★2222★

「煙草と酒買ってこいや」

朝起きて一番始めの一声がソレ。
ハイッと元気に返事したものの、俺朝弱いんだよねェ…
心なしかフラフラした足取りでマンションの扉を閉める。

そう、昨日はマミーさんのマンションに泊めて頂いた。
マミーさんは一人住まい、羨ましいコト。
親の話は勘繰る様だから聞いたコトはないけど、
やっぱウチより最悪なのかなとも思い馳せながら
一路近場のコンビニエンス。
俺はと言えば、今流行りの家出中。
まァ家の話はおいとこう、折角の自由が無駄になる。

赤ラーク、ジョーカーとウオッカ、ジンを買って
ついでに、隣の薬屋へ寄って風邪薬や胃薬なども購入する。
金?そんなもの、吐き捨てるほど、あらァ。情けねぇコトにナァ。
なんと言うかこの薬は只の常備薬さね。
こう言う用意の周到は、自分の御家の性格の所為。
ああ、こんなところまで来て、俺は家族に侵略されている。

「おう」
「ああ?」

振り向くと、あいも変わらず間の抜けた顔の男がいた。
名前は…なんつったっけネェ。

「誰だオマエ」
「アイタタタ!なんやソレ!ひどっ!」
「坊主と火傷だけは覚えてはいるような気もするがなァ、
 まァ対した用じゃネェんだろ、失せな」
「ほー、何様だよお前。ん?クスリと酒?」

俺の荷物を勝手に覗きこんだ坊主頭にムッとくる、しかし
今の俺は状態が悪いやね。
二日酔い、そして挙句に低血圧と来れば、判断も鈍る。
せんもない、その行為を眺めてツィを踵を返す由。

「なんやァ〜女でもおとすんか?」
「ああ?失せろッつったろ」
「酒と薬一緒に飲ますとエエらしいでェ」
「低俗で無駄な知恵を俺に植えるなタコ坊主」


へぇ、酒と、薬ねェ…。


「ただいま帰りました…」
「遅いぞボタンよぉ〜あー頭いて、酒くれ酒。迎え酒すっからよ」
「はぁ、よく飲めますネェ。」

台所に向かって手前のカウンタにて簡単にグラスを立てる。
茶筅とはいかないまでも軽くステアしたオレンジブロッサムは
マミーさんのお気に入りになったようだ。
テキーラサンライズのウオッカ版なのだが、
そんなコトは恐らく知る由もないだろう。

「お、ソレか、いいねぇ、ボタンがいると酒にコト欠かねぇなぁ」

そんな言葉もどうやら自分にはかなりの褒め言葉。
有難く頂戴して、未だ走馬灯が回る脳味噌でベッドの端にたどりつく。

「お前は飲まネェの?」
「ハァ。なんだかボンヤリしまして…目が醒めネェんですよ」
「……」

ベチン。
唐突に眉間を手のひらで叩かれて、仰向けに転がる。

「な、何すんですかァ〜…」
「ホントにボーっとしてんなぁ。ん?」
「なんすか…」
「熱あるぞお前」
「……」

用意周到とはこの事かいな?
そう言われて恐る恐る自分の状態を把握すると、
どうやら熱っぽい感じもする。
のそりと置きあがって、先ほどの荷物をゴソリ。
風邪薬など取り出して、さっさと飲んで
マミーさんの邪魔にならないように調整しようなどと。

「お前よく風邪引くよな。鍛えろー?身体をよ〜」
「は、はぁ。そうッすネェ。咽喉の粘膜が弱いモンですから」
「そんなヤツが煙草吸うか普通?
 しかも最高に強いヤツ吸ってんじゃねぇか」

酔いが回ってきているのか、楽しそうな声でそう言われて、
ちょいとヘタレこむ。
嗚呼、ああ、そうですねェ、俺はどっか抜けてますよネェ。
だから昨日の夜も飲むだけでなんも出来ないで。
ニヤリと笑って
 臆病モン 
なんて言われたの、俺はきちんと覚えてますよ。



ボタマミ1−2

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