目の前に山崎がいる。
別のところで生きていた俺たちが重なり合った。
体?そりゃいつもだ、今回は珍しく、仕事の部分で重なり合ったんだ。
ロシア…っと、今はソビエトだっけか?まあどっちでもいい。
俺が生きている間にころころ名前変えるような国のことなんかそうまじめに覚えてやる義理はない。
っと、その国からの軍事用の武器を買い付けたんだが…
どこで?かって?ネットのオークションだ。

…信じるなよオイ。

「ったくよ、俺の顔借りなきゃ商売もできねぇの?」
「まさかお前が北にまで手を広げているとは思わなかったんでな…使えるものは使う」
「手数料はバッチリ取るからな」
「…」

相変わらずがめついな…
取引場所は、山崎が指定した。
飛行機よりも海の上からの運搬のほうが法律に縛られにくいのは世間一般での常識。
俺たちの世界での常識、だがな。

建て前はIT機器の輸入。
査察の人間はすべて山崎が用意した香港系のアメリカ人。
いうなれば、それ専門に裏で稼いでる表向きは法律上にいる人間。
いるだろ、警察の中に裏社会の人間、ってな。
当たり前のことよ。

どこにどこのスパイがいるのかわからない、
二重スパイ、三重だなんて当たり前だな。
根っこの部分を知っているのは、山崎ただ一人。
俺にさえ、教えない。
当然だ、仕事だ。

「いつの間にこんなルートを…」
「いつだか」
「俺の方が人生長いってのに、やられたもんだ」
「だな」
「自分で言うな」
「テメーの生き方に一貫性がなさ過ぎるんだよ」

長すぎて、一貫させたら耐えられないだけだ。
今の俺は快楽を追いかけているがな。
そのうち、それにも耐えられなくなるんだろうか。
そもそも、俺はこいつを抱くことだけで生きているんだろうか。
俺は山崎が気に入っている、なぜだかはわからない。
惚れた?
一番近いかもしれん、けれども。
こいつの体が好きなのか、それとも生き方が好きなのか。
両方であればいいとは思うが、どうやらそれに自信がない。
こいつを抱いてると気持ちいいから、抱く。

それは
不毛なのだろうか。

時間よりも早く取引場所に付いた俺たちは、あたりを探ることにした。
俺には付き添いはつけていない。邪魔だ。
ボディーガード?
そんなもの、必要あるわけがない。

堂々と昼間の港。
そのひとつの倉庫の中に運び入れられる予定のIT機器。
個数は24。相手が出せるだけの最上限を狙わせてもらった。
すべての武器が、その機器の中に部品として組み込まれて届けられる。
組み立てる面倒は金に換えればたいしたことではない。
この段取りも、山崎がつけたものだ。
…対した物だ。

俺は捌くほうのルートに強いからな、言うなればイイ仲介相手を見つけたってところだな。

「この倉庫か」
「ああ。そうだな、B−29、覚えやすいだろ?」

確かに。


コイツは、
山崎は、俺のことをどう見ているのだろうか。
体?生き方?一過性の快楽?

肩を掴むと、振り返る見透かしたような顔。

「…なんだよ」
「やらせろ」
「はぁ!?」
「抱いてないと何も感じられない。だから…」
べち。
両の掌が俺のほほを強く叩いた。
挟み込まれて、腕ぞいに見えるのは山崎の顔だけ。
「なんだよ。俺りゃあ何か?娼夫か?ヤりたいだけなら、どっかで買えや」
…プライドの塊め。
にらみつける瞳を、じっと見据えた。
「違う…と思う」
「娼夫じゃなきゃ、なんだよ」
「見ていると抱きたくなる。」
伸ばされた腕を掴んで。
そのまま、体を引き寄せた。
よろけた体を押して、倉庫の荷物の陰に押し付ける。
「おい!」
「…なぜだかわからん…しかしもっと感じたくなる」
そう、体中に、指に、全部。お前の刺激と反応をもっと刻みたい、なぜなのか。
なぜなんだ。
もっと欲しい。
快楽が欲しいから?
そうなのか?
「淫乱ジジィかテメーは」
「…そう思うか」
「思うね」
「この欲望の本質が知りたい」
「はぁ?」
理解できないといった顔で、俺を覗き込むl。
伏せた俺の目を、抉り出すように下から見上げて。
中に、何が見える?
俺が見えるか?それとも、ただの淫獣か?


