★SAFETY GATE★
マミーさんと話をしてるのはトニーだろ?
そんなの見なくたって分かってらァ。
トニーはマミーさんに信頼されてる、
確かにそれだけの器だと俺も認識する。
その器が俺にないってのが、こんなに悔しいなんて、
なんで今まで気がつかなかったのだろう。
強いから、ヘコヘコして距離とって。
俺はずっと避けていた。
その理由は、羨ましかったから。なんて。
そんな認めがたい事実が突き付けられる様で。
どうしても、トニーの顔をマトモに見たことなんて、なかった。

たまに顔を合わせても、別に話かけたりなんてしない。
向こうは目線を送ってくる。そりゃ顔は知ってるもんな、
アンタみたいなタイプなら、
いくら先輩でも俺も挨拶もして頂けるんでしょうねェ。

「なんで、避けんだ?オメー。」

マミーさんに聞かれたこともあるけど。
気にいらねぇんですよ、と一言返したら、嘲笑された。
俺の行動は見え見えなんでしょうね。
でも俺は、マミーさんに従うことしか出来ない。
ましてや意見なんて聞かれることなんてあるわけがない。
だって、使えないんだから。
トニーは、使えますもんね。

真剣を抜いて。その体に映る世界を見る。
仕方ない、俺の世界はこんなにも狭い。
仕方ない、あの男の世界は、無限大に広い。
恥を感じても、もう、俺に真似なんてできっこない、出来ない。
だって、俺は俺の人生を、歩んできてしまったから。

誰にもわからない様に。
知らない俺を伏せて、それに構築された自分を恥じる。

放置された倉庫街の貨物列車の荷台で。
その4畳ほどの狭い空間で刀を見るのが好きだった。
何も照り返さない。それがどんなに安心することか。

コン。
荷台の壁がなる。
屋根がついた荷台からは、外の様子が伺えない。
誰か、俺がいるのを知ってて叩いたのだろうか?
時にそれが邪魔になり、時にそれで引き戻され。
もう1度ノックの音。

「いるのか?ボタン。」

無視することにした。
トニーの。声だったから。
コンコン。
シツコイくらいに、音がする。

「ほっとけ。用はねぇ」
「俺が用があるんだ、一寸、いいかな?」
「俺は用はねぇって言ってんだろ」

音が途切れて、安心する。
関わりたくない。
コレ以上恥を感じたくはない。コレが逃避だと理解してはいてもねェ。
辛いから、ねェ…。
ノックの音はやみ。
シンとした空間が訪れる。
…離れて行ったかな?
ちょいと気になって、扉を開ける。

「あ。」
「……」

なんで、いるんだ、まだここに。

「…用はねぇって…」
「言われても帰れないよ、決めてきたんだ。今日は君と話をする。したい。」
「俺はしたくねぇ。」

そう言って、扉を閉じて、狭い空間で。
なんか、俺、馬鹿みてェ。
閉じこもって、ハイさようなら、って、自分の場所でもねぇのに馬鹿みてェ。

バン。
開くと、何か大きな音がした。

「イタタ…。」
「……そ、そんなところにいる方が悪い!」
「それは酷いな…。ちょっと、出てみないか?」
「嫌だね、用があるならそっちから来な」

俺は折れたんじゃないと思う。
ちょっと、ぶつけたことに罪を感じたから、ちょっとだけ時間をやろうかな、と。
それだけのハズさ。
恥ずかしかったんじゃァ、ない。

コツン、と、革靴の音を響かせて、狭い空間に入ってくる。
等身の高い身体が、いつもよりも大きく見えて、ちょっと引いた。
こんなに、背が高かったんか…?いや、年齢のせいだ。
俺だって、いつか…
…比べて、なんになる。

「君はココが好きなんだね。」
「別に…」
「…えっと…話、させてもらっても…イイかな?」
「勝手にしろ、俺は答えねぇから一人でしゃべんな」

トニーは困ったように笑ってた。
ああ、またこいつは、フトコロの広さを見せつける。
そして俺のフトコロの狭さをさらけ出させる。
だから、イヤなんだ。

「君が俺を避ける理由は、何?」
「……」
「…そうか、答えないんだったね。」
「……」

ムカツクからだよ。
心の中で反論する。でもコレは言ったらイケナイ、只の俺の恥だから。
目をそらして、膝に顔を埋める。
その行為に自分で驚いて。
無意味に睨みつけようとして、その行為にまた驚く。
ああ、俺はなんでこんなに、慌ててるんだ。
どうしたら、恥ずかしくないのか、其ればかり。
ああ、嗚呼。もうそろそろ解放して欲しい。

