ご近所ジョジョ物語
第9話・オチルモノ

                       

あたりを見まわす。
鈴が、近くで座ったまま眠っている。
その向こうのソファではさっきの男が眠っていた。
時計を見る。
8時・・。
朝の8時だ。


    デーボ:・・・生きて・・・いる・・のか・・・。


なぜか愕然とする。
だが助かったような。
鈴が近くにいてくれている。
これ以上、まき込むわけにはいかない・・・・・。
痛む膝。
血は止まっているようだった。
頭がくらくらして止まらなかった。
が、意識はある。
やらなければいけない事がある。
行かなければならない所がある。
立ちあがらなくては。
やっとのことで体を起こす。
あちこちが痛む。
どうって事はない。
いかなければ。
そうしないと俺は俺を保てない。


誰にも気が付かれない様に。
気力だけで立ちあがる。
外に出る。離れる。一刻も早く。鈴の元から。
昨日の公園でエボニーを拾う。
スタンドは・・・いくらか使える様だ。
エボニーが立ちあがって跳ねる。
大丈夫だ。

いかなければ。


気が付くと、大きな家の前にいた。
裏口から、エボニーだけを入れる。


   デーボ:呪ってやる・・呪い殺す・・。
       お前を殺さなければ・・・俺は・・・・


壁にもたれ掛かりながら、歯を食いしばる。
エボニーを通して家の中の状況を探る。
どこかに、標的がいるはずだ・・・。
資料では、10時にならなければ家を出ることはない。
まだ、中にいる。つき止めて、殺す。それだけでいいんだ。
寝室には、いない。
そのとなりの部屋から音が聞こえる。
電話をしている様だ・・。


  花京院:もしもし・・・ぼくです・・花京院・・そう。うん・・その件で・・。


花京院典明。
標的。
エボニーがゆっくりと扉を押す。
音も立てずに、小さな隙間を作る。
花京院の姿が見えた。
同時に花京院がこちらに気付いた。
電話を持ったまま、後ずさりする。


  花京院:ごめん、ちょっと急用だ・・。またあとで・・・失礼


電話を切る。
エボニーを見たまま、動かない。


  花京院:何者だ・・・・。
 エボニー:アンタに用があるのさ・・。
  花京院:一体・・・
 エボニー:ヒャヒャッヒャーーーーーーーーッ!!!!


笑い声と共に、飛びあがる。
花京院の喉元めがけてナイフでなぎ払う!
飛び退いてかわす花京院。
机の上に飛び乗って、花京院に狙いを定める。標的は、ゆっくりと、息をしている。
めったやったらに斬りつけるが、ことごとくかわされる。


  デーボ:・・・チ・・ッ・・集中できねぇ・・。


エボニーを通して見る花京院は大きかった。
ナイフが花京院の足をかすめる。
そのまま飛びあがってナイフを食いこませようとしたその時!
エボニーが弾き飛んだ。
体のあちこちにエメラルドの弾丸を食らって。


 エボニー:ン・・ッギャーーーーーッ!!!
  花京院:油断したな、ぼくを甘く見ないほうが良いッ!
 エボニー:きっさまー!スタンド使いかぁーッ!?


吹っ飛んだ体を起こし、飛びかかりながら叫ぶ。
背中にしょっていた槍を掴み、投げつける。
それをかわそうとした花京院にナイフで切りつける。
ナイフが、空中に舞った。


人通りのない小さな道。
デーボは血を吐きながら、壁を背にして立っていた。
足から力が抜ける。
呪いの力が・・・続かない・・・・。


  デーボ:スタンド使い・・だったのか・・道理で・・・・。


エボニーが落ちて動かなくなる。
ただの人形と化して。
花京院が家から出て、近づいてくるのがわかる。
かすかに残った力で、エボニーから見たその風景。


  花京院:貴様かッ!スタンド使い・・!


花京院が俺にそう言った。
俺はそいつを睨んでやる。
花京院が怪訝そうな顔をしているのが見えた。


  花京院:手負いか・・・何故その状態で・・僕を・・?
  デーボ:・・
  花京院:度胸だけは誉めてあげるよ。でもね、僕を甘く見過ぎじゃないか?
      もう一度出直しておいで。
      まともに戦えないんじゃ君の夢見が悪いだろうから。
  デーボ:・・この・・・・
  花京院:自殺の手伝いなんかしたくないよ。
  デーボ:・・・・・・・!!!


