続・ご近所ジョジョ物語
ラバーソール編・第5話「(P(W)」


うなだれたまま、動けなかった。
動きたく無かった。出来る事なら息もしたくない。


ふらり、と歩き出す。


自分の顔に貼りついた無表情がとれない。力が入らない、ワケがわからない。


ラバーソール:一体…なんだってんだよ…


車の窓ガラスに顔がうつる。誰だろう、こいつは。
生気を無くした自分の顔。コレじゃ死人と同じだ…
なんの感動も無かった。ただただ、大きな疲労感。それだけが付きまとう。
俺は、こんなに無理してたのか?
疲れるほど?当たり前のように笑ってたつもりだったのに。


ガラスを殴りたくなる。
イライラする。壊してしまいたい、何もかも。
しかし、それさえも面倒で、疲れたという感覚だけが大きくのしかかっていた。


ラバーソール:死にてぇなぁ…


死にたくはなかった。死を欲しているわけでもなかった。
この状況から逃れるには一番早い手だと思った。それだけだった。
死にたくなんかない。
耳に、不可思議な電子音が伝わってくる。
なんだろう、この音は、耳障りな音…。
音のするほうに手をかけると、固体が手に当った。


ラバーソール:ほっといてくれ…。


携帯の画面をちらりと見る。
D・ダービーからだった。


ラバーソール:……ご免、ご免…。話せないよ俺…聞かせられないよこんな声…


なるまま。電子音が鳴るままに。
電子音が俺をせかす。早く笑え、もっと頑張れ。
無気力な俺は無感動でそれを聞いていた。ただ早く鳴りやんで欲しかった。


D・ダービーが心配そうに携帯をみやる。
呼び出し音が鳴り続ける。
何かあったんだろうか、もしかしたら、ホルホースに…?
そんなことがある筈がない、そんなことが。


D・ダービー:ラバーソール…お願い出て…


突然怖くなる。
呼んでも答えのない一方的な気持ち。
馬鹿でもなんでもいい、一言でイイからなにか聞かせて欲しい。
生きてるん…でしょ?
肩を叩かれ、びくっとして振り向く。


    DIO:ラバーソールに何かあったのか?
D・ダービー:……多分…ホルホースに会いに行ったのよ…
    DIO:余計なことを…
D・ダービー:余計で悪かったわね、イイじゃない、
        あんたのこと心配してやってんじゃない!
    DIO:怒るな。俺はほっておけと言ったんだ、
        それをヤツは無視した。自分で選んだんだろう。
D・ダービー:わかってるわ、でも…すぐ戻ると言ったのに…連絡がないのよ…
    DIO:ホルホース…に連絡は取れんのか?
D・ダービー:事務所に電話してみても…誰も出ないわ。
    DIO:……
D・ダービー:まさかとは思うんだけど、DIO…まさか…
    DIO:ホルホースは探偵だ、殺し屋じゃない。
        ラバーソールがヤツを殺そうとしない限り、そう言った事はないだろう…。
D・ダービー:じゃあ一体…。どこへ…
    DIO:捜しに行きたいか
D・ダービー:でも…店はもう開いてる、私はココのオーナーだから…
    DIO:気を使うな、俺が行く。
D・ダービー:え?
    DIO:稼ぎ頭がいなくなると困るか?
D・ダービー:自分で言うなんてたいしたものね。
    DIO:もう一人の稼ぎ頭を連れに行く、それが雑魚でもつまらんだろう
D・ダービー:言うわね……ありがとう…まかせるわ。
    DIO:任せろ。すぐに見つける。必ずな。


少し元気のでたD・ダービーを見て安心する。
なぜかこいつに元気がないと寂しい気がする。
そしてラバーソールの抜けるような笑い声も聞こえないと寂しいものだ。
俺はこいつらに、一体幾つの安心をもらったんだろう。


    DIO:お人好しになったものだ。


裏口から外に出る。空を見上げる。ぽつぽつとまばらに散らばる星。


    DIO:必要とされないだけ見えなくなって行くものなのか…


不意に飛び立つ影。
DIOの足元に影はさっと降りてきた。


    DIO:ラバーソールを探してくれ。俺は地上を探す。


その影はじっとDIOを見つめると、おもむろに羽を広げて飛び立った。
ホルス神のペットショップ。少しばかり知能程度の高いハヤブサだ。
俺から離れることなく、この日本までついてきた。


    DIO:あいつにはこの空が全部見えるんだろうな…


きびすを返して、街から外れた方に行く。
絶対に街の中にはいない、そんな気がした。
スタンドを持つもの同士が戦いを選ぶ時、
それは人間以上のものとして自分たちで扱う、ゆえに人間との接触を拒む。
どこかにスタンドの爆発的な力を感じるか、といえばそれがない。
現在ホルホースとラバーの二人が戦っている可能性は薄い。
だったらなぜ連絡してこない、ラバーソール。
俺のことなどほっておけばよかったのに。あのお人好しが…


空のうえから高い声がする。

見上げると、影が舞い降りてきた。


     DIO:見つけたか?


