2001年12月23日。日曜日。
年末で忙しいのか、昨日の夜からクリードの野郎はPCと向き合いっぱなし。
俺はクリスマス用にオモチャルートでさばいて置いたヤクの収入のまとめと
当日売りのネタの回しを済ませて、テレビを見ていた。
暇だな…。
外に出ると人が多くて面倒だからなー。
車出しても渋滞、電車はカップルでいっぱい、町を歩けば頭が痛くなるようなファッションの乱舞、だろ。
こう、街中よりも、郊外のほうが閑散としてて気が楽だよな、この時期は。
でも俺は家でごろ寝。

ぐー


腹、減ったな…

4畳半の畳の部屋から続いてるキッチンのフロアに足をつける。
「冷てッ」
部屋から出ると気温が低いな。
空調を弄ろうとして、壁のスイッチに手を伸ばしかけて、やめた。
そのまま、しゃがみこんで冷蔵庫を開く。
「うわ!なんだこりゃ!」
篠原、気が利くワリに、こういうとこ駄目だな…!
部屋の隅とかも微妙に埃とか積もってたしよ、
風呂のヘリなんか石鹸の滓の跡が残ってたしなぁ
…つい、掃除しちまったじゃねぇか。
俺は俺が気分が悪いのは嫌なんだよ…。当たり前か。
と、まあ、その冷蔵庫の中。
野菜室に野菜が山盛り…使いかけ、とか、
うわ!なんだ、ジャガイモまで冷蔵庫に仕舞ってんのか!あのアホは!
根菜類ってのは、冷蔵庫に仕舞う必要がねぇのよ。
ちなみに時期によるけどな。
芽が出る時期は冷蔵庫で冷やしてやると、芽が出ずらくなるってよ、
香港の売人に聞いたような覚えがある。
「もっのしりー」
自分で自分誉めといて、と。

冷蔵庫の横を見ると、大きなかご。
その中を覗くと、小ぶりの玉葱がたくさん入っていた。
つかっちまわねーと腐るぜこりゃ。
ちょうどイイや、何か作るか…暇だしな。
暇だからだぞ。


とまと。
しいたけ。(もうそろそろ危うい色)
にんじん。
茄子、と、たまねぎ、ピーマン。

…大根と、サトイモ。

ウソウソ、いれねぇよ(笑)


にんじんにかじりついてみたら、結構甘かった。
うん、こりゃイイかもなぁ。
奥の部屋から、キーを叩く音。
忙しいね、あいつも。

にんにくのチップとオリーブオイル、茄子。
ジャン、と鍋が熱い音を立てた。
ついつい、顔がほころぶ。
久しぶりだな、料理なんて。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

キーボードを叩き続けて、すべての命令を送る。
帰ってきた返事にしたいして、もう一度。
あーめんどくせぇ。会社なんか持ってるとこのザマだ。
とか言いつつ、この俺の思い通りにことが運ぶってのは、この上ない快感だ。
思い通りにならないなら、いつもでやめてやる。
ま、俺がやめて困るのは市や国家、金を持ってるヤツはやめないでくれとすがり付いてくる。
面白いもんだな。武器商ってのは制限されるくせに裏では異常なまでに欲しがられる。

かたかたかた。
いい加減、打つのにも慣れて、結構速くなってきた。

ある程度の命令を済ませて返事待ちの段階になり、タバコに手を伸ばした。

と、突然、土砂降りの雨のような音。
「????」

席を立ち上がって、音の方向に向き直る。
なんだ?

ポーン。

返事がきちまった。
音の方向は、キッチンだ、山崎が何かしているに違いない。
気になる。あいつがキッチンにいるなんて、まったく持って気になる。
料理が出来るようにゃ到底見えない、何かやばいことでもやっているんじゃないだろうな。
…でももし、料理してたら、どうする?
面白いぞ。

ポン・ポン。

俺をせかすように、着信の音が鳴り続けた。

「ちっ…」

しょうがねぇ、もう一度席に座りなおした。

雨の音は、鋭さを増して、そして突然小降りになった。

さっさと、済ませて、何がどうなっているのか見に行くぞ。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

残りの野菜、全部ぶっこんで。
ちょっと醤油、そんでから、塩もちょっと。とね。

んー、明日が楽しみだぜ。
作ってから一晩寝かせると、味がまわって唸るほど美味くなるんだコレが。

…オイ俺。
なに作ってんだ。
いや、今作ってるのはラタトゥイユ。
野菜が残ってしょうがねぇときはコレ、ってンで、つい作り始めちまったが…
俺、今腹へってんじゃねぇか。
うおー俺の馬鹿馬鹿馬鹿。
むぅ、何か、他に…
ちょうどこれから、煮込むしな、手も空くし…

