ドグラマグラ 2−3

ギアッチョの形相に、メローネまでもがあとずさる。

   メローネ:「な、何だと?じゃあスクアーロは…」
  ギアッチョ:「だから言ってんだろ、自分の意思なんか持っちゃいねぇ!」
   メローネ:「……洗脳か…」
  ギアッチョ:「ああ。うちの刑事が一人洗脳されかかった。」
   メローネ:「スクアーロから聞いている。ジェラートと言う男だろう?」
  ギアッチョ:「ったく…こんがらがって来やがったぜ…」

リゾットが注いだ薄めのテキーラに口をつけながら、ギアッチョがごちる。
ギアッチョが良く利用する情報屋。それがリゾット。
リゾットの話によると、どうやらメローネとは昔からの仲らしい。
……なんだか怪しい匂いがぷんぷんしますわ!

  ギアッチョ:「そうと分かればそのスクアーロとか言うやつを保護して…」
   メローネ:「しかし、まだそこにいるかどうか…」
  ギアッチョ:「なに?」
   メローネ:「昨日スクアーロに誘拐されかかったんだ。俺に自白剤を飲ませて、
         俺のコレクションの隠し場所を聞き出そうとした。」
   リゾット:「正確には、『聞き出された』んだろう」
   メローネ:「……そしてなぜか、そのまま俺まで拉致された。」
  ギアッチョ:「誘拐されかかったんじゃなくて、されてんじゃねぇか」

むっつりとした顔をしてギアッチョとリゾットをつまらなそうな顔で見るメローネ。
カッコつけたかったんだよね。でもカッコつかなかったんだよね。あはは。

  ギアッチョ:「拉致された場所はわかってるのか?」
   メローネ:「ああ。」
   リゾット:「ちょっと待て、行こうって言うのか?」
  ギアッチョ:「ワリイか。刑事はまず現場から捜査すんだよ。
         んじゃなにか?他に手がかりがあるってのか?あ?」
   リゾット:「そうは言ってない、危険だと…」
  ギアッチョ:「関係あるか。場所教えろメローネ。とにかくスクアーロのやつを止める。」
   メローネ:「そうすればチョコラータ自身が動くだろう、と言うことか。」
  
フン、と頷いてメローネが手持ちのPCを開く。
何かが回転するような不思議な起動音がして、画面が開く。
メローネが軽くキーを操作しているのを横目で見ながら、テキーラの残りを一気に煽る。
げほげほ。
むせてます。カッコ悪っ!

   メローネ:「この地図を記憶してくれ。もしメモしてそれが誰かの手に渡ったら…」
  ギアッチョ:「……分かっている…この場所は…
         たしか、海沿いの工場地帯のビルじゃねぇか?」

メローネが赤くマーキングした場所、その位置を指で指しながらギアッチョが言う。

   メローネ:「そうだ。俺がいたのはこの大きなビルの1階だった。」
  ギアッチョ:「しかしここは…廃ビルではなかった…
         所有者がいるようなビルに何故…」
  
二人の言葉にPCを覗きこむリゾット。
液晶画面だから横から見てもなにも見えないよ。
そろそろと後ろに廻りこんで、ほら、やっと見えた。

   リゾット:「このビルは確か貿易会社のビルだな。
         創業したのは最近で、実績もたいしてない。
         なのにビルだけは一番高いんだ。
         金持ちの遊びだろうと言うウワサもある。」
  ギアッチョ:「……ますます匂うぜ…!そうと分かれば速攻だッ!」
   メローネ:「待て!内部も知らずに…」
  ギアッチョ:「うるせぇ!黙ってろ」
   リゾット:「ギアッチョ。脱獄されて気が急くのは分かるが…。」
  ギアッチョ:「黙れ。ここから先は俺がやる。テメェらは自分の心配でもしてろ」

バン。それだけ言い放つと、
バーの扉を勢い良く押し開けてギアッチョは出て行ってしまった。
顔を見合わせる二人。コントのように息のあったタメイキ。

   リゾット:「相変らず短気なヤツだ…」
   メローネ:「単細胞でもあるな」
   リゾット:「理論派なんだがなぁ…」
   メローネ:「だが気に入った。あの男は面白い…
         俺は出かけるが、お前はどうする?」
   
カラン。
空になったグラスの氷を傾ける。
それに指で触れる。
リゾットのその癖をメローネは昔からよく知っていた。

   リゾット:「この店を閉めるわけにはいかないのでね。」
   メローネ:「組織ってのは大変だな…」
   リゾット:「メローネ。当分ここに帰ってくると良い」
   メローネ:「恩にきる。ではな…」

スルリ。音も立てずに立ちあがる。
気をつけろ。
小声でリゾットが言う。それに小さく頷くメローネ。
リゾットが軽く何かをメローネに押しつけた。

   メローネ:「……これは…写真?」
   リゾット:「それがイルーゾォとホルマジオだ。
         そいつ等が君のコレクションを守ってる。」
   メローネ:「スタンド使いだな?」
   リゾット:「ちとばかりおっちょこちょいだがな。仕事の腕は保証する。」
  
それにかすかに笑って答えると、メローネもまたバーを出る。
あたりはもう薄暗い…。

郊外の工場地帯。
海に面したビルの群れ。
白いフェアレディ240ZGが爆音をあげて通りすぎた。
冷静を保つが、どうしてもハンドルを持つ手に力が入る。

  ギアッチョ:「この落とし前は…俺がつける…」

ドドドドォン。

ギュルルルルル!
突然目の前に飛び出してきたなにかに驚いて、慌てて急ブレーキを踏む。
目の前に止まったのは1台の黒い単車だった。
臨戦体制を整え、車の前に立つギアッチョ。足元から冷気がまきあがる。

  ギアッチョ:「なにモンだ?」
  
ガルルルルン。
単車のエンジン音が低く響く。
その単車の人物がメットを取った。

  ギアッチョ:「な…なんでここに…」
  
ギアッチョを睨み付ける、切れ長のきつい瞳。
その目でギロリとギアッチョを睨むのはソルベだった。
どうよ、この凛々しさ。惚れそう?

    ソルベ:「足りねぇんだよテメェはいつも!」
  ギアッチョ:「…の野郎!轢き殺されてぇか!」
    
睨み合うギアッチョとソルベ。
ヤンキーのガン付け合い?
と、不意に車に乗りこむギアッチョ、エンジンをふかすソルベ。
一触即発…?……
ガルン。
ギアッチョを無視するかのようにソルベの単車が向きを変えた。
メットを持った手で、振り向きざまギアッチョを指差す。

    ソルベ:「テメェ一人が口惜しいんじゃねぇんだよ。俺にも少し分けやがれ」
  ギアッチョ:「……暴れてぇか」
    ソルベ:「…当然だ」

ギアッチョが顔をそむけた。
ぽつりとつぶやく。

  ギアッチョ:「お節介な野郎だ…」

眉をひそめて微かに笑う。少し気持ちが落ちついたようだった。
…ドグラマグラはどこにある?
迷いこむのは誰となる?
ドグラマグラは…どこにある。
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