ドグラマグラ 10

カツン。足音がやけに響く部屋。
1つ歩くたびに、嫌そうな顔をするジェラート。
ソルベがその肩を抱く。ぐは。
階段を上がった先にあったのがこの部屋…

  ジェラート:「ココが鏡の部屋…チョコラータはここに人を閉じこめて、
         ソレが狂っていくサマを見るのが好きなんだ…」
  イルーゾォ:「悪趣味だな…最悪だぜ」
  ホルマジオ:「同感だ。」
 
見るところすべて鏡。鏡に鏡が写って終りのない世界が其処に広がるような。
自分を見つめる自分。その自分を見つめる大量の自分…

  ギアッチョ:「気が狂いそうだぜ…チッ…」
 
パキン。1つの鏡がそろりと動いた。
ソルベが銃を構える。
ソレを片手で制するジェラート。
其処から出てきたのはスクアーロ本人だった。

  ジェラート:「テラスにいたの?」
  スクアーロ:「…ああ。ココよりは居心地が良いからね」

見つめ合うスクアーロとジェラート。
後ろで歯軋りしているのは、ソルベと言う名の男だったような。
聞くと、鏡はいくつかの出入り口になっており、テラス、下り階段などの扉があるらしい。

  ギアッチョ:「そんじゃー昇り階段は、どの扉だ?」

スクアーロが目を閉じて軽く頭を振る。
そのスクアーロの代わりにジェラートが言った。

  ジェラート:「僕も探したんだけど、無かった。
         下の階に行くにもチョコラータの許しが必要だったんだ…」

そう言って俯くジェラートの後ろで涙ぐんでいるのはソルベとか言う名前だったか。
イルーゾォがしきりに鏡をなでている。
ホルマジオがそれに気づいて覗きこんだ。

  ホルマジオ:「なにやってんだイルーゾォ?」
  イルーゾォ:「この…この鏡に俺が入ったら、多分出られなくなるような気がする…」
  ホルマジオ:「オイオイ、なに言ってんだ、鏡はお前のスタンドの…」
  イルーゾォ:「この鏡には出口が1つしかないんだ、扉は無限にあるのに…」

くらくら。ふらりと倒れそうになるイルーゾォを慌てて掴むホルマジオ。
鏡酔いってヤツですか。しかしココから上の階段はないらしいよ?
ギアッチョが鏡をコンコンとたたく。

  ジェラート:「割ろうとしても無駄…塔の壁自体が鏡になってるみたいなの」
  ギアッチョ:「ますます気持ワリイな…しかし必ずどっかに出口があるはずだッ」
  スクアーロ:「無いといっているだろう…俺だってずいぶん探したのだ。」
  ギアッチョ:「んじゃチョコラータの野郎はどこにいるッてんだよ!上だろ?!」
    ソルベ:「でもチョコラータの野郎だって上にあがれねぇだろうが」

ん?
ギアッチョとソルベが顔を見合わせる。
上?うえ?

  ジェラート:「そうか…もしかして…」
    ソルベ:「有り得るな」
  ギアッチョ:「無駄足だってのか!クソッ!クソ〜〜〜ッ!」
  ホルマジオ:「な、なにがだよ?なにが無駄足?どう言うことだ」
  イルーゾォ:「か、鏡が〜沢山あるよぉぉう」

なんか一人意味のないこと言ってます。酔い止めの薬持って来ればよかったねぇ。
ジェラートがソルベの胸をコツンとたたく。

  ジェラート:「上だって…保証は無いんだよね」
  ホルマジオ:「上じゃねぇ…ってことは、まさか通りすぎ…!」
  イルーゾォ:「鏡がぁぁ」
  ギアッチョ:「アホかテメェは。通りすぎたんじゃねぇ。そもそも行ってネェんだ」
  ホルマジオ:「アホとはなんだこのくるくる野郎」
  ギアッチョ:「いっぺん死ぬか!?ホッペ星人!」
  ホルマジオ:「ホッペ星人ってのはなんなんだ!!」
  ギアッチョ:「お前はホッペ星から来たホッペ星人だ!」
  
ジェラートが困惑してソルベに抱きつく。
ニヤニヤしているソルベ。楽しいのか嬉しいのか。
困ったように見守っていたスクアーロが
テラスに逃げようかと扉を開こうとしている。
ピピ…ガガー。ザザザザ。