「出来れば、嫌われたくないなって…思ったんだけど…無理かな…?」

トニーの声が、こだまする。
イイよ、もう、ほっといてくれよ。
どうしてイイかわからねぇよ。
意味なく殴ったって俺が恥ずかしい、怒っても恥ずかしい。
どうすりゃ恥ずかしくないの。
どうすりゃ…

「話、駄目かな…やっぱり」

話、すれば、恥ずかしくねぇの?

「なんだよ」
「あ…やっと、答えてくれたね、有難う」
「で?」

とにかく、ばれない様に。
早く終わらせて、追い出そう。そうすれば、楽になれる。

「俺のこと、嫌いなの?」
「…別に…嫌いだよ。だけどアンタはマミーさんのお気に入りだ」
「…嫉妬かな?」

なんだ、コイツ。
ズバリ、言うやつが、あるか?!
顔が熱くなって、そっぽを向く。
やっぱり、話なんかするべきじゃなかったんだ。

「も、もう用はねぇだろ、帰れよ!」
「せ、せっかちだな…」

とにかく身体を遠くに離して。
入り口付近に座するトニーから、遠く離れて壁際で唇を突き出す。
嗚呼、馬鹿みてぇだ。もう。
困ったように、優しく笑うこの男に、酷く卑下された気分を煽られて。
笑うな、そんな顔で笑うんじゃねぇよ。
そんなに俺が、子供みたいかよ。ガキかよ。そうさアンタは大人だよな!

「あんまり、馬鹿にすんなよ…」
「え?ボタン…?」
「馬鹿にすんじゃねぇよッ!なんでも出来るからって、
 甘く見やがって、俺だってな…」
「……何?」
「俺だって……わかッてんよ…クソ。
 俺にゃあんたみてぇにできねぇよ。悪いかよ!」

言ってしまった。
もう、とまんない。一番恥ずかしいことなのに、キレるなんて。
ココから脱したい。
自分で作った墓穴に、押しこまれて更に陵辱されたようなそんな気分。

「出てけッ!」
「俺の罪では…ないだろう」
「う、ウルセェ…!言うな、分かってらァ、言うな…。」
「分かっているなら、何故俺を追い出そうとするんだ。
 待て、待ってくれ、ボタン。 何故そんなに自分を卑下する?
 そんな、そんな悲しいことをするなよ…」

「知るか!知るかよ。ほっとけよ!お前がいると、冷静でいられなくなる!
 俺が乱れるのがそんなに楽しいかよッ!
 そうかよ!どうせ俺は何もできねぇよ!」
「落ちつけ!」

バシ。
頬を一つ叩かれて、俺の身体が勝手に動いた。
歯を食いしばってトニーに殴りかかる。
ギリギリと歯が削れる。そしてその拳が、トニーの身体を捉えた。

「…ッ…」
「あ…」

気がついたのは、それから少ししてからだった。
息を切らす俺の腕を掴んで、口元の血を舐めるトニーがいた。
拳だけが、痛む。
俺を真っ直ぐに見るその目に、眩暈を覚えて…
ああ、どうせなら、侮辱してくれ…。

「大丈夫か…?」

どうして、アンタはそんななんだよぅ。

「俺は…アンタには絶対頼らねぇからな…ッ…」
「…はは…その方が…有難いんだけどな…」
「…え?」

落ちついて来た俺の頬をぱちんと両手で挟んで。
言葉を紡ぐたびに動く唇に、目を奪われる。

「俺も…頼られてばかりじゃ潰れちゃうよ。
 んじゃ、ボタンは俺を頼らせてくれるのかな?」
「な、何いってんだ、自分の面倒くらい自分で見ろッ!」
「見られなくなったら?」
「な、殴ってやるよ…」