人形を投げ捨てるようにして、花京院は家の中に消えた。
ボロ屑のように転がった人形。
抜け殻の本体。
この、動かない体。
どうでも良くなって、目をつぶる。
暗闇に、自分の体が溶けていく。
ふわり、と。
柔らかい感触。
水のようなものが肩に落ちる。
うっすらと目を開ける。
そこには、鈴がいた。


  デーボ:もう・・・許してくれ・・。
    鈴:・・・・・・・
  デーボ:・・苦しい・・・あんたがいると・・。
    鈴:鈴は・・・鈴は・・・もう・・・離れたくありません・・。
  デーボ:・・・・・・


泣きはらしたその目から、とどまることなく涙が溢れている。


  デーボ:俺はこの世界から・・・
    鈴:ここにいたいんですか・・・?本当に・・?
  デーボ:・・・・戻れないと・・
    鈴:お願いです・・・苦しまないでください・・・。
  デーボ:苦しむ?俺が・・・?
    鈴:・・・・・
  デーボ:俺が・・・・。そうか・・そうかも・・知れないな・・。
    鈴:デーボ様・・・
  デーボ:アンタ、死にたいのか・・?
    鈴:どうしてですか・・・?
  デーボ:俺にかかわるってコトがどう言う事か・・。
    鈴:気持ちに勝てませんでした。
  デーボ:・・・俺も勝てねぇよ・・・


いたわるように体を触っている鈴の指をどける。
そのかわりに・・・・


    鈴:・・・デ・・・・デーボ・・・様・・?
 

出来うる限り、柔らかく、弱く、確実に鈴を抱きしめる。
鈴の髪が、肩をくすぐる。


  デーボ:俺の・・・・負けだ・・・・。
    鈴:ごめんなさい・・
  デーボ:・・・・
    鈴:鈴がデーボ様を追いつめていたんでしょうか・・・
  デーボ:・・・・・言って、いいか・・・・?
    鈴:はい・・なんでしょう・・・・
  デーボ:アンタが・・・・・・俺は・・
    鈴:聞きたいです・・・言って、ください・・
  デーボ:・・・・気持ちいいな、アンタ・・。
    鈴:お怪我は・・・?
  デーボ:大丈夫だ・・。痛みはほとんどない・・。
      多分麻薬の一種だろうな・・。
    鈴:ま・・麻薬・・?
  デーボ:あんたの・・・気持ちが、
      俺の感覚を麻痺させちまった・・・・まったく・・やられたよ・・。
      好きになっても・・・いいのか・・・俺、が・・。
   

答えの替わりに鈴がぎゅっと抱きついてくる。
その髪を指で触ってみる。
鈴は確かに、そこにいた。


  デーボ:話したいことがある・・。
    鈴:はい・・。鈴もお話があります・・。
  デーボ:なんだ・・?先に言ってくれないか・・?
    鈴:病院に行ってください・・。
  デーボ:病院は・・
    鈴:ホルホースさんが、教えてくれました。
      スタンド使いならこの病院に行けと・・。
  デーボ:ホルホース・・が・・・・
    鈴:デーボ様は、スタンド使いさんなんですね・・。
  デーボ:そうだ・・・ホルホースから、聞いたのか・・?
    鈴:すみません・・勝手に・・。でも・・このままじゃ弱ってしまいます・・。
  デーボ:ホルホースは信じがたいが・・・あんたに賭けてもいい。
    鈴:良かった・・気が気じゃなかったんです・・・・良かった・・・良かった・・・。


また、肩に冷たいものが落ちているのを感じた。
自分のために泣いている。この鈴と言う女は。
母親もそうだったのかもしれない。
俺の母親も。
泣いていたのを覚えている。
俺をなじって、一家の負担扱いしていたあの女。
あいつも、俺の為に泣いていたような気が、はじめて、した。


鈴にすべてを話さなくては・・・。俺が感じていた、すべてを・・。
鈴の髪を触ったまま、そんなことを考えていた。

       
 

                                        
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