  ホルマジオ:「なんの音だ?!」
  ギアッチョ:「ホッペ星からお迎えだぜ!」
  ホルマジオ:「殺すぅぅーッ!」
 チョコラータ:『こんばんわ、皆の衆。其処から先は行き止まり。さあどうしよう。』
  ジェラート:「……ッ…」

ジェラートが耳をふさぐ。
チョコラータの笑いを含んだ声が鏡の中で響き渡る。

  ギアッチョ:「てめぇ!隠れてねぇで出てこい!」
 チョコラータ:『隠れているわけじゃないじゃないか。
         俺は俺の部屋にいるだけだ。さあ来てみるがイイ?ん?』
    ソルベ:「地下にいやがったのか…道理でみつからないわけだよな!」
 チョコラータ:『来るかい?今の階から下は君達のカビの養殖場だ。
         降りてみるか?ホラ。』
  ギアッチョ:「俺にカビがはやせるか?!気温が低ければカビも生えまい!」
 チョコラータ:『そういうと思って楽しい余興を用意した。助かるのは君一人かな?』

クックックックック。
画面に写る鏡の部屋。
地下の司令室(?)で満足そうに笑うチョコラータ。
嬉しそうに机の下のボタンを押す。

  チョコラータ:「もがくまもなく恐怖のどん底だ。
          君達の表情を細かに録画できなくなるのが唯一の欠点かな…。」

ズガン。鈍い音がしたように思う。
塔が縦に揺れる。縦に?

  ジェラート:「爆発音だ…この大きさだと塔の1階部分を爆破してる」
    ソルベ:「ということは?」
  ホルマジオ:「それってマジイぜ!必然的に俺達は下に落ちる…!」
 チョコラータ:『よーくできました!ぎゃはははは!三階は取っておいてやろう!
         何故ならば美術品が勿体無いからな!落ちてカビて死ぬがイイ!」
 
ズガァァン!より近くの爆発音。
大きな衝撃が鏡の部屋を襲う。鏡にひびが入るが割れない。なんて丈夫な鏡だ。
いやそんな場合じゃないぞ!

  ホルマジオ:「イルーゾォ、鏡に…」
  イルーゾォ:「ココで入ったらマジで出られなくなるかもしれない…無理だ!」
  ギアッチョ:「全員凍るってのは」
  ジェラート:「僕は却下!」
    ソルベ:「んじゃ俺も却下!」
  
鏡の壁に張り付いていたスクアーロが突然きょろきょろし始める。
それにつられてギアッチョがきょろきょろしている。
きょろきょろ大流行。

  ギアッチョ:「スクアーロ!なんかあんのかよ!」
  スクアーロ:「何かがオカシイと思わないのか!?」
  ギアッチョ:「なにが!」
  スクアーロ:「さっきから揺れてはいるが、落ちてはいないぞ!」
  ギアッチョ:「あ?」

本当だ。1階2階を爆破され、下に落ちるはずの4階部分が…。落ちないで揺れている。
ピピー…ガガガガ。
崩れる音にまじって何かが聞こえる。
ガガガー…マスカ?!…デスカ?!

  ギアッチョ:「またチョコラータの野郎か?!」
    ソルベ:「違う…。この声は…まさか…」
  スクアーロ:「外から聞こえる!テラスの方だ!」

バゴ。少し開きずらくなっていた扉をソルベが蹴破る。
そのテラスから見えたものは。
バラバラバラバラバラ…。
大きなヘリコプタ―?異常にでかい。見ると、三階部分にクサビが打ちこまれ、
ヘリがそれを吊っているッ!
ヘリの窓から細い顔をしたジイさんが顔を出した。
拡声機をつかって大声で叫ぶ。

   ジイさん:「お坊ちゃま!遅くなりまして!ジイが駆けつけましたぞ!」
  
お坊ちゃま?ホルマジオとイルーゾォが顔を見合わせる。
ソルベが赤い顔をして怒鳴った。

    ソルベ:「お坊ちゃまって言うな!ソルベ様で十分だ!」
   ジイさん:「しかしお坊ちゃま!ワタクシめは
         お坊ちゃま幼少のころよりその様にお呼びしていたものでして!
         ではソルベお坊ちゃま!」
    ソルベ:「もうイイ!って言うかなんでここにいるんだ!
         アレほど付いて来るなって言っていただろう!」
   ジイさん:「おお、その様なことを!ジイは心配で心配で!」
   
ポカンとしているイルーゾォとホルマジオ、ギアッチョにジェラートがクスクスと笑う。
聞くと、ソルベはイイとこのお坊ちゃんらしい。
そして異常なまでの心配性の執事に仕事のたびに追いまわされているそうな。
今までそれが邪魔になったことが無いので、ジェラートもほっておいたと言うことだ。
邪魔になった事が無いってのがなかなか。

