ご近所ジョジョ物語
第8話・枷

                       

悲鳴。叫び声。
ホルホースが気を失う。
突然の痛みに対応しきれなかったのだろう。
倒れたホルホースの背中から、ナイフを引きぬく。
また、血が溢れる。
ゾクっとした。
あんなものが人の中に流れていると思うと、気味が悪かった。
自分の足からも同じものが流れている。

なんのために・・・こいつを・・。
考えようとしたとき、鈴の声が耳に入った。
聞こえないだろうと思っていたその声が。


    鈴:デーボ様ーーーーーーッ!!


その声に恐怖を感じる。
動けない。
俺は、決めなければならない・・・・・・。
と、ミドラーのハイプリエステスが動いた。
反応する気もなかった。
覚悟とは違った、気分。
ふ抜けた自分に嫌気がさす。
ハイプリエステスが、突然目の前で車に変貌する!


  デーボ:・・・・・・?!?!


見上げると、車は音を立てて扉を閉じた。
ミドラーの姿が見えない。
乗りこんだ・・・・か・・・・?!
エンジン音が間近で響く。
飲みこまれそうな車体。
恐怖を感じると言うことは、死ぬのが怖いと言うことか・・・。
今更のように気付く。
エンジン音がさらに音を増した・・・!!!
と、からかうかのように、デーボの横をすりぬけて走っていく車。
壁を破壊して、公園を出ていく。


  デーボ:・・・・にげ・・た・・・ということか・・。


それを目で追おうとして、はじめて霞んだ景色に気が付く。
景色じゃない。目が霞んでいるんだ・・。
鈴の声が響く。


    鈴:そんな・・・そんなぁーーーーっ!!!
 

そこにしゃがみこんでしまう。
そして、嗚咽を繰り返す。
ぼんやりとした頭の中で、それを聞いている。
ポツリとつぶやく。


  デーボ:もう、駄目なんだ。


それを聞いたのか、鈴が顔を上げる。
きっとデーボを睨む。


  デーボ:なんだよ・・。俺が憎いかよ・・・?


睨みつけたまま、一生懸命に涙をこらえている。
また、息が苦しくなる。
止めてくれ…もう…。
驚いたことに、鈴は近寄ってきた。
睨みつけながら。


  デーボ:……。
    鈴:デーボ…様っ…。
  デーボ:なんだ
    鈴:その世界がお好きですか・・.
  

息が詰まる。


    鈴:私も行っていいですか?
  デーボ:・・・・な・・なに・・?!
    鈴:貴方が苦しんでいるその世界に、ワタシが入ってもいいでしょうか。


理解できずに鈴を見上げる。
霞んだ鈴が、ゆっくりと近寄ってくる。


    鈴:貴方はこの世界でしか生きられない、そう言いました・・っ・・・.
  デーボ:わかってるなら・・・・・
    鈴:デーボ様がそう勝手に決めたんでしょう?!


そうなんだ・・分かっていた.そのことは、気付いていた.
だが、分かったからと言ってどうになるものでもない.


    鈴:デーボ様が勝手に決めたんだったら、鈴も勝手に決めます!
  デーボ:駄目だ・・・ッ!
    鈴:鈴は貴方を助けてあげたいです!
      でもどうしたらいいか分からないんです・・!!!! 
  デーボ:余計なことだ・・.
    鈴:鈴が・・・お嫌いですか・・・・?


デーボの前にしゃがむ鈴。傷を見て、眉をしかめる.
鈴の顔が、間近で苦しそうにゆがむ。
答えろと言うのか、それに.


  デーボ:俺は・・・


鈴を見る。こちらを見つめている瞳。まっすぐな、綺麗な瞳。
いたたまれくなる。
鈴の瞳が、見えなくなってくる。
くらくらして、頭を上げていられない。
息が詰まる。めまいがする。
みえ・・ない・・・・。


   鈴:デーボ様・・・いけない・・出血が止まらない・・。
     どうしよう・・。救急車を・・!
 デーボ:駄目だ・・呼ぶな・・。
   鈴:そんな・・ああ・・・デーボ様・・・!
     

ハンカチを出して、デーボの膝上を縛ろうとする。
感覚で、それをさけるデーボ。


   鈴:このままでは血を失って・・・し・・・・しん・・・でッ・・・・
 デーボ:だから・・・なんだ
   鈴:お願いだから、縛らせてください!!
 

血は止まることが無い。
意識が消えそうになったり、戻って来たり。
繰り返し。
鈴の声も途切れる。
体が、倒れるのを感じた。


叫ぶ声。


   鈴:デーボ様・・・!!!
     しっかりしてください!どうしよう、どうしよう!!


鈴が、悲痛な叫び声をあげたそのときだった。
近くの木陰から、細身の男が小走りに近寄ってくる。


     男:おい
     鈴:きゃ・・!
     男:どうした・・・・・って・・・おい!すげえ血じゃねぇか?!
     鈴:止まらないんです、どうしよう!デーボ様!!
     男:意識はあるな?


男はそう言うと、デーボの首に手を回し、持ち上げながら頬を叩いた。
デーボが、焦点の合わない目を開く。


   デーボ:・・・余計な・・ことをするなよ・・。
     男:しねぇよ。俺が余計だと思うことはな。
      

変なやつにつかまっちまった・・。
もう、どうでもいいか・・。
こいつも・・殺すか・・・。
消え入る意識の中で、そんなことを考える。
こんなときまでそんなことを考えている自分に気が滅入った。
そこに、もう一人、男が来た。
声がしたから分かった。
もう、感覚もその程度か。


   男2:なんの騒ぎだ・・?


そいつは、用心深そうだった。
近づいてくるも、その速度は警戒している。


    男2:死にたいか・・。
   デーボ:・・・な・・・にっ?
     

何もかも、見透かされているようだった。
俺は、どんな顔をしているのだろう。
死に急いでいるのだろうか。
何故死にたいのだろうか。
鈴は、笑ってくれるだろうか。
俺が死んで、枷がはずれて。


     男:会話はあとだ。ここから俺の家が近い。
    男2:なんのつもり・・・
     男:ここにいるわけにも行かないだろう。そして病院に行くわけにも。
   デーボ:・・・・・
     男:DIO、手伝ってくれ。
   DIO:・・・・俺が・・・か?
     男:他に出来るやつがいない。
       それと、俺は意地悪なんでね。
       死にたそうな顔してる奴をそのまま楽にさせてやるほど優しくねぇ。
   

会話が聞こえたのは、そこまでだった・・・・・・。
意識・・・・が・・・・・・とぎ・・・れ・・・・・・・・。

                                        
<NEXT>