それは、長く続かなかった。
静寂など、もう、ありえなかった。
ザベル:な、なんでテメェが?!
ガロン:……排除!
ザベルの声など聞こえないと言った風で、掴み掛かってくる。
倒しても、その次が、あった。
ザベル:マルゥ!逃げるぜ!?
ル・マルタ:はい〜!
声と共に、ザベルを体に吸収して、瞬間的に移動する。
その瞬間、ガロンが崩れ落ちるのが見えた。
体に食らった牙の跡から、声が聞こえる
排除、排除
認識されません
ザベル:グゥゥゥ…おかしくなりそうだ…って元からイカレてるけどなァ
ル・マルタ:一体どうしちゃったんですか、最近こんなことばかり…
ザベル:わからねぇ…なにが。起きてるのか。それをつきとめるのが
ル・マルタ:先決、ですね!
ザベル:ったくよぉ、俺よりイカレられると、調子狂うぜ、実際…
そう言って立ち上がったザベルの周りを、すでに取り囲んでいる、面々。
ザベル:今度は…人間かよ
どこから集まったのか、生きている人間のようだった。
全員が、一様に、意識のぬけた表情をしている。
口々に呟く。
排除。
ID。
認識。
存在。
ザベル:神経を逆なでするようなことばかりだぜ…キレそうだ…全員、殺してやるッ!
ル・マルタ:だめですよ、ザベル様!レイレイ様との約束が!
ザベル:ち…ッ
何年前かに、交わした約束。人間には、手を出さない。
それだけ約束すれば、俺は、女を手にいれることが出来た。
自分でもイカレてるとは思った。殺せば、同じことだったと思いつつ。
その要求を飲んだ後に見た、彼女の笑顔が、ナイフを曇らせる。
人間達:排除。
ザベル:何もかもが、おれを否定しようとしてるってのか?
人間達:世界ガ、IDノ、提示ヲ求メテイル
ザベル:IDってのはなんなんだよ!
ル・マルタ:IDヲ、テイジセヨ
ザベル:!
振り向いたその先に、巨大化していくマルタの姿があった!
ザベル:マル?!
ル・マルタ:ミトメ…マセン…
ザベル:信じられねぇ!一体、一体?!やめろ、おれは、俺は本当に存在するのか?!
ル・マルタ:ミトメマセン!
ザベル:おれは、ここにいる、そうだよな。なァ?!
ル・マルタ:存在ヲ、ミトメマセン
ザベル:……じゃあ…今までの俺は…どこに行っちまったんだ
ふらふらとしながら、後ずさりする。
力が、抜けていくようだ。
人間達:ソノママ消エル
ザベル:お前らが、真実という名のものなら。俺は、それ以外のものと言うことか
人間達:消エル
ザベル:俺は、誰なんだ…
一瞬、意識が掻き消えたように思った。
肩を掴む、強い衝撃に、はっとする。
宙に浮いている自分、そして、その肩を掴んでいたのは。
モリガン:意識が飛んだらオシマイなのよ?しってた?
ザベル:モリガン…あんたは、誰なんだ
モリガン:モリガン・アーンスランド。
ザベル:俺は、もう、いないのか
モリガン:知らないわ。
ザベル:……
モリガン:あんた、そうやってると、ただの死体ね
ザベル:死体だ、俺は、元から、死んでる
モリガン:じゃあ、死ぬ?
ザベル:お前は。何故…真実と同化しない?
モリガン:私は、真実と常に同化している。
ザベル:?
モリガン:わかったら、ご褒美を上げるわ
ザベル:調子に乗るなよ…テメェ
肩を掴んでいる腕に気づいて、そこで言葉を止める。
モリガン:すべてが真実だったら、どう思う?
ゆっくりと、城の前にザベルを下ろしながら、モリガンが問う。
アーンスランド城だ。
すべてが、大きかった、その、答えも、問いも。
ザベル:すべてが真実だったら、そうだな、面白くねぇ
モリガン:ウフフフフ、あんたらしいわ。
ザベル:聞いてる意味がわからねぇ…
モリガン:イイ?自分が真実なのと、すベてが真実なのとの違いはわかる?
ザベル:なんだそりゃ
モリガン:それが理解できたら、多分
ザベル:多分?
モリガン:あら、時間だわ、これからデートなの…じゃね
そう言ってウインクすると、さっと消えてしまう。
ザベル:自分で考えろってか
取り残されたそこで、思考だけが廻る。
モリガンは、何故、真実にとらわれて
俺を襲って来たりしなかったのだろう。
そもそも、真実ってのは、どこから沸いてきやがるんだ
どこから。
頭が、ズキズキと痛んだ。
……簡単なヤツだ。まったく、単純でイイ。私の疑問を、解決してくれ、
その身が滅びぬうちに。
この、死に急ごうとする私の、この精神が滅びぬうちに!
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