■餓狼伝説、KOFのストーリーとは全く関連ありません。設定も違うです。

winter snow

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■捨て猫
ユキの声は小さかった。
電話の向こうに聞き取られないようにしたツモリなのか。

山崎「マリー」
マリー『何?』
山崎「本当か?」
マリー『嘘ついてなんになるのよ』
山崎「そうか、ちょっと待て、今とりこみ中だ。5分後にまた電話しろ」
マリー『ちょ、ちょっと待ちなさいよ!
    取り込み中ってアンタまさかその子と猥褻な…』

ブツ。
一方的に電話を切って、ユキに向き直る。
ニコニコ。
笑ってる場合じゃないんだよユキちゃぁん。

山崎「マジかよ…嘘だろ、こんなガキが」
ユキ「ガキじゃないよ、ユキだってば」

すねたかおをして見せるユキ。
山崎の携帯に手をかけようとする。
それを制して山崎はユキの顔を覗きこんだ。

山崎「隙ができるの狙ってんのか?」
ユキ「え?なんで?」
山崎「殺し屋だってな、テメェ。今サツからそう言われたよ、引き渡せってな」

ガタン。
ユキが立ちあがって窓の外を見ようとカーテンに手をかけた。
その腕を掴んで引き寄せる。
携帯がすぐに鳴り出した。マリーも何かあったら困ると慌てているんだろう。
出なければ、そのうちこの部屋にも上がってくる。
ユキの腕を掴んだまま、携帯をベッドの上に投げ出す。

ユキ「い、痛いよ…」
山崎「狙いはなんだ?」
ユキ「山崎…どこか連れてって!」

ギュウ。
山崎の首に手を回して強く抱きつく。
刃物で首でもかかれたらコトだ、と山崎が慌てる。

山崎「コラ離れろ!なんでよりによって俺に当たるんだよこういうのが!」
ユキ「なんでって?え?どうして?ユキ何か悪いコト…」
山崎「俺は今保護監察中なんだ、今妙なコト起こしたら逆戻りだろうが!」
ユキ「……ごめんなさい…ユキ邪魔なんだね。」

山崎の首から手を離して、ユキがそっと離れた。
それでもにっこりと笑う。
なんでこいつは笑ってるんだ?
邪魔な余計な女は、余計なものは嫌いだ。
だから俺はこういう女が邪魔だ、だから引き渡して当然さ。
携帯の電子音が鳴りつづける。
ユキが笑う。
大丈夫。ごめんね。
小さくそう呟くのが聞こえた。
山崎の横をすり抜けて、ドアに向かう。

山崎「…勝手にしろ…」
ユキ「ウン、ご免ね。…山崎…」
山崎「なんだよ、さっさと…」

さっさと、なんだ?
さっさと…。
さっさと逃げろ。
引き渡すんじゃなかったのか、俺は。
ユキが笑っていた。
なんでこのガキは笑っていた?
終わるツモリがない、このガキは。

山崎「ユキ」
ユキ「え?」
山崎「狙いは俺じゃないのか?」
ユキ「うん、違うの、なんだかわかったの。
   山崎じゃない。山崎はアタシを殺さない、
   だから山崎じゃない。分かったの。」

何がわかったってんだよ。
なんで俺は殺さねぇっておもうんだよ。
俺の手はこんなだぜ、血まみれでゆがんでて
オメェみたいなガキ一人殺すのなんか簡単だし。
携帯の電子音が不意に止まった。
ドン。
大きな音がドアを叩く。

山崎「チ…っ!」
ユキ「だ、誰?」
山崎「サツのヤツだ、せっかちな野郎だからな、行動も早い」
ユキ「ど、どうしよう…。アタシコレで終われない…終わりたくない…!」
山崎「…ったく…余計な手間かけさせやがって」
ユキ「イヤ、お願い、警察にあたしを渡さないで!
   だめなの、終わりにしたらダメなの!」
山崎「馬鹿野郎、全く面倒だ、手間だ、だから女は嫌いなんだ。」

グイ、とユキを引き寄せる。
ベッドルームに押し込んで、ドアに向かう。
カチャン。
鍵が開く。
勝手にあけて入ってくるツモリらしい。

マリー「山崎!ふざけんなよ!その子を渡しなさ…」
山崎「うるせえ。近所迷惑だ」
マリー「あの子はどこ?」
山崎「もういねぇよ」
マリー「嘘をつくな。」
山崎「オメェには見えねぇところに行っちまったよ。」
マリー「なに?」
山崎「見えなくなるのはコレからだがな」

