爆音が遠くで聞こえる。
人々の騒ぐ声。
走って来た男を捕まえて、何事かと尋ねると。

走って来た男:「スタントの爆発音さ」

へぇ、とその言葉にそれだけ返して。
もうもうと上がる煙に向かって走り出す。
だって、ねぇ。ちょっと楽しそうじゃないですか。


煙の元にたどりつくと物々しい現場の様子と爆発に巻き込まれた車の残骸。
カラカラと転がってきたホイールは恐らく信用度抜群の日本車の製品。
今にも弾け飛びそうな車の傍らに立つ男。
肩までの銀の髪に片目を風で隠し、何事もなかったかのようにその場を去る。

そんな、シーン?

???:「阿紫花さんじゃないか」
阿紫花:「ああ、ギィさんですか。相変わらずド派手なスタントで」
 ギィ:「い〜や、今日は散々だったよ、ジョージのおかげでね」
阿紫花:「散々ですかぃ?」
 ギィ:「僕は成功したけどね、ジョージが失敗してさ、アイツ吹っ飛んじゃったんだよね」
阿紫花:「は、はあ?!!じ、事故ですかい?!それでも撮影続けるってのは…」
 ギィ:「いいんだよ、アイツは大丈夫だから」
阿紫花:「?」

イイも悪いもあるもんかい。
事故は事故でしょうが、撮影で怪我人だなんて縁起でもねぇ。

 ギィ:「ジョージにあったことは?」
阿紫花:「いやぁ。ねぇんですよ。名前聞くのもはじめてで」
 ギィ:「あっていけば?多分もう生き返ってる頃だから」

そう言ってにこっと笑うと彼は其処から姿を消した。
あとに残されたのは頭をぽりぽりと掻くだけの阿紫花英良。
『生き返ってるころ』、ってのは、普通の会話で使う言葉じゃねぇですからね。
今日は探しモンで来てるのに、こりゃ散々振りまわされてる気分ですねぇ、
なんてぶつぶつと文句を言いながら。

{救護室}

表示に釣られて中を覗きこむと恐らく運ばれたスタントマンの落とした点々とした血の跡。
それをたどって中へ。
行き去る人に挨拶を交わしながらたどりつくと、
奥の簡易ベッドで背を向け、あぐらを描いている男が一人。

 阿紫花:「ジョージさンってのは…」

かけられた声に振り向きもせずに、後ろで束ねていた髪を片手でほどく。
ギィと同じ銀色の髪が長く両肩を隠した。

ジョージ:「…誰だ」
 阿紫花:「アタシは阿紫花。阿紫花英良といいます」
ジョージ:「ああ。クラウディアの生みの親か」
 阿紫花:「まぁ、そんなとこですネェ、大丈夫ですかい?」
ジョージ:「私の心配が必要だと誰かが一言でも言っていたか?」
 阿紫花:「いいえ」
ジョージ:「ならば必要ないのだろう」
 阿紫花:「ひねくれてますネェ」
ジョージ:「余計なお世話だ」
 阿紫花:「アのね、アンタ人と話をする時はちゃんとその人を見るのが礼儀ってモンですぜ」
ジョージ:「見られたいか?」
 阿紫花:「アンタに礼儀があるならね」

その言葉に、
ジョージが振り向いて。
うっと息を飲んだのはつかの間。
半身が焼け、肩の骨が白く見えているのは

 阿紫花:「…っ、ああ、特殊…」
ジョージ:「残念ながら特殊メイクでは無い。今更言うが ”見て後悔するな”」
 阿紫花:「そりゃ見せる前に言う言葉でしょ」
ジョージ:「まぁな」
 阿紫花:「痛くねぇんで?」
ジョージ:「そう言う身体だ。見ていれば分かる」

その言葉通りに。
目の前で骨が肉に覆われ、傷口が泡立つような音と共に塞がって行く光景。
こりゃ、生でスプラッター見せられてるようなモンですね…

 阿紫花:「うわ、気持ちワル」
ジョージ:「……悪かったな」
 阿紫花:「生まれつきですかぃ?」
ジョージ:「いいや、私はスタント用に改造された人間なのでね」
 阿紫花:「失敗してもオッケー、って?ことですか」
ジョージ:「どうとも言えるな」
 阿紫花:「言っちゃぁなんですが、スタントってのは失敗したらまずいモンなんじゃねぇんですか」

その言葉にジョージがまた背を向けてしまったんで
ああ、ツボだったかな、なんてニヤニヤしてたら、後ろ手に洗面器を投げられちまいました。

ふぅん、と納得して。
挨拶だけしてその場を離れ。
ついでの拍子にめっけモンでしたかね。
フェイスレスを捕まえてジョージの連絡先なんか聞き出しちゃったりして。

フェイスレス:「なんだ、彼に興味があるかね」
   阿紫花:「え、ああ、いーえ、時計のお直しを預かったんですが連絡先を聞き忘れましてね」

そう言うアタシの言葉はにはもう耳もくれない様子で現場の指揮。
邪魔にされねぇウチに退散退散。


  
  で、残された課題は。
  どっちを選んだらイイか、ってことですね……

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