「マジ、かよ…?」
俺の腰を探る手に指を掛けて、動きを止めようとするから。
唇を無理に奪って、指先が麻痺するくらいのテクニック、見せてやる。
口内をかき回す舌、ほら、指先が震えているぞ。
俺はもっとそれを感じたい、お前が拒もうとすれば無理にでも…
そうかもしれん。
お前が。
お前が一番気持ちのいい玩具だからなのかも知れない。
女が、男とのセックスより自分の指、またそれよりバイブレーターのほうが気持ちいいと知ったら、それを欲するだろう。
俺も同じか?
より気持ちのイイ物を求めている、それだけか?
「…ッ」
声を殺してしまう、この反応、それが好きなだけか?
燃え始めるとどこまでも俺を引きずり込む、そのやり方が好きなのか?
「俺の仕方が好きか」
「…な、何、聞いてんだよ…っ」
はだけた胸の敏感な部分に口付けて。舌先でひねりあげる。
「うあ!」
声を出した後、俺を殴る。
いつも、そう。
殴れなくなるまで、俺はそこを攻める、それがたまらなく心地いい。
舌先に転がして、軽く噛み付いて。
そのまま下半身に指を這わせると、もう反応してるじゃねぇか。
「あん、なぁ」
「ん?」
「…オメーの、仕方、気に入ってンよ、間違いねぇ…っ」

頭上でかすれた声。

「ンじゃ、コレもか」
獣の舌先で、壁に押し付けた腰の中心を飲み込んだ。
「…ん、う、っ」
腰を抱え込んで、深く咥え込んでやると、髪を強く掴まれた。
その手が、震えている。
もっとか?
「オメー、に、しか、こんなこと、されねーよぉっ」

なに?
「見せらんねぇよ…」
口からそれを抜き取ると、あふれた蜜が零れ落ちる。
「なら、なぜ俺に見せる?」
舌先がお前の味で一杯だから、そのままその口に捻じりこんでやるよ。
「ン…」
俺の頭、もう一度掴んで。
俺の舌を、自分の味を口に飽和させて、かすかに離れた口元。
俺の目をにらみつけて。
髪を掴んだ腕が、力を込めて、俺を引き上げる。
「山崎…っ」
「かっこ悪くねぇからよ…お前に見せるなら」
そう言って、深く口付けて来る。
カッコ、悪く、ないから?
それだけか?
…そんな、くだらない?




片足を持ち上げて、体の間に腰を押し付けた。
浅く入る感触に山崎が身を捩る。
「カッコ悪くないから、だと?」
「…ん、っ、なん、だよぉ」
「それだけで俺に抱かれてたのか?!」
「…!や…」
両足を持ち上げて、背中を壁に押し付けさせて。
指が俺の肩を掴んで、押しのけようとしても、
もう、お前、俺の咥えて深く入っちまってんじゃねぇか。
ずり落ちる背中を、そのまま引きずり落として、地面に押さえ込んだ。
「あ、あっ、う…!」
「自分のスタンスがそんなに重要か!!」
「…っ、やめ、ろぉ」
「物足りない、の間違いだろう?」
「違、ァ…」
膝に手を掛けて、体を丸め込んでもっと深く入ってやる。
自分のためか?
俺はどこにいるんだ。
お前の中に、俺はどこに…
「クリード、やめろ、激し、すぎ、…っ苦し」
泣けよ。わめけよ。苦しがれ、もっと感じて俺に塗(まみ)れちまえ。
お前が望むようなやり方なんかしてやるものか。
俺は俺なんだ。それが受け入れられないのなら…!



