ドグラマグラ 2−9

メローネ、ホルマジオ、ソルベ、ジェラート、そしてスクアーロ。
足りない駒があと二つ。
ギアッチョ、イルーゾォ、さえ揃えばすべて揃う。
チョコラータがそう何度も言い聞かせた。
何度も、聞いた。
そろわないじゃぁないか。
何度もそうののしられた。
僕が何をしたって言うの?
なんでこんなにアナタは笑うの、そして怒るの?

揃わないのはアナタだよ。

ドグラマグラに心がこだまする。
ここは架空の世界?ドグラマグラ。
見るが良い素晴らしいドラマを。
所詮人間が作ったドラマを。

気がついてないその結末を見るが良い。


ドグラマグラはそのもっと下の方。
あのときの場所をもう1度。
そしてあの映画を、脚本を、舞台を、そして起きた現実をドラマにするあの場所をもう1度。
もう…1度?

  チョコラータ:「いいか、今度こそ!きちんと揃えるんだぞ。いーか?わかったかな?」

無言で頷く。
そう、きちんと。
全部、揃えるんだ。
全部、全部だよね、ねぇスクアーロ。
うつろな目がお互いを見る。
ジェラートとスクアーロがゆらりと立ちあがった。
そう、きちんと、全部、ドグラマグラを揃えるんだ。
そう。
分かってるよ、先生。



そして、ここはどこかの部屋の隅っこで。
うつぶせになって床を叩く男が一人。

  ソルベ:「…くっそーなんでせっかく助けたのになんで俺は一人なんだよーッ!」

なんと言うか、こう、会えないからこその雄叫びってんですかね。

  ソルベ:「こっちは身体張って大事なもん守ってんのによ、なんだよこの仕打ちー!
       ジェラートはどこだコラー!会わせろってんだよぉー!もー!いてぇー!」

ジタバタジタバタ。
思ったより元気なソルベ、みんな安心した?

  ソルベ:「カチカチ山のおかげで動けやしねぇ…あー!仰向けになりてぇよぉ!」

ジタバタジタバタ。
あいてててて。
動くだけ動いて背中を押さえて打ち止めのソルベ君。
爆風で焼けた背中が痛い模様。
扉もない部屋。
俺はどうやってここに入れられた?
ここはどこなんだ、そもそも。
うつ伏せで見渡す。
すべて壁に囲まれて。なんとか仰いだ天井すらも壁に見える。
四角の世界。何もない、なにも起きない、そう、それはなにも見えないのと一緒。

  ソルベ:「もうちょっと…寝よ…」

ぱたり。
大人しくなったソルベがすぐに寝息を立てる。
もうちょっと、待とう。
せめてココが一体なんなのかが分かるまで。

その頃。
そんなソルベとは裏腹に眠れぬ目を擦りながら
車のシートに身をゆだねる男が3人。

ギアッチョ:「こんな所で張りこんでないで、突っ込みゃぁ良いんだ」
イルーゾォ:「アンタのそう言う行動が駄目なんだ、って言ってんじゃねぇか、ぶゎか」
ギアッチョ:「なんだとぉあほぉ」
 リゾット:「眠いなら余計な喧嘩をして体力を使うな」
イルーゾォ:「なぁなぁ、テレビみたいに変わりばんこで寝よーよぉぅ」
 リゾット:「それは気がつかなかった、よい案だ」

張りこみ始めてから3日目。もっと早くそれに気づこうね。
ドグラマグラの舞台、岬の上に建っていた塔の見える場所で、こうやってもう既に3日。

ギアッチョ:「こんな事がなんの役に立つんだ」
イルーゾォ:「さぁ」
ギアッチョ:「意味ないのか」
イルーゾォ:「知らん、けどリゾットはそうしろって言ってるし」
ギアッチョ:「もういい加減俺はイヤになったぞ…今日何もないようだったらもう俺は単独で動く!」
 リゾット:「まぁ急くな。言ってみれば相手待ちなんだからな」
ギアッチョ:「あ?」

眠そうな顔に煙草を咥えて夜にも恐ろしい顔のギアッチョ。
塔の方を見たまま答えないリゾットに舌打ちをする。

ギアッチョ:「今日までだからな、後はお前達とはおサラバだ」
 リゾット:「まぁそれでも良いだろう、とにかく寝ろ、俺が見ている」

ふてくされたようにリゾットを睨み付けると、車の後部座席に沈みこむ。
こいつは何を考えているのかよくわからない節がある。
そもそも警察の俺がなんで犯罪者と付き合わねばならんのだ。
本当に、ばかげている…こんなやつと一時でも組んだ俺が馬鹿だったんだ…。
そうだ、俺が…馬鹿だったんだ…

寝入ってしまったイルーゾォとギアッチョをちらりと見る。

 リゾット:「登場人物か…」

フ、と、笑みを洩らしたように見えたのは気のせいだったろうか。
塔は、その残骸をいまだ残して
その影だけが其処に聳え立っているようで。
本当に動くのは誰?





貴方は…、一体誰を信じますか?
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