■餓狼伝説、KOFのストーリーとは全く関連ありません。設定も違うです。

winter snow

■■
■嘘
社はすぐに署に戻ったらしい。
マリーは一人繁華街を歩いて行く。
山崎のあとをつけて。
山崎は面倒くさそうに女を連れて、繁華街から遠ざかる。

マリー「いかがわしー…」

だから男ってイヤよ。すぐにそっちの方に女を持っていきたがるんだから。
このあとどうせ自分のマンションでいちゃつくんでしょ。
わかってんのよ白状しなさい!
一つぶつぶつと呟きながら、山崎のあとをおう。
先に見えたのが駐車場と知るやいなや、マリーは走り出した。
このまま車に乗る気だわ。社はいないし、自分で車とりに戻らなきゃじゃない!
アア、腹が立つ!
みんな何もかも山崎のせいよ!
パトカーの置いてある繁華街の逆側に向かって疾風のように走る。
まったくもう、気に入らないわ。何もかもが気に入らないわ。
ヤクの売人だった山崎を、現場で逮捕して
やっと街が静かになると思ったのに!
何が保護監察処分よ!なんで山崎が優良なのよ!
絶対ネコかぶってたに違いないわ。
なんで二年で出てくるのよ。
ずっと入ってれば良かったのに。

マリー「あーもう!面倒くさい!」

道行く人が振り返る。
マリーの呟きは相当大きな声だったようだ。
ちょっと照れながら、何事も無かったかのように走り抜ける。
5分程度でパトカーまで戻れた。
山崎の後をつけるのに、十分だったろうか。
車に乗るなら、アタシに一言帰ると言いなさいよ。
ぶつぶつ。
マリー…最近小言が増えました。そろそろ歳感じちゃうね。
ピルルルルルル。
車のエンジンをかけたと同時に、携帯の音が鳴り響く。

マリー「はい、マリーです」
  社「おう!今署についた。今から調べる」
マリー「調べてから電話しなさい!」

ゴン。
携帯に向かって一発パンチを入れると、
そのまま助手席に放り出して車を走らせる。
携帯の向こうでは、社が耳をさすっていた。

  社「いつもこまめに連絡よこせってウルセェから、
    連絡すりゃ…これだよ」

どうも登場人物にぶつくさ言うヤツが多いね。
社はパソコンに向かってキーを打ち始める。
署内のデータベース。それを立ち上げて…

  社「……さて…。どうやって何をどこから調べたもんかね」

阿呆。

  社「最近見たんだあの顔…どこでだっけな…」

パソコンの前で目を閉じる。
記憶を探る。なにか一つでもイイ、何か思い出せるものがあれば。
なにか。
山崎にくっついていた女。
山崎は二年前に鑑別所送りになったはず。
2年前にあった人間関係?
その頃、2年前にあった事件。その内容を全部表示させてみる。

  社「目がチカチカする…もうイヤだ…」

あんたギブアップ早すぎ。
だらだらとした調子で、それでも精一杯の早さで画面を流して行く。
カタリ。
一つの事件に目が止まる。

  社「ちょうど山崎が捕まる一週間前の殺人事件か。
    この犯人上がってねぇんだよなぁ」

ぶつくさ。
面度臭そうに、ページをめくろうとして…

  社「あ?」

殺されたのは一人の男。
麻薬の摂取のし過ぎで自殺か、事故か問題になった殺人事件。
殺人だとわかったのは、針の入った方向からの推定だった。
麻薬を打つときに、自分で打てない入り方で針がさしこまれていた。
誰かに致死量の麻薬を打たれて、殺された。
そう言う見方の殺人事件だった。
犯人は不特定。山崎の名も上がっていたが、
犯人として特定できる材料が皆無だった。
それよりももっと気になるのが一つの写真だった。

  社「娘?…この子が娘?どっかで見たはずだ…被害者の娘じゃねぇか」

そこに残されていた一枚の写真。被害者の娘、
名前は早乙女有紀。21歳。
そして、殺された男の職業。
早乙女探偵事務所。探偵業。いまどきマトモに稼げないだろう探偵業。
社の頭にいろいろな考えが回る。
復讐?山崎が犯人だとこの娘が特定したのか?
だから山崎を狙ってる?
いや、そう言う考えは飛びすぎか。
一般人がそんな大それたことを。そもそもこの娘はまだ子供じゃないか。
そんなことがありえる筈が無い。
おそらく。
たぶん。
もしかしたら…。
ありえない話じゃない。

携帯の音が鳴り響く。何度も何度も。
周囲はもう真っ暗。電灯一つ無い住宅街のマンションの前で、
マリーが舌打ちをした。

  マリー「しつこいってんだよ!」

携帯に向かって突然の罵倒。
イライラは身体に毒だよおばあちゃん。
電話の向こうでもう1度耳を押さえる社。そろそろ耳鼻科行き?

