クラウディア
==========撮影現場===========================

お互いを邪魔にしつつ忙しく動き回る数人。
朝の早い時間帯に昼間のような喧騒を見せるのは倉庫街。

フェイスレス:「ほらぁ、遅いよ!さっさとしないとタイミングが悪くなるじゃぁないか」

その言葉に一層忙しくなる現場の動き。
満足そうにそれを見やると、控え室変わりにしていた倉庫の一室へと。

    ギィ:「監督」
フェイスレス:「ああ、今日はまた頼むよ。ジョージ君は?」
    ギィ:「それが来てないんですが…携帯電話もつながらないようなんです」
フェイスレス:「んじゃ、ギィ君、君頼むよ」
    ギィ:「は、はぁ…最近僕ばっかりですね」
フェイスレス:「まぁそう言うな、君を個人として雇ったのではなく
        君のトコロの事務所と契約をしているんだからねこっちは。」
    ギィ:「分かっていますよ。しかしねェ…」
フェイスレス:「ギィ君クラウディアは今どこか知ってる?」
    ギィ:「いいえ、まだ控え室でしょう?」
フェイスレス:「いないんだよ。他のトコロに置いたのかな?
        ここに置くように言っておいたんだが
        とうとう大道具扱いされてしまったかね。おい、誰かクラウディアを探してくれ」

単なる、それだけのことだと思っていた。
その後どれくらい探してもクラウディアは見つからず…

フェイスレス:「阿紫花くんとは連絡は?!」

監督の声も高くなり
昼を過ぎ…
夜になってもクラウディアは見つからなかった。
皆が噂した。自分で歩いて出ていったのではないか、とか。

フェイスレス:「そんな…コレでは映画が取れない…阿紫花君は?!」
    ギィ:「連絡が取れました!いまこちらに向かっています」
フェイスレス:「困るんだ、困るんだよ…アレでなければいけないんだ。代用出来るモノなどあるはずがない…」
    ギィ:「…監督。」
フェイスレス:「……なんだね」
    ギィ:「言い難いんですが…」
フェイスレス:「はやく言いたまえよ。イライラしてくる」
    ギィ:「盗まれたのではないでしょうか…」
フェイスレス:「誰に!」
    ギィ:「…ジョージに…」
   阿紫花:「そんな訳ねぇでしょう!だってジョージさんは昨日…」

振り向くと息を切らした阿紫花の姿。
現場全てが焦っていた。
クラウディアはかかせない存在であり、
代用になるものなどありはしないのだから。
ジョージの代用は僕が出来ようとも。

フェイスレス:「阿紫花くん!クラウディアは君のトコロに…」
   阿紫花:「残念ながら…ウチにはありません。」
フェイスレス:「…ジョージ君と会ったのか」
   阿紫花:「昨日の夜はアタシと一緒でしたよ…」
    ギィ:「どこで?」
   阿紫花:「DHR。飲み屋です」
    ギィ:「……ジョージは今どこに?」
   阿紫花:「アタシも其処までは…家にいねぇんですか」
    ギィ:「君達がね、どんな関係だろうと構わないけれどね」
フェイスレス:「ギィ君!やめたまえ」
    ギィ:「いいえ、やめませんよ。疑われるような行動をとっているヤツが悪いんですから」
   阿紫花:「ジョージさんを疑うんで?」
    ギィ:「相応だろう?そして君はジョージと仲が良い様だ」
   
阿紫花が煙草の煙をゆっくりと吐く。
その顔をきつく睨みつけたが表情一つ変えなかった。
自分の作った人形が消えたと言うのに、随分と落ちついているじゃないか、この男。

   阿紫花:「どう言う意味ですか」
    ギィ:「…アレの友達なら同じ性癖かと思ってね」

僕は知っている。
ジョージの過去も。
アレがどんなことをしてきたかも。
車を手にいれては自殺まがいのことをする。
バイパーのボンネットの中身も僕は知っている。
でも知らないフリをしていた。仲間だからね。
僕は逃げおおせた。
だけどアイツは裏切った。
自分だけ英雄になって。
僕たちの仲間は皆捕まって僕だけが残った。
ジョージは僕がその時の逃げきった一人だなんて知らないんだろう。
知らないはずさ。だっていつも当たり前の様に会っているし普通に笑っているし。
僕の笑顔の裏なんて、知りもしないんだろうさ。
君がスタントを失敗することが多い理由も、知らないんだろうね。
仕掛けたのは。

僕さ。

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