有難う。そう言われて。
はじめて見せられたトニーの本音に、面食らう。
俺の言葉に嬉しそうに笑うこの男に面食らう。
な、なんで俺に殴られたのに、そんな顔してんの。
なんで、殴ってやるって言ってんのに、そんな嬉しそうなんだよ。
馬鹿みてぇコイツ。馬鹿みてぇ。
なんで、俺はドキドキしてんの、なんでこんなに気持ちが落ち着いたの?
両手にそっと力を入れられる。
その意図を察して。
ドギマギしている俺がいた。
逆らうとかじゃない。抗うとかでもない。否定したくない、この状態。
ああ、触れそうになる唇が、敏感になる。
上向いた顎にそっと指を掛けられて、目を細める。
無言で。
キスを、された。

唇が、熱を持つ。
無理に割って入って来たりしない、只の触れるだけのキス。
唇がジリジリとして、微かに揺れた動きにさえ、目を閉じずにいられない。
回された腕が、背中から腰を優しく撫でる。
コレに、流されて、いいもの、なんだろうか…。

「ココは案外、ムードがあるな…」

酔狂なことを言うトニーの言葉に、吹きそうになる。
こいつはどっかずれてる所がある。
この荷台のどこに、ムードがあるんだよぉ。
倒されて、背中に当たるボルトの継ぎ目が気になって。
それに気づかれて身体をずらされて、
気づいてもらったことに感謝したりして。
ああ、こうやって皆、コイツに騙されてっちゃってんじゃないかな、
なんて思ったけど、
コイツ、変だし、間抜けなところあるし、
そんな知能犯的なことが出来るもんか。

「トニーよぉ。」
「なんだい?」
「馬鹿」
「は、は?」
「言ってみたかっただけ」

ふ、と笑ってお仕置きされた。
服の上から、胸を爪弾かれて身体が弾ける。
照れたんで、叩いてやろうと思って手を上げたら、その内側に線を引かれた。
「…ッん…ッ!」
「こんなこと、してもイイのか…な?」
「聞くか、普通……。やっぱ、馬鹿。」
「また、言ったね?」
「別に?言っただけだぜ俺は。」
そんでまた意地悪されて、今度ははっきりとした悲鳴を上げて。
それに驚いて、自分の口を押さえたら、優しく笑われた。

ガタン。
外部からの音が、狭い空間に鈍くこだまする。

「……参った…な。」
「誰か来たなぁ。どうする?トニー?」
今度は俺が笑ってやる番。
だって、なんだかトニーがつまらなさそうな顔したから、
コイツこんな顔するんだって思ったら、もう。
肩が震えてとまんねぇってば。
「な、なんで笑うんだよ…」
「笑うよ。バーカバーカ。
 はは、駄目だコリャ、俺とまんねぇ、何お前その顔…ッ…ぷくく」
「……ボタン…」
「な、なんだよぉ〜」
「お仕置き」



あとでマミーさんに聞いたら、貨物の中から突然俺の叫び声がしたんで、
はっきり言ってかなりビビったらしい。もう、飛びのくくらいビビったらしい。
だって、俺の声が尋常じゃなかったって言うから。
何があったんだ?って、あとで聞かれたけど、言えるもんか。

「続きはまた後で、な?」

ニッコリ笑ってそう言われて。
へたり込む俺を置いて、お邪魔しました、って出て行って。
代わりに覗きこんだマミーさんには大笑いされるし、もう、俺、只の馬鹿?

あ、あのやろう!最後に俺を馬鹿にして行きやがったな!!!
やっぱ、俺、アイツ嫌いだッ!
むすっとして唇を突き出して、ちょっと気づいてソコを触る。



………後で、かァ…。
え?ベ、別に、なんでもねぇよ。




<こめんと>
うっわ〜。なんだか、トニボタですよ!(笑
最後までヤッてないけど、
邪魔が入っちゃったら諦めるしかないですねぇvv
さて実はこの続き書いたんです。
こういう風に話続けるのはじめて…vv
内容的には薄いのですが、ある意味濃いです(笑
ココから、一旦トニボタから離れてマミボタになります。
マミボタ苦手な人は読まないでねぇ…
◎2……マミボタ

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