  社「いちいち怒鳴るなよ!あの女の子、ちょっとヤバイかもだぜ」
マリー「どういうこと?」
  社「2年前あった、早乙女って男の殺人事件。あの娘だ」
マリー「早乙女?職業は?死因は?」
  社「探偵で、死因は麻薬の致死量摂取によるものだ」
マリー「……その娘?」
  社「その娘。」
マリー「それがなんで山崎と…」
  社「調べたらな、その犯人の一人として山崎が上がってたんだ。
   しかし、あまりにも接点がねぇんで流れたらしい」

携帯を見つめて、首をかしげる。
って、それじゃなんなのよ。
まさか、

マリー「殺された父親の敵討ち〜なんて言うんじゃないでしょうね」
  社「言う」
マリー「そんなこと…」
  社「ありえない話じゃなければ可能性があるなら
    それは事件に繋がるんだろうが」
マリー「あんたに難しいこと言われたくないわよ!
     ちょっと待ってなさい、山崎もう死んでるかも!」

死んでるかも、って、その言いぐさって…
携帯をブツリと勝手にめちゃくちゃ一方的に切ると、
車から出てマンションを見上げる。
幸い、ギャーともキャーともウンともすんとも聞こえてこない。
切ったばかりの携帯の短縮を押して、耳に当てる。
少しして、眠そうな声が聞こえてきた。

山崎『なんの用だ、大人しくしてるだろうが』

相変わらずの低い声。
アタシをどうあっても歓迎していない声。
気に入らない声。

マリー「あんたまだ死んでなかったのね」

少し安心して、皮肉を言ってやる。
しかし、あの女の子が近くにいる可能性がある今、油断できない。

山崎『ああ?なんで』

皮肉を皮肉と受け取ったのか、受け取らなかったのか。
無表情な声が返ってくる。
山崎という男はわからない。理解出来ない。
アタシにごまもすらない。女だと思って舐めてやがる。
なんとかアタシの力を見せてやりたい。
なんとかアタシがあんたよりも強い立場なんだって、思いしらせてやりたい。
馬鹿にするな、アタシを。
女だてらに頑張ってんだ。
別に、女扱いして欲しい…ワケじゃない。
ちょっとはビビりなさい。脅えなさい。あたしに助けを求めなさい。

マリー「その女の子をアタシ達に引き渡しなさい。その子は殺し屋よ」

口から勝手にそう言う言葉が出た。
殺し屋だなんて、嘘だ。
ただの、敵討ちをするかもしれないただの被害者の娘だ。
わかってる。
でも驚きなさい。
その子は殺し屋よ。あんたを狙ってる殺し屋で、
アタシがいないとあんたは死ぬのよ。
ややあって、山崎のさらに低くなった声が聞こえた。
近くに女の子がいることを、それから察することが出来た。

山崎『マリー』
マリー「何?」
山崎『本当か?』

ギクリ。
一瞬嘘をついているのがバレたのかと思った。
しかし、山崎の声の調子は、ただの質問なだけで
疑っているような声ではない。ただの確認だ。ただの、時間稼ぎだ。
鼻で笑う。

マリ「「嘘ついてなんになるのよ」
山崎『そうか、ちょっと待て、今とりこみ中だ。5分後にまた電話しろ』

え?!
さすがにマリーも驚いた。
ちょ、ちょっとは驚きなさいよ!あんた狙われてるのよ?!
なんでそんな大物みたいに構えてるのよ!
確かに、相手は小さな女の子だし、
山崎くらいの男だったら別段怖いものじゃないのかもしれない。
残念がる自分に、さらに腹が立つ。

マリー「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!
    取り込み中ってアンタまさかその子と猥褻な…」

邪推。マリーは自分が山崎に振りまわされている、そう感じていた。
山崎が言動や行いを慎もうとしない。
しかし、逆戻りしそうなヤバイことまではしない。
頭の言いヤツ、いや、悪知恵の働くヤツ。
ヤクザ業界、いまどきそれくらいのヤツじゃなきゃ渡って行けない。

マリー「もう頭に来た!山崎の野郎、強制猥褻罪で逮捕してやる!」

勝手に罪状を決めつけて、車の扉をばたんと閉じる。
マンションに向かって歩こうとして、
自分の身体が上手く動かない事に気づく。
扉に挟んだコートのスソ。
ガン!と扉を一発けると、そっとドアをあけて、閉めなおす。

マリー「キズついててもアタシのせいじゃないもん。山崎のせいだわ」

パトカーの内部に置いたままの携帯が鳴り始めたことに
マリーは気がつかなかった。
そのまま遠ざかる。
受話器を耳に当てたまま、社がいぶかる。
信号待ちの単車の上。
署を出てから、もう結構時間がたつ。

  社「マリー動くなよ…相手は手配されてる殺人鬼だぜ…」

社の呟きは、マリーに届かない。


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