■餓狼伝説、KOFのストーリーとは全く関連ありません。設定も違うです。

winter snow

■■
■始まり
いや実際驚いた。
まさか山崎が俺のところに女を連れて転がり込んでくるとは。
しかも、女って言ってもまだリリーと同じ位の年齢の子供。
ちなみにリリーは俺の妹。清楚で可愛くて大人しくて活発で控えめで…
矛盾してるな。コレ以上リリーのことに触れるのはやめておこう。
インターホンがなって、来客を知らせる。
俺は丁度外出する寸前だった。
人づてに頼まれて仕事を請け負ったからだ。
そのクライアントのところへ顔合わせに行くつもりだった。
まぁ、時間はある。
インターホンのボタンを押して、一言だけ言う。
俺がココにすんでいることは誰も知らない。
つけてくるような変態的な野郎もいないから、のんびりと暮らせる。
まぁワケがあるんだけども。

ビリー「どこからだ?」

俺が作った合言葉。
コレにイギリスからだと答えれば、俺の部屋には通される。
仕事の客は「ある店」からしか取らないし、
ココに来る奴は俺の仕事上関連が深い奴ばかりだ。

??『リリーは元気か?』

がっくり。
声に聞き覚えはあるものの、暗号を言わない。
この声は山崎竜二だ。俺の昔の仕事仲間。
こいつが麻薬を扱っていた関連でちょっと知り合っただけの。
言うなりゃ俺が客だったんだけどな。
おっと、いまはヤッてねぇぜ?リリーにしこたま怒られたからな…
ま、まぁそんなことは置いといて。

ビリー「阿呆…上がって来い」

それだけインターホンに言い返して、
マンションに入るための玄関の扉を開けてやる。
このマンションはセキュリティが強い。
マンション自体に入るのさえも、住人か管理人の許可が要る。
このマンションの持ち主が、俺の今回のクライアント。
って、そんなことは今関係ないな。
インターホンの向こうから、了解と受け取れる返事を山崎が返す。
日本語ってのは厄介だ。いろんな「OK」がある。
「はい」だの、「了解」だの、「へい」とか山崎みたいに「おう」とか。
どれか一つにしてくれ、英会話よりも難しいと思うぞ俺は。
ぶつぶつと文句を言っていると、ごんごん、と低い音が聞こえてきた。
なんだ?この辺工事してたッけ?
きょろきょろとみまわして、部屋の扉がうなっていることに気づく。
山崎の野郎、ノックもしらねぇのか…
今日は文句が多いな。
山崎が悪いんだ山崎が。
ドアに向かって舌を出し、何食わぬ顔で扉を開けた瞬間。
山崎よりも先に、女の子の顔が視界に飛びこんできた。
それが、山崎の連れてきたユキとか言う子供だった。

 山崎「よう、相変わらず暇人かよ、ビリー」
ビリー「アノな山崎。俺がせっかく暗号をだな」
 山崎「んなもんいらねぇよ、面倒クセェ。入らせろ客だ客。」


相変わらず馬鹿にしたような顔で、俺にそう言いやがる。
あのなぁ。俺はだな、お前を客と認めた覚えは…
山崎が俺に視線を送る。
意図を察する。
こいつは客だ。
そう認識して、部屋に通す。
蹴られた扉をみると、かすかに靴のあとがついていた。
アアもう…泣きてぇ…

ビリー「ったく、お前が来るとロクなことがない」
 山崎「今回もロクなことじゃねぇよ、喜びな」

へいへい、分かってるよ。
お前が来る時ってのはヤバイ時だけだ。
この女の子が多分曲者なんだ。
何があったのか、駆け落ちか?山崎はこの年齢が好みだったッけ。
いやいや、女は面倒だからとか言っていたような記憶もあるし。
でも他の誰かだったかもしれない。
あんまり人のコトを覚えるのは得意じゃない。
そもそも日本語が厄介なんだ。…あ〜…どうどう巡りだな。
女の子が俺を珍しそうに見ている。
イギリス人が珍しいのか、それとも単にこう言う性格なのか。

ビリー「山崎」
 山崎「ああ?」
ビリー「この子は?」
 山崎「知らないガキだ」
ビリー「な、なに!?」
 山崎「ううっそ。」

ぐあ。殴りそうになった腕を精神力で止める。
こいつの挑発に乗るとキリがない。冷静に、冷静に行こうじゃないか、俺。

ビリー「おちょくるな」
 山崎「外人をおちょくると面白いからな。
     日本人の言うことを馬鹿みたいに信じやがる」
ビリー「普通日本人ってのは、信用出来るモンなんだ!」
 山崎「ヘェへェ、どうせ俺は信用できないよ、で、どっかに部屋ないか」

ホレ来た。
やっぱり客だったんだこいつは。
俺はこう言うやばい状態の奴をかくまう、おっとこれだと法律に触れる、
そんな人だなんて知らなかった〜って言うフリをして
安全な場所を提供する事もやっている。
そのためにいくつかの部屋を持っている。
案外稼ぎになるので、部屋の維持費には事欠かない。

ビリー「なにかしたのか」
 山崎「サツの女殴った。ちょっとうるさかったんでな。」

んじゃ其処の子は何よ、ちょっとそう思ったがそれは聞かないのが仕事。
女の子に向かって肩をすくめて見せると、真似をされた。
可愛いなぁ。歳はリリーと一緒くらいか。
そんな子がまたなんで山崎なんかの毒牙に。
悪い事はいわないから、帰ったほうがイイよ。心でそう言ってにっこり笑う。
声には出さない。
仕事だからな。