問いかけると、軽くうなずいて俺を促す。
自然に適応するものはそれが何かを知っている。
俺達がとうになくしたもの、自然から力を感じ取る能力。
いつから人間は自然から生まれたことを忘れたのか。
力と言うものは人の中から生まれるものなのか、それとも授かるものなのか。


ペットショップに促されてついた先は、いつもの裏手の公園だった。


     DIO:こんなところにいたのか…


ハヤブサは夜の闇にまぎれた。
俺は闇にまぎれることも出来ずにそこにただ呆然と存在している。
俺が見つけたのは、俺以上に漠然とそこに存在しているものだった。


     DIO:ラバーソール…?か?
ラバーソール:……


呼びかけられて、そう、音を感じたようにヤツは顔を上げた。
ベンチに腰掛けたまま。動いたと言うそぶりも見せずに。


     DIO:何かあったのか…
ラバーソール:DIO…?
     DIO:そうだ
ラバーソール:……
     DIO:お、おい?
ラバーソール:DIO…
     DIO:どうしたと言うのだ…お前…違う…ぞ
ラバーソール:俺が見つからないよ
     DIO:なに?
ラバーソール:俺は…どこにいるんだろう?
     DIO:何を言って…
ラバーソール:DIO、DIO。俺…俺…どうして…


涙だけが流れて止まらない。力は入らないのに、涙だけが流れる。


ラバーソール:俺どうして笑えないんだろう
     DIO:な…何を言っている。笑えないわけがないだろう
ラバーソール:怖い…だけで。あるのは怖いっていう感覚だけで…。
     DIO:しっかりしろ…
ラバーソール:……俺もう笑えなくなっちゃうのかな…俺もう駄目なのかな
     DIO:ふざけるな!


ラバーソールがビクッとして俺を見る。
今まで俺が見たことのない表情で俺を見る。
その服を掴んで無理やり立たせる。俺はなぜか怒っていた。


     DIO:笑え。
ラバーソール:やめろ… 
     DIO:笑えと言ってるんだ。
ラバーソール:苦しい…やめてくれ、ほっといてくれ…
     DIO:頼むから笑ってくれ!
ラバーソール:やめろぉぉぉぉぉお!


ラバーソールのスタンドが俺を包みこむ。
はじかれるように俺は突き飛ばされた。


     DIO:貴様!
ラバーソール:俺だってわかんネェんだ、
        俺だって何がなんだか、わかんねぇんだよ…
     DIO:俺はお前の笑顔が見たい、それだけだ。
ラバーソール:……
     DIO:…わかった…強制はしない。
ラバーソール:ごめん… 
     DIO:戻れ。D・ダービーが心配している。
ラバーソール:一番…会いたくないんだ
     DIO:そんなことだろうと思ったがな。だがお前には戻る義務がある。
        どうせ他に選択肢ももっていないのだろう?
ラバーソール:……
     DIO:無理にでもつれて行くぞ
ラバーソール:俺は何も考えられない…お前の好きにしてくれ
     DIO:ひどい怪我だな…
ラバーソール:……大丈夫だ…
     DIO:これだけ傷ついていて怪我がないとは言えんな…少し休む方がイイだろう…
ラバーソール:俺は傷なんか…。
     DIO:疲れたから休む、それでいいだろう
ラバーソール:…。


正直言ってかなり俺は驚いていた。
まさかラバーソールがこんな状態とは。D・ダービーに会わせるのがためらわれた。
ラバーソールは重い体を引きずるようにして歩いていた。
一人でいるわけじゃないのに感じるどうしようもない孤独感、疎外感。
それが伝わって来る。俺が持ちつづけていたものと同じ感覚が。


D・ダービーの店の裏手に来ると、ラバーソールが足を止めた。
無表情に入り口を見つめている。


     DIO:俺が許可する、入れ。
ラバーソール:……


扉のノブに手をかける。それは異常に重かった。
店の中で声がする。
D・ダービーの声…。と…
ラバーソールとDIOは一瞬顔を見合わせた。
控え室にいたのは……。ホルホース達と向かい合うD・ダービーだった。


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