■餓狼伝説、KOFのストーリーとは全く関連ありません。設定も違うです。

winter snow

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■煙
居間の扉は、廊下でどの部屋からも通じている。
ユキか、ビリーなのは間違いなかった。
どちらにせよ、あまり会いたくない相手ではあるが。

  山崎「誰だよ」
 ビリー「色気がなくて悪いな。俺だ。」

舌打ちをして立ちあがる。
何が悲しくて男とこんな夜中に顔つき合わせなきゃならんのだ。

  山崎「なんの用だよ」
 ビリー「入るぞ」
  山崎「勝手にしな」

ビリーは居間の扉をあけて入ってきた。
自分の部屋の自分の所持する居間にノックするってのも妙な話だな。
煙草をくわえたまま、俺の近くによってくる。

 ビリー「山崎。聞きたいコトがある」
  山崎「ユキのコトだろ?なんだ気に入ったかこのロリコンがぁ」

にたりと笑って見せるが、ビリーの面持ちは変わらない。
なんだよ、ノリの悪い奴だな。
外人ってのは何があっても意味なく笑ってるもんかと思ってたよ。

  山崎「言っとくが俺はユキについて何もしらねぇぞ、
      勝手について来たんだからな。
      どっかの誰かさんと違ってもててしょうがねぇや」

皮肉を言ってやっても、眉一つ動かさない。
なんなんだよ。
何が言いてぇんだよ俺に。

  山崎「なんとか言ったらどうだ?用があると入って来たのはオメェだろが」
 ビリー「あの子をどうするツモリなんだ?」

来た。
やっぱな。心配してたんだ。ユキのコトを。
俺なんかの近くにいたら汚れる、とかそんなコト思ってんだろう。

  山崎「言ったろ、勝手について来たんだ。俺はどうするつもりもネェよあんなガキ」
 ビリー「やはりな、それが問題なんだお前の。
      どうするツモリもないなら、自由にしてやれ」
  山崎「ああ?何だテメェ。俺に説教食らわそうってのか?百万年早ぇ」

別にどうするツモリもないさ。どうも出来ねえよ。
バカみたいに犬みたいに俺にくっついて来やがった挙句に、
俺を守るとか抜かしやがってあのガキは。
うざってぇよ。

 ビリー「お前といるってコトがどう言うことなのか分かっていてやっているのか」
  山崎「どう言う意味だ…」

喧嘩売ってやがる。コイツは。
一体俺に何が言いたい…いや、分かっている。
俺が…。邪魔なんだろう…どこへ行っても俺はそうさ。
どこにいても歓迎されない。役立たずさ。
ただ…ユキは俺を求めた、だから…
別に…嬉しかったわけじゃないさ…
 
 ビリー「あの子は普通の子だろ?」
  山崎「……」

さすがに言葉に詰まる。
俺を殺しに来た女だなんて言ってもしょうがねぇ。
しかも俺自身、ユキを探っている状態なのに。

  山崎「本当にわからねぇんだアイツは。本名もしらねぇ。
    お前が介入するコトじゃないだろう。
    あんまりシツコイと、俺もキレるぜ」
 ビリー「逃げているのはお前なのか、あの子なのか…。それが…知りたい」
  山崎「両方さ」

それだけ言って背を向ける。
コイツは俺の目を探ってやがる。
いちいち俺の目をうかがう。俺を邪魔にしやがる。
居場所がねぇのは…慣れている…どこに行っても安息なんかねぇんだ。
求められることのない人間。
生きているコトに不安は無い、けど人間でいられることに自信はない。

 ビリー「……出過ぎたコトを言っているとは思う…しかし…」
  山崎「安心しな。」

ビリーが硬直するのが分かった。
俺が立ちあがり、ビリーの目の前に顔を突き出したからだ。
そして、笑ってやる。
そうさ、いつもそうだ。
居場所なんかねぇ。だから俺はとどまれねぇ。

  山崎「ユキは預けたからな。やっと羽根が伸ばせるぜ。」
 ビリー「あの子をほうって行くのか!?」
  
驚いたフリなんかしやがって。
俺に出て行って欲しいと全身で言ってるくせに。
俺が邪魔だと全身で俺を否定しているくせに。
俺は、いつも譲歩する。
ほら見ろ、今回もそうだ。俺はまた譲歩する。
嫌われるのは慣れている。
俺を見ない目を俺を見なかったとする目に向って
いつも卑下した笑いを向けてやる。そうして俺は自分を保ってきた。

  山崎「邪魔なものは切り捨てる。」
 ビリー「それがお前のやリかたか!」
  山崎「俺に期待してたのか?バーカ、甘いんだよ」

それだけ言って、扉に手をかける。
後ろに風を切る音がする。
振り向きざまに俺の頭上に振りあがる棒を片手でとらえる。
ビリーの持った攻守に優れる赤い昆が俺の手元で震える。

  山崎「喧嘩売ろうってのかぁ。俺にか?」
 ビリー「お前は…最低だっ!」
  山崎「なんとでも言いな、しかしな、
     その言葉そのままお前にも返してやるぜ。情に熱いロリコン男が」

演出する。
俺は出来るだけ邪魔でいなければならない。
ユキは。
ユキはもう、俺といちゃいけないんだろ?
お前は、俺にそう言ったも同じなんだろう。
だから出て行ってやるさ。
どこかに。

……一体、どこへ…。

ビリーの罵倒を背に、部屋を出る。
冷たい夜風。コートを羽織って歩き出す。
一つだけ小さな居場所を見つける。
車に乗り込んで、煙草に火をともす。
煙が、立ち昇って消えて行く。
どこへ行くんだ、どこへ行くんだ消えそうな煙。
消えるってのは、楽だな…俺に匂いを残して。
一人になったと感じる。ロクな感情じゃねぇ。
車を走らせる。どこへでもイイ。どこかへ。どこか遠くへ。

ユキの匂いは……消してしまおう。


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