が幾つも落札されてるんだぜ」
  ホルマジオ:「それ俺が調べたんじゃねぇかよ!エラそうに言うなよなァ〜」
   リゾット:「おれはあまり気乗りがせんが…。」
  イルーゾォ:「俺とホルマジオだけでやれるさ。罠だったとしても、
         回避するのは簡単だろー?」
  ホルマジオ:「そうそう」

リゾットがボソリと呟いた、「だけ、はな…」と言う声は届かなかったろう。
ホルマジオが怪訝そうな顔をして、苦しむイルーゾォを見ている
すべて知っているのは、このリゾットだけだ。
……どのくらいの味になったのか、試してみるバカがどこにいる……
がっくり。


ドウン。
外にとまっていた、1台のジャガーがエンジンをかけた。
中に乗っている銀髪の男。隣にいた男が笑った。
銀髪の男は、ニコリともせずに、何か電話をかけ始める。
となりの男の手に持ったグラスに、銀色の魚が浮いていた。
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