「拒め!その手で拒んでみろ、イヤだと思うならな!」
「馬鹿、やろ…ぉっ…」



俺の肩を掴んだ腕が。



…そのまま俺を抱き寄せた。



「…な」

山崎の首もとに埋もれる俺。
離されない。

「オメーと、なら、恥ずかしくねーンだよ…素直に体、開けッから…だから…、…。言わすな」

また、頭を小突かれた。
小突かれるだけの理由がある。
そう、理由がある。
俺にも、こいつにも、見えないそれが隠れて根を伸ばしている。

「俺の理由かも知れねー、けど…よぉ。悪いかよ…」
「…」
「、っ悪いの、かよぉ…」
そんな声、出すな。
もっと勃っちまうだろ…。
「自分のために、か」
「…っん、」
腕がいくら俺に絡んでようと、腰は自由だぜ。
足を押さえて、体を引いて、また埋め込む、こんなことくらい、簡単だ。
なぁ。
コレも、好きなんだろう?
俺のこのやり方も。
入ってりゃ、何でもいいのかと思ってた、なんてよ、そんなコトは。
言えないな…。
「あ、っく…」
「離せ、山崎…」
「やぁ、だ」
「何でだ?」
「…こんな明るいトコで顔見られて…たまるか」

「そう言われたら、俺だったらどうすると思う?」
「うそ…」
「じゃねぇ」
「や、やめろっ、や、だ…ってん、だ、ぁ、あっ」
そう、こうするしかないよな?
もっと深く強くして、お前が隠れられなくなるくらい。
コレも好きだというなら。
本気で。飽きないぜ…

「…−−−−っ!!!!!」

見せろよ…お前のカッコ悪いトコ…










「サイアク」
「嘘をつけ」
「サイアク、そう言ってなきゃ俺の中で示しがつかねぇ。サイアクサイアクサイアク。」
ぶつぶつと文句を言う山崎。多分まんざらでもねぇ。
そういや、今頃気がついた。
こいつは、俺に抱かれてる側であって、抱いてる側じゃなかった。
恥ずかしいっていう、そんな気持ち、持ってたわけだな。
つい、顔がほころんでしまう。
「オヤジ!エロくせぇ顔してンな!」
「んん?」
赤くふてくされる顔、ニヤニヤしながら見てる俺。
目をそらした山崎の目線の先に。
次々と運び込まれる荷物。
荷物とともに降りてきた男と、山崎が、知らない言葉で会話をした。
高い調子の早い言葉。
多分、韓国語、中国語か?
金は山崎の助言に従って、先に払い込んであったから、こちらから渡すものは何もない。
金と、交換、だなんてコトは、もう古いんだとよ。
もし裏切るようなことがあったら、それなりの報復が出来るようなスタンスが整えてあるらしい。
山崎は独自でそういう取引の方法を作り上げた。
それに俺は一役かっていたらしいが、気がつかなかったのが事実だ。
いったい、いつの間に。
「お前のおかげでコトが楽だぜ」
山崎は俺にそう言っていた。
ふーん。
まあ、いいか。楽なのに越したことはない。

積み荷は点検を受けて、そのままトレーラーで運ばれるコトになっている。
無論、俺の会社の倉庫に直でな。

トレーラーを見送って、俺たちは車に乗り込んだ。
途中、山崎がつまずいたのか、転びかけて、俺に掴まるなんてことをして。
「だー!」
なぜか俺が殴られた。
この借りは後で返す絶対返す。

見せて、くれるんだろ?
そのお前の中の見せたくない部分ってやつをよ…。


いつまで経っても掴み切れないのは、体じゃなくて、コイツのすべて。


何がどうとかどこが欲しいとかだなんて、そんな問題じゃなかった。
そう、全部だったんだ。
呆れた。

呆れて、逆に気分がよかった。
まったく、やってくれるぜ、山崎竜二。


いつまで経ってもつかめない男でいてくれよ…