渇く…体が、精神が…渇く。
潤さねばならない。分かっている。
ザベル:マジでこりゃ…吸血鬼になっちまったみてぇだな
そう一人ごちて、夜の町の冷たい石畳を踏みしめる。
暗い闇。今まで俺が生きてきた、そして死んでからも、これからも。
その闇は俺の居場所だった。
そのなかで、ゆっくりと息をする。
後ろから、ずっとついてきているのは、レイレイだった。
ザベルを伺うように、少し離れてついてくる。
ザベル:レイレイ…当分俺にちかづかねぇほうが、身のためだぜ…
レイレイ:でも、あたしのせいだ。
ザベル:ンじゃ一緒に吸血鬼にでもなるかぁ?
レイレイ:あんたは、血が欲しいの?
ザベル:……
レイレイ:何を捜してるの、今…
ザベル:俺を…潤すことの出来るものさ。
レイレイ:血が、欲しいなら…あたしが…!
ザベル:バァーカ。俺はゾンビだ、吸血鬼じゃねぇゼ
レイレイ:でも!
ザベル:俺が欲しいのは、悲鳴と、肉を切る感触、それだけだ!
デミトリ:やはり求めるか。お前は、だれだ。
ザベル:デミトリ?!
闇のかなた、上空からの声!
見ると、闇よりももっと深い闇が、その中を支配している。
デミトリ、だった。
デミトリ:お前は、何物だ
ザベル:何を言ってんだ?バカかてめぇ
デミトリ:私は、吸血鬼か、魔王か、帝王か。
ザベル:なに…?
デミトリ:お前は、なんだ。
ザベル:俺は…
デミトリ:答えてくれ。
ザベル:てめぇのせいで、こんがらがってんじゃねぇか!
デミトリ:知りたかったのだよ、私の力が介入して、お前がどうなるのか。
ザベル:殺されたいか、テメェ
認識サレマセン
ザベル:な…なに…?
ハイジョシマス
排除
ハイジョシマス
デミトリ:まさか…本当だったのか?!
ザベル:な、なんだッてんだァ!?テメェ、なにか知ってやがるな?!
絶句しているデミトリ。
聞こえてくる、機械音。
ガシャリ、ガシャリ。
音の主を捜して見まわすが、なにも見えない。
ザベル:…!!!!!
不意に衝撃を受けて、吹っ飛ぶ。
飛んだ体を空中で立てなおし、壁に着地する。
衝撃は軽いものだったが、攻撃の筋が見えない!
ザベル:ど、どこにいやがる?!
デミトリ:見えない…なんなのだ、これは?!
ザベル:デミトリ!説明しろっ!
デミトリ:お前は存在を否定された!
ザベル:なに?!……グ…また、かッ!?
音がする。
間近で!
デミトリ:これが、存在を分かつと言う…!
ザベル:ダークハンターか?!
デミトリ:人間界では、「真実」と呼ばれるものだ!
ザベル:し、真実?!なんでそんなもんが……ゲェエエエエ!
デミトリに気を奪われたその瞬間
ザベルの腹に大きな穴があく!
ザベル:ゲ…な…なん…だと…!?
デミトリ:まさか、姿が見えないものとは…。
どうしても、姿が見えない、
見えない、真実。
本当の物はいつも隠れてやってくる。
それは運命と呼ばれたこともあったか。
レイレイが、ザベルの前に立ったとたん、ガシャリ、と言う音がやんだ。
レイレイ:あたしには、興味が無いってことか
ザベル:あぶねぇから、どいてろってばよ
レイレイ:大丈夫…あたしを攻撃する気はまったく無い。あんただけだ、対象は。
排除…シマス
ザベル:テメェ!姿を見せろ!なにもんだ!?
我ID…真実。真実。IDヲ持タヌ物、排除。認識、サレナイ
ザベル:ID…だと?
IDヲ、提示セヨ
ザベル:なんだ、そりゃ…
デミトリ:お前には、もう属性がない。
ザベル:意味がわからねぇよ!
デミトリ:私は、吸血鬼、小娘は、キョンシ−。恐らく、それがIDだ。
ザベル:俺は、なんでもないから、認識されない、と
ID認識サレマセン…排除!
ザベル:ケ、さっきから声がしてるから、居場所はわかってんだゼ?!
レイレイ:ザベル!
レイレイの後ろをすり抜け、電ノコで斬りつける!
ガリガリガリガリ!
硬いものに当たって、鈍い音がした。
火花が、飛び散る!
ザベル:硬ェ野郎だな!
実体こそ見えぬものの、体は存在するようだった。
間髪いれずに、その場に電撃を放つ!
ザベル:痺れて見るかァ?!デスボルテージ!
ガガガガガガガガ!!火炎と電撃の中で、土偶のような機械が浮かび上がる!
デミトリ:な…フォボス!?
レイレイ:なんで、こいつが?!
そう、その機械の実体の形は、フォボスそのものだった。
だが、実態を見せたそれは、電撃を浴びただけで、すでに動かなくなった。
ジジジジ…。という音だけが、残っている。
抜け殻の、フォボス。
ザベル:一体、なんだっってんだ?!理解できねぇゾ!
デミトリ:これが、真実の、実体、だと!?
ザベル:まったく、理解できネェ!シット!むなくそがワリイゼ!
レイレイ:ザベル
ザベル:なんだよ?
レイレイ:あんた、吸血鬼とゾンビのハーフなの?
ザベル:しらネェ
レイレイ:さっき…炎を操ってたのよ…あんた…
ザベル:……自分が燃えねぇように気を付けネェとだな
レイレイ:そう言う問題じゃないでしょ!?
ザベル:まぁ、深く考えたってはじまらねぇや!気持ちよく行こうぜェ
そう言って大笑いする。
真実を消したかもしれないと言う、不安感。
何がおきているのか理解できない、不安感。
とにかく笑い飛ばして、いつものように何も気にしないで好きなようにやる。
そうしないと、俺は、自分の存在に自信が持てない…
ワレワレハ、スベテノ思考ノウエニ、存在スル
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