「…先生?」
目の前の男が私を見上げて言った。
誰が先生?
私か?
なんだと?
私が先生か?
そうか。
殺してやろう。
その胸郭から腹腔までをゆっくりと裂いて卑猥に光る真っ赤な内臓を見せて

…、イケナイ…
…何を、している、私は、この手に持っているものは何だ。
…光る刃物に、ゾクリと背筋が凍る。
…いけない。
…私はどうやら、しーにゃんの衝動をコピーしてしまったようだ。
…そうか、
…しーにゃんはこう言う気持ちで私の首を締めたんだね?

そうか。

…この止まらない気持に、苦しみはしないのかね。

…私はひどく苦しいよ。頭が破裂しそうで、身体が裏返しになってしまいそうな…!
ああ、綺麗だろうねぇ、腹を裂いてもまだなおゆっくりと蠕動を繰り返す腸の数々

「しーにゃん…殺していいかい」
「…先生?ど、どうしたんだよ!」

彼の叫び声に、私の脳の糸がフツリと切れた。
言い様のない浮遊感、何を見ているのか、わからない。
そうだ。
誰かを支配しなければいけない、そうだったよね、しーにゃん。

…支配欲で、私を殺そうとしたんだね?
…駄目だ。逃げて。

「死ぬよ。痛いよ。すごくね。」
「…やめろ、先生?!なんだよ、あんたを信じてたのに、俺を裏切ろうってのか!?」

怒っているね。
なんでだろうね。
そうか、
…すまない。
…違うんだ。
…違う、違うんだ!
…殺したくはない…この感情を止めてくれ!!!

「に、げるんだ…」
「え?」
「逃げないと、私、は、」
「先生?しっかりしろよ!」
「ばいばーい」

あはははははははは。
内臓の赤く震える様が見たいよどんなに美しいだろうそれは

振りかざした刃物を
一気に振り下ろした

「あぶねェ、なッ!!」

胸の薄皮1枚だけしか捕らえられなかった、違うもっと深いところだ
…目が、まばたきをしないよ。
…出来ないよ。
…私は何故、しーにゃんにストーキングなんか頼んだんだろう。
…本当はしーにゃんの持つ強大な殺意を味わってみたかったんじゃないのか。
…私は狂ってしまったのか?!
秩序がない
ひどく自分の中が乱れていく
 友達だよね。
 私達は。

 トモダチだよね。

もう一度斬り付けようとして振り上げた腕が。
私の中の他人の殺意と
私の中の私の気持と
その葛藤に、震えて止まった。

「……ッ…逃げなさい!」
「うるせぇ!」

動きに耐えた私の身体に、ふいに強い衝撃。
身体に強い重みを感じて、
真後ろにあった事務机に、身体を強く打ち付けられた。
どうやら、タックルをされたらしい。
その瞬間に、何故か身体中が熱くなった。

逆らいやがって
殺してやる
薬を使って動けなくして縛り上げて好きなやり方でじわじわとなぶり殺し

「ぐ…ッ!!」

肩を貫く熱い杭
それは刺さっていた彼のナイフが貫通する
偉大なる罪の憎悪と快楽と支配下における快楽の感触

「…チ…ッ、ぶつかったショックで貫いちまったじゃねぇか!オイ!どこ見てんだ先生、しっかりしろ!」

しーにゃんが私の手からナイフをはずして遠くへ投げる。
…肩が。腕が熱くて、気が遠くなるよ…
…なんでだろう。
…なんで、なんで、ごめんねしーにゃん。
…触らないで、誰も触らないで。
…抱かないで。
…私はどんな化物にもなり得る怪物なのだから。

…だから、
…トモダチなんて、いらないよ…