ドグラマグラ 2−12


 イルーゾォ:「ふぅわー!」

大きく一つ伸びをして。
爆音とかガラスの壊れるような音だとか。
それが各々の耳に響いた直後。
また俺達は舞台の上に立っていた。

  リゾット:「終わったのか…?」
  メローネ:「そう、終わりでもある。しかし始まったとも言える」

消えた壁。そして消えた壁の向こうにいたのは。

   ソルベ:「…!ジェ、ジェラート!」
 ジェラート:「あれ?ソルベ…あれ?ビックリしたー…あ、みんないる」
 ギアッチョ:「なんだってんだ一体…解放、されたのか俺達は…?」
 ホルマジオ:「おいおい、全員、いるのか?なんだったんださっきのは」
 イルーゾォ:「おー!ホルマジオー!生きてたんか、マジで!」
 
ここは一体どこなのだろう。
目の前に突然現れた各々を各々の目で確認して。
互いに好き勝手に喋って。
そして自分がここにいるコトを確認して安心する。
全ての人間がしてきたコト。

なにが仕組まれたコトでなにが自分の意思なのか。

 スクアーロ:「解放、なのか?本当にこれは。」
 ギアッチョ:「……わからねぇ。ここは一体どこなのかもわからねェ。」
  メローネ:「それがドグラマグラなのさ」

振り向くと本を手にしたメローネが立っている。
それはまるで語り部の様に。

  メローネ:「ドグラマグラは迷路。俺達を惑わせて縦横無尽に操る迷路。
        行き交う人々が立ち止まりそして笑い涙する、迷路。
        見ているのか見られているのか、意思なのか?命令なのか。」
  
それだけ言うと、メローネの手元からその本が滑り落ちて床に叩きつけられた。
するとどこからか無造作にその本を拾う手。
その本についた埃を叩いてページも気にせず開いて読み始めるのはリゾットその人。
語り部は誰、作者は誰?そしてアナタは、ワタシは、君は一体。

  リゾット:「見えたコトは信用出来るか?信用する勇気があるか。
        それは現実か?見えているのは現実か?
        君がそう決められるのなら、また舞台に立つだろう、そう、俺達は」

それだけ読み上げると,パタンと本を閉じて…



 イルーゾォ:「でさ、結局俺達助かったわけ?」
 ジェラート:「判断しずらいよね。自由になったのかな僕達。」
   ソルベ:「自由じゃねぇの?」
 ギアッチョ:「お前はなんでそう短絡的なんだ?
        人間の頭ってのは考える為についてんだ、
        それを使わねえから、お前みたいに退化しちまうんだろうが」
   ソルベ:「退化してねぇッ!」
 ギアッチョ:「退化してるから単純思考なんだろうが!」
   ソルベ:「前向きと言うんだこの場合は!」
 ギアッチョ:「一方向しか見えてない、とも解釈出来るよなァ?」
 ジェラート:「あーもうさっさと帰ろうよぉ。お風呂はいりたいな」
 イルーゾォ:「あ、俺も!」
 ホルマジオ:「俺は腹へった…」
 イルーゾォ:「あ、俺も!」


彼らの会話の間に
ゆっくりと。メローネはリゾットが閉じた本を
そっとその手から抜きとって。
気づかれないように抜きとって。
その場を、静かに去る。

  リゾット:「どっちなんだお前は」
 イルーゾォ:「どっちもしてぇんだよぉ〜
        腹も減ったし風呂も入りてぇし布団も恋しいなぁ」
ホル&ジェラ:「増えてんじゃん」
 ギアッチョ:「単純バカばっかりか」
 ジェラート:「そのほうが楽かもよ?難しく考えると面倒だしね」
 イルーゾォ:「そうそう!」
 ホルマジオ:「帰るか」
 ギアッチョ:「帰れるのか?」
 ジェラート:「駄目、考えちゃ。」
   ソルベ:「もう理解しているんだろ?」
 ホルマジオ:「信じちゃえばいいんだってコト」
 イルーゾォ:「そう、それが出口になる」
 

イルーゾォが指差した先は。
上手(かみて)だったのか下手(しもて)だったのか、
それとも行く先は壁かそれとも観客席か。
立ち去ろうとして、各々のポケットから白い紙を一枚ずつ取り出して。
それを、地面に重ねて置いて。

その紙の束に手を振ってお別れ。

見えない暗闇に向かって歩き出す。
その先に何かあると信じて。
分かってる、またいつもの日常がその先にあるから。
そう信じてるから。
そして多分それは間違いないから。



一人暗闇に残されて。
メローネが本を大事そうに抱えて歩いてくる。
うろうろ、歩きまわって何かを探している様で。
ふと、床に置かれた紙の束に気がついて駆け寄り、それを拾って。
本の最後のページにはさんで、安心の溜め息。
そう、これで終わり。
この本のお話は終わり。

 
 メローネ:「そう、これで終わり。この本のお話は終わり。」


そしてその本を差し出して…
彼は優しく笑う。


 メローネ:「アリガトウ、面白かったよこの本。
       また何か面白いものが書けたら見せてくれないか?」


当然さ。


 メローネ:「ありがとう。楽しみにしているよ。」


俺も、楽しみさ。


 メローネ:「それじゃぁ…(と言って背を向けて歩き出す)…あ、そうだ。(振り向いて)」


なんだい?


 メローネ:「君は本当にワガママだね」


かもね。


 メローネ:「じゃあな…」


ハラハラと手を振って去って行くメローネを見送って。
返された本を開いて最後のページを覗きこむ。
白紙の本に。
また新しい字が踊る。
スクアーロがワタシの手元を覗き込んで言った。

スクアーロ:「本当に君はワガママだね」


大きな本が閉じる。

それに挟まれて窒息しないように早く逃げ出そう。

その先に何が見える?

次に何が見える?

次はまた直ぐ其処に。そう遠くはない。遠くはない…。
ライヘはいつでも集まるから。
そう、望めばすぐに集まるから。
そうしたら、また楽しもうじゃないか。ねぇ?






登場人物
    チョコラータ
    セッコ

脚本

  
演出

   
語り手 メローネ
    



監督

 




……ドグラマグラ、未だ完成せず。……




……完
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