  ジェラート:「いいじゃない、ソルベ、今回は助けてもらってるんだから」
    ソルベ:「チ、しかたないな…」
  スクアーロ:「ヘリが4台…一体アンタなにものなんだ…」
  
一方こちらはドキドキのチョコラータ君。
爆破の衝撃で見えなくなってしまった画面。
聞こえてくる音声のみを頼りに想像する。
そろそろカビが生えて断末魔が聞こえてくるはずだったのが…。
あれ?
なんだこのでっかいジイさんの声は?!伏兵がいたのか!?
って言うかなんで断末魔が聞こえないのだ?声も出さずに絶命か?
ギアッチョはスタンドがあるから生き残る可能性が高い。ってことはギアッチョか?

  チョコラータ:「ギアッチョ…ずいぶんと老けた声だったんだな…」

ウンウン。と一人で頷く。嗚呼、違うのに。
ガツン。ガキバキベキ。天井から凄い音がして見上げる。

  チョコラータ:「爆発の衝撃に耐えられるように作ったツモリだったが…。
          今度は防音設備もつけたほうが良いかな?」

バギン!
天井が白く鈍る。
見上げていたチョコラータの目に白いもやがかかる。
これは霧?ホコリ?煙?

  チョコラータ:「????煙か?隙間でもあったのか」

これは煙。煙と…

   ギアッチョ:「残念だったなこれは冷気だ」

天井がガバっと割れてギアッチョの手がチョコラータの首を掴んだ。
ガキン。

   ギアッチョ:「いっちょあがり…手間かけさせやがって…」

氷漬けのチョコラータ。大丈夫、ちゃんと生きてます。
氷の厚い壁で覆われて動けなくなっているチョコラータと言ったほうがいいかもしれない。
ギアッチョ素敵―!ファン急増?
その氷の彫刻をやっと担いで外に出ると、
すでに応援のパトカーが、其処に集まっていた。
美術品を次々と丁寧に運送用の車に乗せる。

     ソルベ:「全部入りきりそうだな」
   ジェラート:「うん」
     ソルベ:「帰るか?」
   ジェラート:「そうだね…チョコラータはギアッチョが見張るみたいね」
     ソルベ:「あっはッは、専属か!」

美術品を乗せた車が先に出て行く。
 
   ジェラート:「…チョコラータの護送は?」
     ソルベ:「俺がさっき連絡したから、すぐ来るだろう?」
   ジェラート:「美術品はどこ持ってくのかな…」
     ソルベ:「お前連絡したのか?来るの早かったな〜」
   ジェラート:「……」

ぐい、とソルベの腕を掴む。
ドキッとしてソルベがジェラートの顔を見ると、緊張した面持ちのジェラートがいた。

     ソルベ:「どした?」
   ジェラート:「僕…電話して無い」
     ソルベ:「なに?んじゃギアッチョが…?」
   ジェラート:「イルーゾォ達とスクアーロは?!」
     ソルベ:「ヘリに乗せて近場の町まで送ったぜ?」
   ジェラート:「……どういうこと?ちょっと待って、三階部分はどうなってるの?」

困惑しながら三階部分にジェラートをつれて行く。
チョコラータの趣味のホルマリン漬け。
そしてその後ろに…あったはずの美術品は今、持ちだした。

   ジェラート:「やっぱりそうだ…も僕らは…チョコラータも、イルーゾォ達も…」
     ソルベ:「な、なんだよ?」
   ジェラート:「アハハハハ。もう!ムカツク!信じらんない!絶対許さない!」
    
諦めたように笑いながら怒るジェラートに困惑しっぱなしのソルベ。

     ソルベ:「どうしたってんだよ?」
   ジェラート:「シャガールが残ってるんだよ…。スクアーロのシャガールがね…」
     ソルベ:「ん?なんでだ?忘れたにしちゃ…」
   ジェラート:「いらなかったんじゃない?贋作だから置いて行ったんだよ…。」

カタン。
ジェラートがシャガールを外す。
その裏に小さな紙切れ。ヒラリ。

 〜〜〜〜美しい絵を有り難う。スクアーロの魂は残して行くとしよう。
     犯罪者は君達の元へ。芸術家の魂は私の元に集う。
                       怪盗メローネ★〜〜〜〜〜〜〜

………。うわあ。
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