ドグラマグラ 2−4

塔がそびえたつ工場地帯…
人はこれに称をつけてビルと呼び習わす。
立ち並ぶビルの群れ。工場で囲まれたビルの群れ。ライヘの証。
ひときわ大きくそびえ立つビルディング。フェァレディはその前面に乗り付けた。
苛立つようなエンジン音が止まり、かわりに苛立った人間が地に足をつける。
 
  ギアッチョ:「
ガリアーノ貿易ビル。ここだ。」
 
ビルの名前を確かめてそれを見上げる。
しんとしたビル。
あたりに人がいないのも不気味だ。
工場は動いているらしいが…低い音があちこちから聞こえてくる。

    ソルベ:「正面突破だよな」
  ギアッチョ:「小手先はいらねェ」
    ソルベ:「んじゃ失礼」

そう言うが早いか、手に持ったスーツケースを握り締める。

  ギアッチョ:「うお…!」

慌ててギアッチョが離れて耳をふさいだ。
ガバァアアアアアン!
ソルベの右手のスーツケースから、白煙を巻き上げて何かが扉を破壊する。

    ソルベ:「入り口開いたぞ」
  ギアッチョ:「馬鹿野郎!目立ってどうする!」
    ソルベ:「さっき調べた。一階に人の影はない。」
  ギアッチョ:「……。」
    ソルベ:「人の体温に相当するものは一つもないから安心しろ」
  
ギアッチョが珍しくつかれた顔してますよん?
おそらく彼の言いたいコトはこう。
そう言う意味じゃねェんだよ。とね。
ソルベの小型バズーカであいた穴は直径1メートルほど。
つかつかと歩み寄ると、中を除きこむソルベ。
こいこい、と手招きをしている。
つられてギアッチョが覗きこむ。

    ソルベ:「な、人いねぇだろ?」
  ギアッチョ:「…人がいないというより…」
    ソルベ:「いうより?」
  ギアッチョ:「何もねぇじゃねェかぁ!?」

そうその通り。
中を覗くとあら不思議。
ビルの中には受け付けも、ソファーも、机も、観葉植物も。
そして言わずもがな人さえも、
何もない。
まるで出来立てで、何も運び込んでいない状態だったのだ。

    ソルベ:「どう言うことだこりゃ…」
  ギアッチョ:「人がいないといったな?」
    ソルベ:「ああ。」
  ギアッチョ:「スクアーロもいないということか…無駄足だったのか…クソ…」
    
ビルの中に入り、あたりを睨み付けながら歯軋りをするギアッチョ。
まあ待てとばかりにソルベが近場のエレベーターのボタンを押す。

  ギアッチョ:「お、おい、何やってる」
    ソルベ:「これだけ高いんだ、一階以外にいるかも知れねぇだろ」
  ギアッチョ:「このビルに電気が通ってるように見えるのか、てめぇのこの目はァ!?」

チーン。
……
エレベーターの扉が無造作に開く。無言の間。閉じる。

  ギアッチョ:「開いた…」
    ソルベ:「閉じた…」

何やってんだ二人とも〜…
もう一度ボタンを押そうとするソルベをギアッチョが制する。

  ギアッチョ:「まて、ちょっとここで調べておきたいことがある」
    ソルベ:「?なんだよ?」
  ギアッチョ:「この情報元のメローネが閉じ込められていた部屋を明らかにする。」
    ソルベ:「メローネ????」
  ギアッチョ:「奴の罠かもしれない可能性だってあるわけだからな…」
    ソルベ:「ちょっと待て、メローネ?」
  ギアッチョ:「ああ。」
    ソルベ:「何でメローネ??」

たまねぎ君が困惑してますよギアッチョ君。
そう言えば説明してなかったね。
はぁ、とため息をつくと、反対側の壁に並ぶドアの群れに近づきながら
リゾットのバーでの出来事をかいつまんで話す。
たまねぎ君が、納得し始めたらしいよ。

    ソルベ:「んじゃ、あの奥の爆発跡がある扉はメローネがやったものだということか」
  ギアッチョ:「どれだ?」  
    ソルベ:「一番奥」

ギアッチョが暗闇に目を凝らす。
近視なんだから無理しないで近づきなさいって。
途中であきらめて近づいてうなずいてる。

    ソルベ:「また目悪くなったんじゃねェ?」
  ギアッチョ:「うるせぇ」
    ソルベ:「あの爆発跡は薬品だな…ジェラートがよく言ってた。」
  ギアッチョ:「ジェラートが?」
    ソルベ:「火薬製の爆弾と薬品製の爆弾の違いは
        焦げ跡があるか、ないか、なんだとさ。」

誇らしげに言うソルベ。
確かに壊れた扉には、焦げた後が一つもない。

    ソルベ:「ちなみに薬品性であるから、あまり容易に近づかないほうがイイらしい」
  ギアッチョ:「さ、先に言え!」

慌てて飛びのく。
遠巻きに部屋の様子をうかがうが、そこにも何もないようだった。
顔を見合わせてため息の二人。
気合入ってたのに何もなくって行き場がないといった状態だねぇ…

そのころ、行き場がないといった表情で町を歩いていたのは
一人残されてしまったジェラートだった。

  ジェラート:「勝手に一人で行っちゃうんだから…」

ソルベのギアッチョに対する反応から、
どう考えても、「追っていくのだろう」と察してはいたが…
まさか置いてきぼりとはね。寂しいねジェラート君。

  ジェラート:「おかげで僕が課長に怒られちゃったじゃない。後で酷いんだから」

すねたように唇を突き出して繁華街を歩く。
その一角で立ち止まり、あたりを見回すジェラート。
何かを探しているようだった。

  ジェラート:「えっと…このあたりだって言ってたんだけど…」

きょろきょろ。
ジェラートが探しているのはある店の名前。
そこに来てくれ、とある人物から連絡があったのだった。
ある人物。誰よ?謎発生?
コツコツ。
壁を叩く音にジェラートが振り向く。

  ジェラート:「そこにいたんだ…」

目線の先で親しげに笑う男。
目元が優しげにほころんでいる。

  +++++:「……ジェラート…ドグラマグラにライヘが集うよ」

スクアーロはそう言うと、もう一度優しく微笑んだ。
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