ドグラマグラ 2−5

ガチャン。
ガラスの音。しかも砕ける音。
それと同時に慌てる声。

  イルーゾォ:「うわあ!なんか割っちまった!ヤベェ!」

大慌てのイルーゾォ。
っと、ここはどこかって?
イルーゾォのいる地下一階からは外が見えない。が、
湿った空気が流れてくる。
外の様子を見に行っていたホルマジオが戻ってきた。

  ホルマジオ:「何やってんだよイルーゾォ?」
  イルーゾォ:「ガラス割っちまった〜これ高ぇのかな?」
  ホルマジオ:「いや、それははじめっから割れてた!」
  イルーゾォ:「そ、そーだよな!」

おいおい、いいのか?それってメローネの所蔵品じゃない?
そう、ここはメローネの別荘。
ある湖のほとりに立てられた小さな別荘。
日本にある別荘と違って規模が大きいのだ。
無論、この別荘からほかの別荘が見えるなんて事はない。
しきりにホルマジオが感心している。

  ホルマジオ:「イイ別荘だよなァ…地下まであってよぉ」
  イルーゾォ:「ほんと、地下だけでいいから俺に分けて欲しいぜ」
  ホルマジオ:「地下と、美術品をか?」
  イルーゾォ:「駄目かな」
  ホルマジオ:「駄目だろ」
  イルーゾォ:「ケチ」
   メローネ:「ケチで悪かったな」

うわあ!とお決まりの声をあげてイルーゾォが飛びのく。
裸の彫像に抱き付いてメローネを見る。
突然だもんね。扉の開く音さえもしなかったしね。

   メローネ:「君達がイルーゾォとホルマジオか。リゾットから話は聞いている」
  ホルマジオ:「あんたがメローネか、よろしく。」
  イルーゾォ:「……ごめんなさい」
   メローネ:「ん?」
  イルーゾォ:「許して?」
   メローネ:「何がだい?」
  
そっとイルーゾォが指差したそこにはガラスの破片。
メローネがそれを一瞥する。
はじめっから割れてたことにするんじゃなかったのかイルーゾォ?

   メローネ:「ああ。それは時下3千万程度のものだ」
  イルーゾォ:「イギャアアア!!」

妙な声をあげるイルーゾォ。
メローネがガラスの破片を拾い上げる。

   メローネ:「これは加湿用の水を入れていた時下100円のグラスだな」

イルーゾォヘナヘナになってますが。

  イルーゾォ:「じょ、冗談キッッツイっすよ〜って、あれ?3千万ってのは…」
   メローネ:「君が抱いている男が3千万だ」

どひゃあ。
慌てて彫像を放すイルーゾォ。
ホルマジオがニヤニヤ笑ってますが。

  ホルマジオ:「ところでメローネさんよ。
         ここを狙ってるってのはいったいどんな奴なんだ?」
   メローネ:「リゾットから聞いてなかったのか…スクアーロだ。」
  ホルマジオ:「へぇ!?魚野郎が?!ど、どう言う…」
   メローネ:「本当はチョコラータだ」
  ホルマジオ:「は?」

ホルマジオとイルーゾォが固まりました。
そりゃ突然そんなコトいわれてもねェ。
学校教師メローネ。生徒ホルマジオ&イルーゾォ。
簡単かつ分かりやすい講義を受けて東大も合格だね。

  ホルマジオ:「そ、そんな複雑なことになってたのか…」
  イルーゾォ:「チョコラータの野郎を逃がしたのが痛いよなァ」
   メローネ:「おそらくチョコラータかスクアーロがここへ来るだろう、
         そう踏んでリゾットは君達をここに。」
  ホルマジオ:「ところがどっこい、まだ誰も来てねェんだよな。」

美術品の貯蔵庫はかなりの広さだった。
一階から上の別荘よりも、何倍かの広さがある。
手分けして見まわる3人。
また奥のほうで、ガチャン。ひゃー!という声が聞こえている。

   メローネ:「腕は立つが、おっちょこちょいか…。適当な表現だな」

一人うなずくメローネ。
慌てなさいって。
良く見るとあちこちに水の入ったグラスがおいてある。
美術品の乾燥防止用。美術品は乾燥するともろく劣化する。
奥のほうまでやってきたイルーゾォ。
大きな装飾の施された鏡を見つけて、みとれてます。

  イルーゾォ:「金かかってそうだな…高そう〜」

ガボン。
ん?
何か音がしたような。
振り向くイルーゾォ。美術品の群れ。
気のせいか、と鏡に向き直る。
自分がうつっている。頭の先からつま先まで。
自分の後ろに影のように寄り添って何かが立っている。

  イルーゾォ:「何ッ!?」

叫ぼうとしたイルーゾォの口をふさぐ手。
後ろから羽交い締めにされてマトモに動けない。

  イルーゾォ:「ぐ…ッ」

鏡を見て相手を確認する。
ゴムスーツをまとったような体。見開いた目。
自由になる腕で相手の腹に肘鉄を入れる。

    セッコ:「きかねぇなァ〜腹に入れるときはこうやるんだァよぉ…」

イルーゾォの鳩尾に一発。
セッコの踵が深く入る。

  イルーゾォ:「んぐぅ…!」

気が遠くなりかける。
ふらりと倒れかけたイルーゾォからセッコが手を離した。
鏡が目の前にある。

  イルーゾォ:「リベンジだ…ッ」

ガシ。
セッコの腕を握る。
マンインザミラーは鏡の中。
慌てたセッコが倒れかけたイルーゾォの腹に何度も蹴りを入れる。
掴んだ腕は離さない。
蹴られた衝撃でイルーゾォの体が鏡にぶつかる。
こなごなの破片。衝撃音。
自分を呼ぶホルマジオの声が、遠くから聞こえたような気がした。

    セッコ:「しつこいんだよっ!離せ!このぉぉッ!」
  イルーゾォ:「離すか…鏡を割ったな…割りやがったなァッ!
         ホルマジオ!来たぞ!泥の野郎とチョコラータの野郎だッ!
         …マン…インザミラー!」
    セッコ:「このやろぉぉぉぉ!!うわあああ」

バシュン。
駆けつけたホルマジオの目には割れた鏡の破片しかうつらなかった。
メローネも何事かとやってくる。

  ホルマジオ:「イルーゾォの奴、鏡に入りやがった…!」
   メローネ:「どう言うことなんだ」
  ホルマジオ:「相手のスタンドが鏡の外に残ってねぇ…
         スタンドごと引きずり込みやがった…どうする気なんだ、イルーゾォ…!」

ただただ、割れた破片を見つめることしか出来ない。
もうすでに見えない。何が起きているのかも、何が起きるのかも。
地下への扉からかすかに漏れた明かりは
メローネとホルマジオの目には入らなかったろう。
ジェラート。ライヘが集うよ。
ドグラマグラ博物館。事実の連携たる美術品。
物語は完結した。ライヘを集めよう。

傷をつけてはイケナイよ。

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