んー、何か冷蔵庫になかったか?冷凍庫、レトルトばっか。
脂っこいもん食う気分じゃねぇ。

さといも、だいこん。
…んー。
白飯。
が食いてぇなぁ。


鍋の音が油が弾くウルサイ音から、煮込み始めるクツクツとした音に変わって。
クリードの部屋の音が、また俺の耳に届く。
…さっきの音、聞いて出てこねぇところ見ると。
よっぽど忙しいんだろうな。
…音聞けば、もしかしたら顔出すかと思ったんだけどな。
まぁ、期待する俺が馬鹿なんだ、そもそも用があるなら俺が行けばイイ。
…用なんて、ねぇよ。
音はするから寝てはいねぇんだよな。

…暇だな…

サトイモを手にとって。
タワシで洗って、ドカ盛りにしてラップで包んだ。
んで、電子レンジで15分。一個だと5分。
ちなみに余談だがな、サトイモの頭と尻尾、ちょっとだけスライスして切って落としておくと
この後の処理がしやすいんだぜ。
ホックホクの熱いやつ、皮むくんだからよ。
頭と尻尾、切っておくと、指で押しただけで皮がむけちまう。

「筆下ろしー」
ツル。

俺ってマジ馬鹿。

サトイモ、手でつぶして。
「あち」
…俺の声、聞こえたかも?
…つぶして、牛乳ちみっと、めんつゆちみっと。
混ぜて、丸くして。

…味見。

「んめ」

なんとなくほころんで、頬の奥がジーンとして。
マジで、俺腹減ってたんだなぁ、なんて実感しちまったよ。
クリードのヤツも減ってんじゃねぇかな。

暇だなー。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

かたかたかたかた。



むがー。山崎は何をしているんだ!!!
遠くから、小さい声。「あち」。って。

…なにが熱いんだー!!!!
気になる気になる気になる!
この!さっさと返事よこせ、お前の返事がラストなんだ!!!

…うがーーー!!!!

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


全部ゴルフボールみたく丸めて、と。
いくつ出来た?えっと、10個。か。
まぁ、いいか。

えー、これから、アンを作ります。
こちらの材料をご用意ください。
だし汁一と二分の一カップ。
薄口醤油大さじ一、…ねぇじゃん。んじゃ醤油大さじ二分の一と塩少々。
えーと、みりん大さじ二。
…全部目見当で、フライパンにぶちまけて、火を入れた。
煮立ったところへ、溶いた片栗粉、入れてよ。

さといも、全部ラーメンの器に山積みにして、ソレぶっ掛けて。
うわーーーーーー!すげぇ俺プロじゃん。
…あー。馬鹿みてぇ。
暇だな。
クリード、気にならねぇのかなぁ。
かまえよ。暇なんだからよ。

さといも、食っちまうからな。
…って、俺、白飯どうしたよ。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

キッチンからの音が小さくなって、俺はつい耳をそばだてた。
何も聞こえない。
小さな、コトコトという音、あれは何か煮込んでいる音っぽいな。
…ということはやはり料理か?!

ぽーん。

…来た…

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



あーもうあー!!!
大根、ミソ、醤油!生米ッ!!
メシは10分もあれば炊ける!電気釜!?うぜぇ!
耐熱皿に生米、水入れて大根の薄切りでフタ。オーブンで焼く!

…思いつきなんだけど、炊けるか…なぁ。

クリードのヤロー。
いーじゃねぇか、仕事おっぽり出してよぉ。
暇なんだよな、暇暇暇。
…しょうがねぇのは分かってるよ、仕事だろ?
…日本に来ただけでも嬉しかったのは本当だよ。
さといもに、手を伸ばして。
「あち」
取り上げた菜箸でサトイモを突き刺して口に入れた。

もくもくもく。
…持ってってやるか。
烏龍茶、入れて、サトイモ団子と、大根の味噌醤油漬け。
飯は、まだ。
飯が炊けたら、持って行ってやろ。
…待ってるってのは、俺の性にあわねぇや。



キッチンから続きの4畳半、
その向こうの木の扉の向こう。
しん、と静かで。
キーを叩く音が、たまに聞こえてくるくらい。

また、途切れた。
なに、俺、耳澄ましてんだよ。
いや、でももうちょっと…
覗いてみようか。
畳の上にスリッパのままで上がって、扉の前までそっと。
開けようか。
やめとくか…
邪魔しちゃ、さすがに…
っていうか、気がつかれたら恥ずかしいぜマジで。
やめとくか。
でも今、音がしてるから、背中向けてるはずだから、気がつかないかも。

そっと、ノブに手を伸ばして。
チラッと、見るだけ、見るだけ、な…

ゴン!!!!

