続・ご近所ジョジョ物語
決断編・B・「ぽかん」



ホルホースは笑顔を作って言った。

 ホルホース:もうそろそろDIOのヤツは仕事場に顔出してるはずだぜ。
       そこ行きゃ絶対捕まえられる。
  オインゴ:…はい
 ホルホース:おいおい、なんだよクライマックスだってのに浮かねぇ顔だねぇ〜?
  オインゴ:……
 ホルホース:ビビってんのか?
 オインゴ:ホルホースさんは怖くないんですか?
 

なにが?
笑って見せた。
誤魔化しか?んな、そんな事はねェ。
俺はよく笑う。
何の為に?
…笑う?
これじゃラバーソールと同じじゃねぇか…

勇み足が萎え足になるオインゴの背中をバンと一つ叩くと、慣れた道をあの店へ。
俺は今、何をしているんだろう。
DIOに挑む?
ラバーソールは逃げたのか。
傷つけて潰して、俺は今その上にどんな旗を掲げようとしているんだろう。

すべて、俺のプライドを守る為に。


キィ。


かすかに使い古した扉の音を立てて、店の入り口が開く。


      男:いらっしゃいま…あ?
 ホルホース:あ?とはなんだ、お客様だろ?
      男:…はぁ、いらっしゃいませ。
 ホルホース:DIOはどこにいる
      男:…DIO、ですか?
 ホルホース:そう。ヤツを出しな
 D・ダービー:DIOに何の用?

広いエントランスの向こうから、よく響く声。


 ホルホース:おっと、大幹部登場?
 D・ダービー:ラバーソールはどうしたの


おいおい、そんなにニラむなよ。
俺が何したってんだ?
拒絶されるようなこと…した、のか。俺は。

 ホルホース:さぁね
 D・ダービー:見損なったわ…
 ホルホース:DIOに会わせろよ。…前座はとうに逃げたのさ。
 D・ダービー:…ラバーが前座だっていうの?
 ホルホース:さぁ、どうだかね
 D・ダービー:事務所で話を聞くわ。DIOもそこにいる。

ひゅう、と口笛を鳴らして。
建前は強くあれ、俺。
ダービーがひどく冷たい目で俺を見る。
ちらりと見せる悲しげな表情、俺は気がつかないフリをする。
この男の大事なものを、俺は踏み潰してきた。
自分のためだけに。

ざわめく店内に目もくれずにダービーの案内する奥の部屋へ。

鼓動が高鳴る。

俺は一体何がしたくて、DIOに挑むんだろう。

  オインゴ:ホルホースさん…
 ホルホース:…何
  オインゴ:俺は、これをこなせばアンタみたいに強くなれますよね?
 ホルホース:…はは…

2枚、3枚と扉が開かれ、突き当りの地味な扉を開く。

ダービーが振り返った。

 D・ダービー:経営者として聞くわ。何をしに来たの?
   オインゴ:…な、殴りに来ました
 D・ダービー:…DIOを?
   オインゴ:…は、はい
 D・ダービー:何の為に?
   オインゴ:俺が男になるためです!

ダービーがホルホースを睨む。

  ホルホース:アンタにゃ関係ねぇだろう。ダービー?
 D・ダービー:…あるわよ。
  ホルホース:こっから先は修羅場だ、アンタはどっか遠くに逃げちまいな?な?

笑いかける俺の顔。

 D・ダービー:ラバーを殺したの?

苦しそうな声。
この声を聞いて戸惑ったら、イケナイ。

 ホルホース:さっさと消えな
 D・ダービー:アンタアタシをなんだと思ってんの?
 ホルホース:ああ?
  オインゴ:ちょ、ホルホースさん…
 D・ダービー:そこのガキ
  オインゴ:…は、はい?!
 D・ダービー:アンタ。誰かを殴らなきゃ自分も守れないの?
 ホルホース:っ…うるせえな…

DIOを殴れば、俺の仕事は終わるんだ。
俺は強い、そう、今だってこうして平然としてる。
ラバーソールは逃げたんだ、俺を怖がって。
俺は、なんのために力を誇示する?

 D・ダービー:なんですって?
 ホルホース:うるせぇって言ったんだよ。
 D・ダービー:誰が?
 ホルホース:テメェだよダービー。
 D・ダービー:何だよしけたツラしやがって。
 ホルホース:…え?

一瞬耳を疑う、疑うしかなかった。

 D・ダービー:なんだい、揃いも揃って誰か傷つけなきゃ自分も守れないの?
  ホルホース:…違う
 D・ダービー:どう違うのよ
  ホルホース:テメェみたいなオカマ野郎に分かるか!
 D・ダービー:……
  ホルホース:わからねェんだろ?だったら口挟むんじゃ
 D・ダービー:女々しいのはアンタよ
  ホルホース:うるせぇ!テメェ黙れ!
 D・ダービー:アンタの問題じゃ無いんでしょ、
        そっちのお兄さんとDIOの問題なんじゃないの?
  ホルホース:だからなんだってんだよ!
 D・ダービー:だったら自分でスジ通すのが当然ってモンだろうがテメェら!