マリーの拳銃を叩き落して、鳩尾に一発。
距離があって油断していたのか、マリーは簡単にくず折れた。

マリー「の…野郎…」

おきあがろうとする首筋にもう一発。
まずいな。頭を一瞬そう言う考えがかすめた。

山崎「…バァカ。気が向いたんだ。暇つぶしに旅行でもさせろや」

自嘲が勝手にもれる。
自分で自分追いこんでどうするんだ俺は。
成り行きだとは言え、殴っちまった。そんでコイツは気絶してる。
ってことはもう俺は逆戻り決定か…。
どうもイケネェ。
どうも俺は、サツは逆らってなんぼのもんだと思ってる節がある。

山崎「ユキ」

呼ぶと、そっとベッドルームから顔を出した。
小さなユキ。
別に守ろうと思ったわけじゃネェ。
何もかもが邪魔になってぶち切れただけだ。

ユキ「山崎…いいの?こんなことしたら…」
山崎「うるせぇ。勝手にどこへでも行け」
ユキ「逃げよう!」
山崎「はぁ?!」
ユキ「山崎声が裏返ってる」
山崎「逃げるって、テメェ俺についてくるツモリか!?」
ユキ「あたしが守る!山崎、一緒に来て!」

守る?俺を?ユキが?
なんで。
なんでこいつが俺を守る?
気がつくと、車の中だった。
必要なものすべて持ってきた。本当に俺は逃げる気か。
ユキと一緒に?

ユキ「山崎!行けー!」
山崎「阿呆!テメェになんで俺が付き合わなきゃならネェんだよ!」
ユキ「付き合ってるのはアタシ!大丈夫!山崎は大丈夫だから!」
山崎「なんなんだオメェはよぉ!」

ガリガリガリガリ。
音を立てて歯軋りをするが、自分の足は勝手にアクセルを踏んでるし、
手は勝手にステアリングを切っている。
アア、馬鹿馬鹿しい!
なんでこんな目にあわなきゃならネェんだ。

ユキ「山崎。」
山崎「ああ?」
ユキ「駆け落ちみたいだねー!」
山崎「もうしゃべんなテメェは!」

牙をむくと、嬉しそうにユキが笑う。
行くところなんかねぇのによ。
逃げ場なんてねぇのによ。
どっか行かなきゃならねぇ、それでも俺は、俺達は。
逃げてるんじゃない、必要だから動いてるんだよ。
ユキがそう言って笑った。
マリーのヤツは、自分のベッドの上に放り出してきた。
どうせすぐに気がついて包囲網を張られるだろう。

山崎「ユキ。どこ行くツモリで、何するツモリだ」
ユキ「どっか行ってご飯食べよう!」
山崎「…もうちょっと緊張感をだな…」
ユキ「大丈夫!アタシ殺し屋だもん!
    仕事がアレば山崎くらい養えるよ!」

そう言う意味じゃねぇっての…
ハンドルに力の抜けた頭を乗せて、まさに力尽きそうになる。
ユキが笑う。
養われるのはどっちだよ。
そう思ってふと気がついた。
俺はこいつを養うツモリかよ。
今の考えから言うとどう見てもそう言うツモリが俺にあるとしか思えない。

ユキ「なに考えてるの?」
山崎「どこにお前を捨てようかと思ってな」
ユキ「あたしまた捨てられるの?」
山崎「また?」

ユキを見る。
ユキの顔から笑顔が消えた。
不意に、自分の気持ちまでが翳る。
なんで俺はこいつを拾ったんだろう。
誰かに似てたから。
いつかの…誰かに似てたから?

山崎「…恩返しだ…そのつもりになってやるよ」
ユキ「え?」
山崎「当てがある。そこまで行ったら飯食えるからな、待ってろ」

捨て猫。
そう言う言葉が頭にかすめた。
行き場所のない捨て猫。
責任じゃねぇ、いつか俺を拾ったあの人への恩返しだ…
そう言い聞かせて、アクセルを目いっぱい踏みこんだ。


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