「だぁ!」
「山崎!?」

突然開いた扉に、俺は額をぶっつけて。
な、なんなんだよー!!!!

「ん?何だ?覗きか?」

ニヤニヤしているクリード、脛に蹴り入れて、
うずくまってる頭、平手打ち一発。
「痛い」
「あたりめーだ!俺だって、イッテェなぁもう」
おでこを撫でて、立ち上がったクリードが俺を見て、そんでから、辺りを見回した。
「美味そうな匂いがするな…さっきから聞こえていたのは料理か?」
「…聞こえてたのかよ」
「ん、まあな。」
なら、顔くらい出せよな。
って、言ってもはじまらねぇだろうけど。
「気になって仕事が手につかなかったぞ、まさか山崎が料理とはなぁ」
「へ?」
「何度覗こうと思ったか」

…なんだよ。
仕事が手につかなかった、って
ま、いいか。
据え膳置かれてガマンしてたみてぇだから。
そんな状況になっててくれたってンなら、
まぁ、
満足だぜ。

つい、笑った。

「美味そうだ」
「だろ?でももうちょっと…」
「匂いがする」
「…ん?」
「お前」

唇、塞がれて。
おい、俺は食い物じゃ、ねぇぞ。
クリードの舌が唇から頬を伝って、耳を食む。
「っ…」
ちょっと…
「何だ?」
「火が、気になるからよ…」






「ん、ぅ…」
キッチンに手を付いて。
移動して、鍋の様子を見ながら。
こんなトコで、ヤるなんて思ってもみなかったぜ、ホント…
俺の長めのシャツを捲り上げて、
腰を撫でた指が、そのまま前へ這わされた。
体ゆっくりと突き上げる動きに、息が荒くなる。
いつものセックス、いつもの声、匂い。
ちょっと美味そうな匂い。
クリードが、サトイモをツマミ食いしながら。
「お、美味いな」
「…食って、んじゃ、ねぇ…、よ、ん、っ」
「音だけで焦らされたからな…溜まった俺のストレス発散するまでたっぷり構ってやるぜ」
言葉どおりに焦らす指先。
前をねちねちとした愛撫で犯されて、
俺、もう沸騰寸前…
「腹が減っているんだろう?」
「ン…そ、そう」
「そういう時は性欲が増すらしいぞ、証拠がこの指だ」
クリードの指が、俺の其処に証拠を突きつけて。
「うああっ…、ん」
キッチンテーブルに爪を立て
体が強張る
力、抜けたり、入ったり。

最終的に先にイッたのは俺のほうで、
クリードはその指先、舐めてて。
そんでから、思い立ったように激しくされて
俺が狂いそうになったころ、
「腹ごなし」
とか言って、飲まされた。
ツッコミいれる隙もねぇでやンの。
隙、って言うか、俺の余裕…な。
飲みきれずに零したやつ、手で受けて、舐めた。
腹ごなしって言うか。
余計に、腹がへるっつーの…




運動の後の飯はうまいとかよく言うよなぁ…



「うめ」
白メシ、ちゃっかり上手く炊けてて。
ソレをよそって、ラタトゥイユもとりあえず少しだけ味見して。やっぱコレは明日のほうが美味いな。
ってなワケで、サトイモと、漬物と、白メシ。
「想像以上に美味いな」
「運動したからじゃねぇの?」
はは、と笑って。
なんか、食卓ってヤツ?
照れるよな、冷静に見ちまうと。
クリードと一緒にメシかっ込んで。
何か満足そうだから、それ見て、俺も満足。

「山崎、クリスマスに…」
「んん?」
「何か、作ってくれ」
「はぁ?俺が?なんでよ」
「美味い」

そう、言われちゃ、作ろうかな、って気分になるじゃねぇの。
そんじゃ、メシ食ったら、買出し行こうぜ。
多分混んでるだろうけどよ。
他のやつが作らないようなモン、作って、ってのも面白いな。
もくもくもくもく。
無言で美味そうに食ってるクリード。
俺も無言で。
食い終わって、プハー、て。
顔見合わせて、笑った。
おもしれー。
暇な時間も、結構有効、ってモンだな。
「まあ、たまにはな」
「同感だぜ」
でもまあ、ホントに、たまに、はな。



面倒じゃねぇときだけ、だから、たまには、な。


んでもお互い、焦らしすぎるのは無しにしようぜ。


…たまには、なー。