■餓狼伝説、KOFのストーリーとは全く関連ありません。設定も違うです。

winter snow

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■発端

もう何時間走りつづけただろうか。
窓の外を過ぎるネオンももう数えるほどになってきた。
通りすぎるのは風と、
逃げる俺を容赦なく照らし出す街灯と
謎を秘めて振り向かない人だけ。
煙草も尽きた。
ガソリンももう少ない。
もう、行く所もないような気になって。
どこへ行ってイイのか分からなくなる。
帰る場所が、ない?
ユキがいた時はあんなに居場所が確定していたのに。
ココにいてイイんだ、と思えたのに。

どこへ、行く、俺。

どこへ、逃げる、俺。

そんなに見つめるな、月よ。

せめて見ないフリをしていてくれないか。
少しの間だけでいい、楽になりたい。

走り疲れて。道路脇に車を止める。
分かってる、俺がいつも逃げてくる場所はココ。ココなら恐らく少しは…
居心地が、いい…かも、しれないから。
誰もいないことを願って、止めた車のエンジンを切る。
温まっていた身体も、突然の静寂に冷え込むようだ。
寂しくはない。
居場所が、欲しいと、そう願ってしまっただけ、
それは俺の単なる弱さだ、柔い心だ。

アスファルトにつけた足元から、冷気がまきあがって身体にまとわりつく。
振り払ってしまおう。
気がつかなかったフリをして、その冷気は振り払ってしまおう。
逃げて誤魔化さなければ、寂しくなってしまうから。
誤魔化して、笑ってしまおう。
だから俺は、ココに来た。

バーの扉を軽く押す。
ネオンの消えた閉店後のバー。
アシがつくかもしれない、そうは思った。
けれども、ちょっとの間だけ、少しだけ酒を煽りたい。

カラン。

音と共に、声がする。

???「すみません、もう閉店…アラ…」
 山崎「ちょっとだけ付き合えよバイス…」

そう言って笑った俺の顔に意味深な笑みを返して。
これが罠でも構わない、ふいにそう思った。
とにかく俺を誤魔化してくれ、お前のその接待用の笑顔で、さ。

バイス「珍しいじゃないか、最近顔出さなかったでしょ?ダブルでいい?」
 山崎「いや、ストレートでいい、悪いな」
バイス「ジンでイイかな」
 山崎「もっと焼けるようなやつを…そうだな、
    ウオッカで声が出なくなるくらいのヤツにしてくれ」

そう言った俺の前に無言で差し出されたのは恐らくスピリタス。
90度を誇る、酒と言いがたいアルコール。これは茶化されてるのか。
バイスの顔を見て、その笑顔に溜め息をついて、グラスに手をかける。

バイス「たまには死ぬほど酔って行きなよ」
 
そう言って笑ったバイスの後ろに空になったスピリタスの瓶を見つける。
店内を見まわすと、暗がりの中に人がいるようだった。
邪魔、しちまったか。

 山崎「邪魔したか…用があるなら言えばいい物を…」
バイス「別に、対した用じゃないさ。言っとくけどね、アタシの男じゃないよ」

ふん、と鼻を鳴らして男を見る。
暗がりでよくはわからないが、相当な大男だ、体つきもたくましい。
だが、別にどうってことはない。
争うツモリもないし、そもそも俺は骨抜きみたいになってるしな。
そうか、喧嘩になって殴られて、
意識がとんじまえばそれも楽かもしれんな…と。そうは思う。

バイスはその男のコトを、ヴィクトルと呼んだ
ああ、アメリカ人か。だったら図体がデカイのも理解出来る。
昔行ったニューヨークを思い出して。
其処から俺の人生が始まったようなもんさ、
其処でアレにめぐり合わなければ
恐らく俺はサツの御用になんかならなかっただろう。
別に後悔しているわけじゃない。
それ意外の人生が歩みたかったなんて酔狂な事など言う物か。
自分の人生を恥じることが人間の一番の恥だ。
俺は、そう確信している。

男が立ち上がった。
バイスがその男を呼んで俺に紹介しようとする。
なにか、企んでいやがるな。
面倒なことはもう御免…
イヤ、使われると言うコトはココに居場所が出来ると言うことでもある。

甘んじて、みようか。

バイス「山崎、こちらヴィクトル…アメリカ人だ。アンタを探してたらしい
     連絡しようとして携帯にかけてみても
     出ないから困っていたところだったんだぞ」

バイスの低い声がそう言う。
くだらねぇ、俺を探すヤツなんているものか。
暗がりの中に目を凝らすと、カチリと小さな音と共に、店内が照らし出された。
強い照明が俺を照らす。
あまり、俺の隠れ家を暴くようなことをして欲しくない。
暗いままで、よかったのに。

目線が捕らえた先にいた男。
不精ヒゲとはもう既に言いがたい白く頬から顎を覆う髭と
スーツの上からも見て取れる固い筋肉の鎧。
俺を見る対の目が酷く鋭く光る。
唇が、楽しそうに歪んでいた。

???「ヤマザキ。探したぜ」

まさか、こいつがココにいるなんて…!
喧嘩仲間でも久しぶりに会えば懐かしさに喜びが発生するもんだ。
それだから、俺が笑ってしまったのは、当然のこと、だろ?


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