ドグラマグラ 2−7

1階、2階、3階…そこら中探りまわった後、6階までやっと到達する。
エレベーターから顔を出して、また同じ風景なのにため息をつく。
一気に老け込んだような顔をして、オッサン臭いギアッチョ。

  ギアッチョ:「こりゃもう、スクアーロのヤツとのご対面はのぞめねぇか…?」
    ソルベ:「どこ行っても事務机しか置いてねぇな」

それでも一つ一つの机の内部を確かめる。
何も入っていないもの。ネズミの死骸が出てくるもの。
頭が痛くなってくる。
ギアッチョが苛立ったように机を蹴っ飛ばした。
ソルベもため息をついて、窓の外を見やる。
そのまま頭を回して、さっき乗ってきたエレベーターに眼を向ける。
もうあのボタンも押し飽きたなぁ。
一回で乗りこむときはボタンの取り合いまでしたのに。って、子供かあんたらは。

    ソルベ:「…!ギアッチョ!」
  ギアッチョ:「なんだうるせぇな!」
    ソルベ:「誰か居やがるぞ!」

机を押し倒して、ギアッチョがエレベーターの表示に食らい付く。
最上階へ登っていくエレベーター。
最上階は…10階だ。
その上に屋上があるらしく、空白のランプが明滅する。

    ソルベ:「階段は?」
  ギアッチョ:「ここにはねぇ…チッ、気づかれたか…こっちに来る気かもしれねぇ」
    ソルベ:「素通りされちゃかなわないな」

エレベーターのボタンを押しておく。
コレで通りすぎずに1度扉が開くはずだ。
光るランプに目が釘付けになる。
一つ一つ…ランプが降りてくる。
鼓動が早まる。
臨戦体勢を整えるべく、開くドアにそなえて構える。
ドキドキドキドキ。
ピーン。
かすかな音と共に、エレベーターが開いた。
そこでこちらをじっと見ていたのは…。

    ソルベ:「ジェ、ジェラート?!なんでここに!」

その通りジェラート君。
不思議そうな顔もせずに、当たり前のように降りてくる。
  
  ジェラート:「ここに居たんだ。」
    ソルベ:「って。お前、どうやってここが分かって…」
  ジェラート:「スクアーロに聞いたんだよ。」

そう言うとにこりと笑う。
ギアッチョがソルベを強く引き下げた。
腕をつかまれてそれを強く引かれ、こけそうになるソルベ。

    ソルベ:「何すんだクルクル頭!」
  ギアッチョ:「余計な口を叩くな。スクアーロだと?なんでお前がスクアーロと接触する」

微笑んだまま、ジェラートが近寄ってくる。
すっとソルベに向かって手を差し出す。
誘惑の瞳?イヤそれはソルベビジョン。心ここにあらず。宙に浮いたような瞳が、ソルベとギアッチョを見比べる。


  ジェラート:「そろそろ…塔に行こうよ…」


差し出した手に握った小瓶。
それを後ろ手に、ひょいと投げる。
エレベーターの閉まる扉に向かってそれが飛んでいく。
扉の隙間をすり抜けて。
小瓶がエレベーターの床に落ちる。

ドォォォオンン。

低い衝撃。
天井から埃や破片がかすかに落ちる。

    ソルベ:「ジェ、ジェラート…まさかお前本当に……!!!」
  ギアッチョ:「近寄るな!コイツ催眠状態だ!」

ギアッチョがなおも腕を引くが、それをいとも簡単に振り払う。
ラブパワー炸裂!って、そんなこと言ってる場合じゃない!
ポケットからもう一つの小瓶を取り出す。
近づこうとしたソルベにそれを向ける。
ソルベが後ずさりする。ゆっくりとそれをジェラートが追う。

    ソルベ:「本当に…ジェラート…お前俺が分からないのか。」
  ジェラート:「……塔に行こうよ。ドグラマグラ…」

外が見えるガラス張りの壁。
追い詰められて、窓から下をチラと見る。
脳天がくらくらしそうな高さ。
スリル万点。いや、ッて言うか死にますよ、この高さ。
ギアッチョがホワイトアルバムを出そうとするのをソルベが片手で制する。

    ソルベ:「ジェラート…。」
  ジェラート:「ライヘになるんだ!あはははははは」

小瓶が落ちる。
爆発と共に、窓ガラスが爆風で吹っ飛ぶ。
その風に煽られて、ジェラートがふらりとゆれる。
爆風で床に穴があき、埃と破片が舞う。かすかに掻き消えて見えなくなるジェラートの姿。
ギアッチョの罵倒。
ソルベの腕が、ギアッチョを部屋の隅に押し飛ばし、
視界からジェラートとソルベが掻き消えて見えなくなる。

  ギアッチョ:「…!ソルベ!何を…ざけんなこのヤロォォッ!」

撒き上がる煙の向こうに居るジェラートに掴みかかる。
ソルベの腕が近づく。
たち尽くしたまま、ジェラートが笑った。

  ジェラート:「離さないよ、僕のライヘ…」

スラリ。
両手に合計4つの小瓶が並ぶ。
薬品で起きたらしい爆風が、目にしみてジェラートが見えない。
宙に小瓶が舞う。
爆音。そして撒き上がる爆風。
爆風に吹き飛ばされて、ギアッチョは壁に頭を打ち付けた。
ぐらり。揺れる視界。
爆風に目がかすむ。

何も見えなくなる…

爆風に煽られて、吹っ飛んだ窓ガラスから風が吸い出される。
ジェラートの腕を掴む。
笑う、笑う人形。
頬を涙が伝う。
背中が焼けるように痛い。風は部屋にあったものをいくつか巻き上げてビルの外に吐き出した。

痛む背中を丸めて、抱きしめる。

風も破片も罪もすべてこの身に…食らえ。







ぱらぱらと落ちてくる破片に肩を小突かれて目を開く。
何が起きたんだ。吹っ飛ばされたところまでは覚えてる。
少し動くと、頭の後ろがズキズキと痛んだ。
あいまいな記憶で、吹き飛んだ窓ガラスと散乱する事務机を見る。
散々な目に…

   ギアッチョ:「……ソルベ…?」

何も居ない。
誰も居ない。
爆風が収まり、吹き込む風だけが俺をかすめる。
よろよろとたちあがる。
そんなわけがねぇ、そんな筈がねぇ。
アイツ俺を突き飛ばしやがった。
知ってたんだ、ジェラートが大きな爆発を起こすと言うことを。
俺を、突き飛ばしやがった。
小さく笑いながらこう言いやがった。
…頼む。
勝手だ、勝手過ぎなんだテメェは!!俺に物を頼むな!勝手に押しつけんな!
勝手に…俺を助けたり…するな。
ビルにあいた空白から、落ちそうな心を引きずって下を見る。
散乱する破片。

   ギアッチョ:「……馬鹿野郎…」

俺に、すべてのしかかってくる。
ホワイトアルバムで凍らせた机を繋げて、地面までなんとか降りることに成功する。
始終、言葉が出ない。
降り立った地面に、飛び散る血の染みを探す。
探す。
破片。曲がった机。舞い跳ぶ白い紙。
二人の跡が…ない。

希望のような。恐怖のような。
妙な渦が身体の内側に巻き起こる。
白い紙を手に取り、ちらりと眺める。

行かなきゃならねぇ。俺は。
このシナリオは…誰かの書いたものじゃねぇことを証明するために。
俺達の存在を確かにするために。

    
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