ビリー「その子も一緒にか?」
 山崎「……」

無言ってのは、肯定なんだよな。
日本語ってのは本当に難しい。
やっと覚えた日本人の妙な沈黙。
黙ったら、それは了解だと思え。返事無しでも了解なのな。
不思議な国だ。面倒だがソコが面白い。

ビリー「待ってろ、幾つかあるはずだ」

女の子をソファに座らせて、山崎はほおっておく。
山崎は座ろうとしないだろうからな。
何かあったときのコイツは特にそうだ。
奥の部屋に入って、金庫の鍵を開ける。
その金庫の中に、また鍵がある。
用心にこした事はない。
でも日本ってのは本当に安全だ。人間が離れてやがる。
リリーはイギリスで苦労してんのにさ。
日本人は楽でイイよな。
俺はなんとかリリーみたいに苦労しようと思っている。
リリーにだけ、淋しい思いをさせるわけには行かない。
だったら本国に帰れ?
……俺にはこの国にいなければならない理由があるんだよ。
金庫を閉めて、取り出した鍵を確認する。
6つ。OK.
それを山崎に提示する。

ビリー「どれがいい?」
 山崎「……全部信用出来るんだろうな。」
ビリー「危ないところ提供したら、俺がお前に殺されるだろう」
 山崎「分かってるじゃねぇか。んじゃ、ユキ一つ選べ」
 ユキ「あたし選んでイイの!?やったー!んじゃね、えーっとぉ」

ユキって言うのか、この子。
楽しそうに、俺の持っている鍵を見ている。
リリーみたいだ。
楽しそうに。いつでも楽しそうに。
笑っている。
俺はその笑顔を守ってやれているんだろうか。

 ユキ「これがイイ!」
ビリー「え?」

賭けだった。
別に他意はない。本当に、多分。
この子をほうっておきたくない、そうは思ったけど。
鍵の束の中に一緒に入れた。

 山崎「なんだよ」
 ユキ「なんで、え?」
ビリー「…いや…別に…俺はいいけど」
 山崎「なんだよ、信用出来るって言ったのはお前だろうが」

まぁな、信用出来るとは言ったよ、それは間違いない。
だってその鍵は…

ビリー「いやね、別にいいんだけどね、俺の部屋でもね。」

その鍵は、俺の部屋の鍵だ。
その笑顔を俺は守ってやれるのだろうか。
俺はなんにも出来ていないんじゃないだろうか。
ユキと名乗った女の子に、リリーがダブる。
この子は山崎といて幸せなのだろうか。

 山崎「ああ?って…」
ビリー「その鍵は俺の部屋。どうする?選びなおすか?」
 山崎「阿呆かテメェは!なんで自分の部屋の鍵を一緒に入れとくんだ!!」
ビリー「ここが一番安全だからだ」

わざとらしくそう言ってやる。
しかし、事実でもある。
一番俺が信頼している場所に自分で住んでいる。
当然だ。自分が一番大切だ。

 山崎「……。金は」
ビリー「先払いだ」
 山崎「だろうな」

山崎が折れた。
コレで、俺はこの子を助けられる…
俺は…何を考えてるんだろう。
山崎が提示した金額を見て、舌打ちする。
足元見やがって。いや、俺の真意はこいつは気づいてないはずだ。
山崎らしい提示だ。いつもの金額より数枚少ない。
俺の顔を見て、にやりと笑う。
ユキちゃんが俺を見る。
俺がユキちゃんを見る。
やっぱ、ほっておきたくない。
自分の頭をその札束で殴って、俺は立ち上がった。

そのまま、金庫の方へ行く。
奥の部屋に入って、携帯を取り上げる。
番号を押して少々待つと、すぐに相手はその声を響かせた。

???『ビリー?待たせるじゃないか』」
ビリー「すまない、今日はすぐに行けそうにないんだ」
???『打ち合わせするって言ったじゃないか。
      場所と時間を指定したのはそっちだぞ?』
ビリー「こっちも面倒な事で立て込んじまってな、
     行けるのは朝になりそうなんだ。時間は空いているか?」
???『面倒な事と言うのは?』
ビリー「いや、客がな…すまない、その分は金額の方でまけさせてもらうから」
???『仕方ないな。アタシもこの店から動く事はないからな、朝までは、いる』
ビリー「すまないな、んじゃ4時くらいまでにはそっちに行く。
     待っててくれ、バイス。」

実はすっかり忘れていた。
バイス…ここのマンションのオーナーでもある彼女と
待ち合わせしていた時刻を30分ほどまわっている。
待ち合わせ場所は彼女の経営するバーだから、
待たせていると言う感覚は少ない。
居間に戻ると、ユキちゃんが眠そうな目をして俺に顔をむけた。
隣の使っていない部屋を簡単に片付けて、そこのベッドへ案内する。
山崎は、「俺は居間でイイ」と言い張った。
確かに、俺と同じ部屋で枕並べて眠る気にはならない。
居間のソファはかなり大きいものだったから、そこで寝るという。

俺は部屋に戻ると、簡単に用意をした。
4時までは時間がある。
煙草を吸いながら、天井を見上げる。
ユキの素性が知りたい。
何故山崎といるのか、それが知りたい。
でも、コレはビジネスだ。干渉する事は…
ビジネスだ。
……。


リリーは…俺の仕事がなんなのか、知らない。


■■
戻る/NEXT