続・ご近所ジョジョ物語
デーボ編・第8話「ごめんね」
……暗い部屋。 小さな明かりを掻き集めてぼんやりと浮かび上がるシルエット。 金属のぶつかる音。舌打ち。 衣擦れの音。 男の低い呟きが聞こえる。 シルエットの主はJ・ガイルだった。その真下に、デーボが横たわっている。 J・ガイル:まさか、まさかなァ…俺がこんな… カチャリ。 カラン、と音がして、弾丸が落ちる。 J・ガイル:もう終わったと思っていたが…やはり抜けられないのかなァ…俺も… J・ガイルの手にした鉤型の針が、デーボの肉に食い込む。 ぐったりとしてぴくりとも動かないデーボ。 その傷口を、丁寧に閉じて行く。 J・ガイル:おまえも…俺も…抜けられねぇのかなァ 針を持つ手が一瞬震える。 震える手で、だが正確に。事は成されていった。 J・ガイル:すまん…俺にはここまでしか出来ない…後は運か… ……因果なもんだよな…テメェのせいで、 また俺はこの手にメスを握っちまった。 そう呟くと、ガクンとその場に膝を折った。 そのまま倒れこむように、仰向けにねっ転がる。 J・ガイル:ママ…… エンヤ:なんだい J・ガイルのねっ転がった頭の上から声が聞こえる。 目を凝らすと、ゆり椅子に腰掛けた小さなおばぁさん…エンヤ。 J・ガイルの母親だ。 J・ガイル:ごめんよ エンヤ:いいんだよ… J・ガイル:有り難うね、ママ。 エンヤ:なにがだい? J・ガイル:俺を助けてくれて有り難うね ゆり椅子が、キイ、と鳴る。 エンヤ:親として当然じゃわ J・ガイル:ごめんね… エンヤ:どうしても助けるのかぃ、その男… J・ガイル:うん…ごめんね エンヤ:大丈夫じゃよ。ワシは愛する息子のことを信じとるからの… J・ガイル:……ごめんね…ごめん… エンヤ:謝ってばっかりじゃのぉ J・ガイル:俺なんにも出来なくってごめんね… 親譲りの右手で、顔を押さえる。 そのわきから、つと流れるものが見えた。 エンヤ:何を悲しむんだい、ワシも悲しくなるじゃぁないか? J・ガイル:俺はママになにもしてあげられない…!所詮この程度の人間だったんだ エンヤ:…… J・ガイル:ママの夢も叶えてあげられない!俺は…駄目なヤツなんだ…! エンヤ:馬鹿を言うんじゃないよ! エンヤの一喝が響く。 びくッとして、見上げるJ・ガイル。 エンヤ:なにも出来ない人間で十分なんだよ。人間は何も出来ないんだよ! J・ガイル:マ…ママ? エンヤ:いいかい、人間は何も出来ないから、何かをしようとするんだ。 何かが出来るんだと信じるから、笑えるんだ。 J・ガイル:笑う? エンヤ:愛する息子よ…ちゃんと笑ってるかぇ? J・ガイル:俺、笑ってイイの? エンヤ:馬鹿だね、このババァにお前の笑う所を見せとくれ。 それがババァの願いだよ J・ガイル:……! ボロボロと落ちて止まらない。 困ったように笑う。一生懸命笑う。 J・ガイル:嬉しいよ、嬉しいよ…ママ大好きだよ…俺ママ大好きだよ! エンヤ:嬉しいことを言うのぉ J・ガイル:ママは、俺が成功したら笑ってくれるよね? エンヤ:わしが笑うときはな、お前が笑ったときじゃよ J・ガイル:ママの悲願を… エンヤ:…そりゃ…なって欲しいさ。ワシの後継ぎにのゥ J・ガイル:…… エンヤ:しかし、親の言うことを聞くのが子供じゃなかろうて J・ガイル:え? ゆり椅子の上で、つとエンヤが天井を仰ぐ。 その先に見えたのは、過去か未来か現在か。 小さく笑みを漏らして、ゆっくりとその言葉はつむぎ出されて行った。 エンヤ:このババァもな。夢があった J・ガイル:夢? エンヤ:普通の社会で生きてくのは、裏で生きるよりもツライのじゃよ J・ガイル:ママ…? エンヤ:その痛みに息子をさらしたくない…そう思っておる J・ガイル:…… エンヤ:いまよりももっと苦しみたいなら、外に出ても良いかもしれん ため息。 J・ガイル:いまよりもっと? エンヤ:そうじゃ J・ガイル:………でも… エンヤ:だがのォ J・ガイル:? エンヤ:いまよりもっと笑う事も出来るじゃろうて J・ガイル:……!……俺 エンヤ:なんじゃ? J・ガイル:親…不孝しても? エンヤ:このババァを苦しめるのか? J・ガイル:そのかわり俺、もっと笑う!だ、駄目? ゆり椅子の音が止まった。 こつん、こつんと杖の音。 その杖の先が、J・ガイルの頭を小突く。 エンヤ:いったじゃろう。お前を信じとるよ J・ガイルは飛び起きると、深く深く、頭を下げた。 続ご近所TOP/NEXT |