ご近所ジョジョ物語
第6話・鈴

                       

うなだれたまま、街を歩く。
このごろは暗くなるのが早い。暗いほうがいい。
何も見えなくなるから。見なくて良い物は見えないから。


  声:デーボ様・・。
デーボ:・・・・・・・

人気の無い公園。この位の静けさがいい。
気のせいか、呼ばれたような気がしたが、振り向けなかった。
立ち止まり、ポケットから羽飾りを取り出す。
エボニーの頭にのせて、地面に下ろしてやる。
鈴の声が頭の中で響く。信じられません。分かりません・・・・。
なんで、こんな気持ちになるんだ。俺は、こう言う生き物だ。
何時になったらあきらめられるんだろう、自分が人間であると言うことを。


  声:デーボ様・・。
デーボ:・・・・・・?!


本当の声に気づき、振り返る。


デーボ:・・・・・・あ・・・アンタ・・。
  

そこには顔を引きつらせた鈴がいた。
同様にデーボも動けなくなる。
長い時間がすぎたように感じた。


デーボ:かかわるな・・・・俺に・・。
 

やっとのことでそれだけ言い放つ。
声が苦しそうに発せられたのに自分でも気づく。


  鈴:私は・・・・・・多分・・・デーボ様が・・。
デーボ:何を言うつもりだ?!止めておけ。もう駄目なんだ!
  鈴:私は自分の真実をデーボ様に伝えようと思って追いかけてまいりました。
デーボ:・・・・・・・・
  鈴:私の真実は、そんなに意味が無いでしょうか。
デーボ:・・・・・
  鈴:考えても分からないです。でも、分かったことだけでも・・。
デーボ:なんで・・・・
  鈴:はい・・?
デーボ:俺なんか・・。
  鈴:分かりません・・。でも、鈴はあなたのことが好きです。


真正面からその言葉を見せられる。
息が、出来ない。そんな短い間・・。
鈴が、ゆっくり近づいてくる。


デーボ:怖く・・・・ないのか。
  鈴:自分を信じています。
デーボ:自分を?
  鈴:怖いですが・・自分の、デーボ様に対する気持ちを、信じています。
デーボ:・・・・・殺されるかもしれないとは・・。
  鈴:思っていません
デーボ:・・・・・・ッ!!!!
    ・・・・・・それ・・以上ッ、近づくな!!!
  

やっとのことで叫ぶ。
びくっとして、鈴が止まる。すこし、おびえが見られた。
デーボはすこしづつ後ずさりを始めた。
息が、しづらい。
カカワッテハイケナイ。


  鈴:デーボ様・・。どうして私を怖がるんですか?
デーボ:!


怖がる・・・?鈴を?
怖い。恐ろしい。この感情は・・・。恐怖・・・。
何故、恐怖を感じるのか・・。分からない・・。分からない・・。
何も、考えられない・・・!


  鈴:分かりました・・。鈴は・・・もう・・・
デーボ:・・・・・・・!


帰ろうとされると、また息が乱れる。
苦しい。


デーボ:もう・・・戻れない・・・・・の・・か・・。


気絶しそうな頭に手をやる。くらくらして、止まらない。
鈴が、ゆっくりと背を向ける。
殺すなら、いまだ。
殺す・・・?何故・・・・。


  鈴:教えてください。


背を向けたまま、鈴が言う。


  鈴:これからも、そのお仕事は続けられるんですか?
    

その背に向かって息も絶え絶えに答える。


デーボ:つづけ・・・・る・・。
  鈴:それは・・何故ですか?
デーボ:生きる、ために・・。
  鈴:・・・・・・・生きるために・。
デーボ:それ以外、出来ない・・。
  鈴:え?


振り向くと、デーボは、苦しそうに地面に膝をついている。


  鈴:デ・・・デーボ様・・・??
デーボ:俺は、他の仕事が出来ないんだ・・・・。
  鈴:大丈夫ですか・・・?!
デーボ:この、体の傷が・・俺を、社会から、遠ざけ・・。ッく・・。
  鈴:どうなさったんですか?!
デーボ:近寄るな・・。すぐ、直る・・・。
  鈴:嫌です。近寄らせたくないなら、殺してください。
デーボ:ち・・・・・・かづかないで・・・くれ・。
 

その言葉を無視するように、鈴は躊躇なく近づく。


デーボ:見れば、分かるだろう・・・・・。この外見で・・・。
  鈴:だから、殺し屋さんですか?
デーボ:・・・・・っ・・。
  鈴:落ち着いてください・・・ゆっくりと息をして・・。
デーボ:あ・・・あんた・・・・。
  鈴:大丈夫です・・。極度の緊張から来る呼吸困難ですから・・。
デーボ:・・・・・
  鈴:もともと、看護婦なんです・・。


ゆっくりと背をなでられ、息が落ち着いてくる。
体が、気持ちが、落ち着く・・。


  鈴:デーボ様・・・
デーボ:・・・・・
  鈴:・・・・・・。
デーボ:俺は・・・・アンタが・・・・多分・・・・。
  鈴:・・・・・はい・・。
デーボ:だが・・・。
  鈴:・・・・・
デーボ:答えが欲しいなら・・・教える・・。
  鈴:聞かせてください。
デーボ:こんな殺し屋が。あんたみたいな女と付き合うわけには行かない。
  鈴:・・・・・・・。
デーボ:いままでもそうだった。・・・
  鈴:お一人なんですか・・?
デーボ:勘当されて・・で・・。一人暮しで・・。こんな事言ってもあんたにとっては・・。
  鈴:聞きたいです。お話してください・・。
デーボ:・・・・。こっちに一人で出てきてみて・・。分かった。
    俺は、表じゃ生きられない人間だ・・・と。
    どこへいっても怖がられるのがオチだ。この傷だらけの外見では・・。
  鈴:・・・・・私は怖くないです・・。
デーボ:・・・・世間ではそうは行かない・・。
  鈴:でも、私はデーボ様が・・。


そう言うと、鈴はデーボのコートの端を掴んだ。
小さな手が、かすかに震えていた。



                                
<NEXT>