クラウディア
映画クラウディアの撮影現場。
フェイスレス監督は何人ものスタントマンを用意した。
ギィも一緒だった。
今日は只のカースタント。
爆発を擦りぬけて上手く後部座席のみを破壊させ、スピンして止まる、それだけのこと。
ギィが笑っている。

  ギィ:「今日は失敗しないで欲しいな」
ジョージ:「……」

ギィは百戦錬磨のスタント。その腕は業界の誰もが認める。
ジョージラローシュ、それはこの私の名前、この名前は表に出されてはイケナイ名前。
フェイスレス監督の撮影のみに使われるスタントマン。
彼の取り計らいにより肉体の再生能力を持つように改良された、それだけのスタントマン。
私が演(スタント)してイイのは死ぬシーンだけなのかもしれない。

  ギィ:「自分の身体もうちょっと大事にしなよ。資本だと思わなけりゃ」
ジョージ:「…わかっている」
  ギィ:「分かって無いから言ってるんじゃないか、わからずや」
ジョージ:「わからずやだからわかっていると言ったんだ」
  ギィ:「わからずやだからわから無いんでしょ」
ジョージ:「わからずやってのはわかっているのにわからないフリをするヤツのことだろう」
  ギィ:「屁理屈ー…」
ジョージ:「なんとでも言え」
  ギィ:「そんじゃぁハゲ」
ジョージ:「……関係あるのか…」
  ギィ:「うーん。ないね多分。でもハゲだね。かんっぺきにハゲだね、それも怪しいほうのハゲだね」
ジョージ:「…それじゃお前は怪しいほうのマザコンだ」

と、まぁこんな感じでギィとは余り仲がよろしくない。

そんな会話の直後のスタントだったからだと思うんだ。
また、私は失敗した。
身体半分が吹き飛ぶような感触に襲われて。
気がついたらベッドの上。

  ギィ:「あーあー。あいかわらずだね」

ギィは私にそう言い残して処置室を出ていった。
失敗を恐れるなとはよく言った物だ。
失敗を恐れなければ失敗する、それが本当なのでは無いか、などと…
そんなことを考えていた矢先にその男は私の元を訪れた。
ベッドに座りこんだ私の背後から声をかけてきたその男の名前は阿紫花。
この映画の中心となるクラウディアという女性型の時計を製作した男だ。

その男は私の身体を見ても驚かなかった。
それを知っても驚かなかった。
妙な男だ。

アレほどまでに美しい時計を作った男だとは到底思えぬ容姿。

その男を見た時に私は直感した。
この男は
…失敗を恐れない。


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