オインゴは俺の後ろで縮こまってしまっていた。
俺は隠れる場所もなくて、ただそこに呆然としている。

 D・ダービー:テメェのケツくらいテメェで拭け!
        それが出来なきゃ男の誇りが廃る(すたる)だろうが!
        なんだ?自分にゃできません?
        決めつけてんのは誰なんだよ。
        できねぇって決めたのは自分だろうが。
        出来ないと思うなら、デカイ顔すんじゃねェ。

        んでなんだと?俺がオカマだ?だからなんだ?ナメんじゃねぇ!
        俺は自分のこと誇ってらぁ、ラバーが誇ってくれるから!
        自分のこと自分で誇れねぇんなら
        誰かに誇ってもらやぁイイじゃねぇか。
        それが出来なきゃその汚れたツラぁ一発殴ってでも
        気合入れんだよこのスットコドッコイが!


事務所に通ずる裏口の扉が
ミィ、と情けない音を立てて開いた。

裏口でうなだれたまま、扉のノブを回しきれずにいたラバーソールが。
ポカンと開けた口で。
振り向いたダービーと目が合う。
無論、ラバーソールの後ろにはDIOのポカンとした姿。


 ラバーソール:…あ、あは。
 D・ダービー:イヤーー!!!いたのー!?!?
 ラバーソール:……は…ッハハハッ!!イイぜそれ!スットコドッコイか、それ最高!
 D・ダービー:ば、馬鹿ー…
 ラバーソール:ってなワケでスットコドッコイの諸君オハヨウ★
  ホルホース:誰がスットコドッコイだと−!?
 ラバーソール:よう、スットコ親分
  ホルホース:なんじゃそりゃ、あれ?笑ってんなぁ、お前。
 ラバーソール:おー、そーよ、相変わらずねん。
  ホルホース:あのさ…さっき
 ラバーソール:ほらほら、似合うだろこの方が。な?
  ホルホース:…は、お前が笑ってると安心する
 ラバーソール:ウッソつけ
  ホルホース:お世辞だお世辞。

俺は戻れたかな。
それとももしかして気持ちを誤魔化せただけなのかな。
どっちでもイイ。
気持ちが軽くなったから。
ダービーの啖呵にははッきり言って俺も驚いた。
だってはじめて聞いたし、あんな…あんな、男らしい言葉!(笑)

俺、まだ「笑える」な、って。
俺が無理に笑わなくっても、誰かが笑わせてくれるかもな、って。
でもやっぱり俺は笑うの好きだな、って。
そんな気持ちが取り戻せたから、自分に一安心。
そんでもって、俺多分、尻に敷かれるな…って。思っちゃったりして。


  オインゴ:カッコイー…
 ホルホース:あーあ、気が抜けちまったよ
  オインゴ:俺は骨折り損ですか
 ホルホース:はは、そりゃまさにそうかも!?
  オインゴ:でもこれじゃ俺の気がおさまりません!俺は足の骨をDIOに折られたんですからね!?

 D・ダービー:え?…本当なの?
    DIO:なんの話題だ
 D・ダービー:この男のこの足の骨折ったのはアンタだって。本当なら…
    DIO:やめてくれ、そんな無駄なことを俺がすると思うか?
  オインゴ:俺の足の骨は無駄かよー!!
    DIO:酔っ払って俺の髪が金色がどうとか言って掴みかかってきて
       勝手に転んでどぶに落ちたのを引きずり上げ、
       怪我をしたようだから救急車を呼んだのは全部無駄だったのだろうか


全員でぽかんと口開けて。
ホルホースが派手にコケて一件落着?

ホルホースも何か思いつめてたみたいでしたが
不意に顔を上げて。

しかも困ったようにニッと笑って。


  ホルホース:なぁ…ラバー、特別かな、俺は。
 ラバーソール:特別だろ?
  ホルホース:特別かな、お前は。
 D・ダービー:ラバーは特別よ。当たり前のこと言わないで。
  ホルホース:そりゃアンタ、恋人は特別って言ってくれるのが…

不意に、そう言いながら天井を見上げた。
ああ、俺、会いたい人がいる。
俺を特別にしてくれる人が、俺自身以外にもう一人いた。


  ホルホース:帰るわ、俺。
 ラバーソール:ああ、土産くらい引っさげて行けよ?
  ホルホース:豚まんでイイかな?
 ラバーソール:マジかよ!もうちょっとムードのあるモンにしろってば!
  ホルホース:なんかな、こう柔らかいもんにかぶりつきたい気分なんだよ俺様は。


ラバーソールはその言葉に、ニッと笑って手を振って。
ホルホースはと言うと本当に豚まん引っさげて帰って行きました。
勿論二つの豚まんあったかい内に早く届けて。


  ホルホース:おみやげー
   ミドラー:あー!豚まんー!わーいあったかいー


ホクホク顔のミドラーとホクホクの豚まんとで。
彼がホクホクになったかどうかは彼自身に聞くしかないようですね。
でも今はお邪魔しないで置きましょう。


さて、オインゴはその後ダービーに食い下がっていたようで。
閉店後に店の中をモップ掛けしておりましたが。
片足でひょこひょことしているのを見て見かねたラバーソールが手を出すのは時間の問題。


さてはて。あれ?何か忘れていませんか?…お兄さん。



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