ドグラマグラ 2−2

うなだれたまま歩く。
ここのところ、地面しか見ていないような気がする。
俺には地面がお似合いだ。これ以上深く頭を垂れる事は出来ない…

  ジェラート:「ギアッチョ…」

そんな状態のギアッチョを見てずっと心配しているジェラート。
幾らなんでもソルベがヤキモチ爆発気味だよ?
ほら、ホッペがむっつりしてる。

    ソルベ:「ジェラート。ほぅっておけ」
  ジェラート:「でも……。うん…」
    ソルベ:「自業自得だ、自分の責任なんだからしょうがねぇだろ」
  ジェラート:「…うん…」

意味ありげにソルベをちらりと見ると、ジェラートは押し黙ってしまった。
妙な沈黙が流れる。
ギアッチョは下をむいたまま何かつぶやいていた。
ぶつぶつぶつ。ずっと。頭に手を当て、そして納得できないと言った風に横に振る。
不意に立ちあがると、部長の所へつかつかと歩みより、
二言三言何か言うと、そのまま出て行ってしまった。

    ソルベ:「なんだろ?」
  ジェラート:「休暇申請したみたい」
    ソルベ:「なんで分かるの」
  ジェラート:「唇読んだの」
    ソルベ:「やっぱお前は情熱の赤い薔薇だ…」

惚れ直したと言った面持ちでジェラートを抱きしめそうになるソルベ。
やめなさい公共の場ですよ!まったくもう。
去って行くギアッチョの背中を一瞥すると、ソルベはフン、と鼻を鳴らした。


カランカラン。
乾いた音を立てて鈴がなる。
さびれたバーの奥の四人がけ。
入って来た客をみとめ、四人がけに座っていたマスターが立ちあがる。

   マスター:「すみませんまだ準備中なモノで…」
   ++++:「固いことを言うな、リゾット。」

薄暗い灯りに金色の髪が微かに反射する。
口元が親しげに微笑んでいた。

   リゾット:「……君か…メローネ。…話は聞かせてもらったよ。」
   メローネ:「水を1杯貰えるか?」
   リゾット:「ああ。ソコに座るといい」
 
リゾットがアゴで示したカウンターに座る。
なんぞサマになりますな。イイ男が二人。バーで語らう午後のひととき。

   メローネ:「すまない…俺の失態だ。」
   リゾット:「安心しろ、君のコレクションはイルーゾォとホルマジオが守ってる。
         いや、貸し借りは無しだ。
         そうそう、後でイルーゾォ達と合流して、
         ドグラマグラの話を聞いておいたほうがいいだろう。」
   メローネ:「?」
   リゾット:「あのスクアーロとか言うヤツ…俺の調べた所だと前歴がない。
         裏に関してはズブの素人のはずだ。」  
   メローネ:「いや、そんな風には見えなかったぞ?」
   リゾット:「俺の情報網に引っ掛からないと言う可能性もあるが…」
   メローネ:「国家レベルの犯罪者ならそう言うこともありえるか」
   リゾット:「おそらくまた追ってくるだろうな…
         スクアーロが狙っているものはお前のコレクションのようだな?」
   メローネ:「だと…思うんだが…」
   リゾット:「何か引っ掛かるのか?」
   メローネ:「ちょっと腑に落ちない事が……。
         ……?…奥の部屋は開いてるか?」

リゾットが無言で頷くと、メローネはスルリと姿を消した。
リゾットは何気なくグラスなどをふいている。
その状況が整ったと同時に、カラン。入り口の扉が開いた。

   リゾット:「申し訳ありません、まだ閉店中でして…」
   ++++:「お前の情報が必要だ」
   リゾット:「……!!ギアッチョ?!ひ、久しぶりだな…」
   
一瞬困惑の表情を見せるリゾットにお構いなくカウンターの席にかける。
相変らずズウズウしさはピカイチ。
目をそらすリゾットの前に顔をグイと突き出す。

  ギアッチョ:「チョコラータだ!あいつの事で何か情報入って来てないのか?」
   リゾット:「チョコラータ?この間検挙したとか言う?」
  ギアッチョ:「とぼけんなよ…ここの組織見逃してやってんのは
         情報があるからなんだぜ?」
   
ふぅ、とため息をついてギアッチョに向き直るリゾット。
目線が合う。

   リゾット:「チョコラータの情報はあいにく何もない。
         牢屋のなかのチョコラータ本人に
         聞いた方がいいんじゃないか?」
  ギアッチョ:「脱獄したんだよ」
   リゾット:「はぁ!?」
  ギアッチョ:「素っ頓狂な声を上げるな。こっちの情報は出したぜ!」
   リゾット:「それはそれは…」
  ギアッチョ:「ッたくよぉ…あいつまた何か狙ってやがる…
         わざと捕まりやがったんだ。
         そんで何かあの事件で掴んだ物があるはずなんだ」
  
ピクリ、とリゾットが動く。
グラスを拭く手を止める。
小動物のように小首をかしげる。ハムスターライクリゾットニイチャン。

   リゾット:「掴んだもの??」
  ギアッチョ:「じゃなきゃあんな面倒な芝居しやしねぇ!
         あのとき…チョコラータはすべての美術品を
         メローネに盗難されて…塔が壊れて…スクアーロは逃げたし
         ホルマリン漬けも回収した!
         クソッ!失った物ばかりじゃねぇか!」
   メローネ:「その話…詳しく聞こうか」

カチャ…小さな音を立ててリゾットの背後の扉が開く。
真剣な表情のメローネがソコでギアッチョを睨んでいた。

  ギアッチョ:「何もんだテメェは…」
   メローネ:「君はチョコラータを捕えたいんだな?俺も情報が欲しいんだ。」
  ギアッチョ:「何ッモンだっつってんだよ」
   メローネ:「俺は、おそらく君と利害が一致する者だ。」
   リゾット:「おい…」
   メローネ:「大丈夫、この刑事は俺を捕えない」
  ギアッチョ:「……なんでそう思う」
   メローネ:「俺はメローネ。興味があるか?」
  
ガタン!椅子を蹴って立ちあがるギアッチョ。
目を丸くしてメローネを見ている。
10年ぶりの友達に再会したときのような驚き?…ちょっと違うか。

  ギアッチョ:「てめぇ!なんで俺の前にノコノコと!」
   メローネ:「俺はあの事件でスクアーロと組んでいたんだ。」
  ギアッチョ:「何…?!な、なんでスクアーロが!アイツただの素人じゃ…」
   メローネ:「ソコが俺にもわからない。俺に情報を流し、
         そしてあのドグラマグラの一件を仕組んだのはスクアーロだったのさ」
  ギアッチョ:「んじゃチョコラータはスクアーロに仕返しを…?…ん?」
   メローネ:「違うのか?」
  
バン!拳でカウンターを叩く。
震えたまま動かないギアッチョ。
覗きこんだら凄い形相。チラと覗いたリゾットがその場で凝固している。
怖いもんね、ギアッチョの顔。

   メローネ:「オイ…」
  ギアッチョ:「あの野郎!やっぱり、やっぱそうだったんだ!
         あの野郎、ハナッから仕組んでやがった!」
   リゾット:「ど、どうしたの」
  ギアッチョ:「チョコラータの野郎!スクアーロ操ってやがる!」
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