★アロマ★
tetsuちゃんの部屋って久しぶりや。
昔は何度も遊びにきたんやけどなぁ。
なんとなく自分の時間大切にするようになってから
こんな風に会うなんて全然無かった。
うん。無かった。
淋しいな。なんか。

つれられて入った奥の座敷。
テーブルの上に飾りみたいんがいっぱいあって、
イイ匂いがする部屋やった。
アロマテラピーとか言う、
テッちゃんお気に入りのリラクゼーションがどうとか言うヤツや。
俺がじっとして空気吸ってたらテッちゃんが笑って言った。
「コレはカモミールやで」
「ふぅん」
なんやらようわからんかったけど、エエ匂いがするっちゅうことやな。うん。
そのまま俺を置いてテッちゃんは台所へ引っ込んだ。
なんか飲み物用意するって。
別にエエのに、構わんでも。
一人残されてやること無くて、飾りのあるテーブルに近づく。
「ん?」
小さな瓶が倒れてるやん。
……あ。
漏れてる、なんか。
そう思ってその小さな小瓶を持ち上げた途端、物凄い匂いがして、
俺はクラクラってきたんや。
こ、この匂いはなんや!甘いようななんか臭いような、
そんでなんつーか、臭いでコレ!
「kenちゃん?どうしたん」
「す、スゴイ匂いやでコレ!」
小瓶から漏れてた液体が指から腕にまとわりついて、
匂いが俺に染み付こうとする。
うわ、勘弁…
「なんや、触ったん?」
「こぼれてたんや!だから触ったらこう、なんか中身が…臭い…うげ…」
指と指を擦り合わせたら、ねとっとした感触で、
それがさらに気持ち悪くって吐き気がしそうになる。
「な、なんなんやこの物体は…ようこんなもん集めとるな」
「それはアロマオイルや。エエ匂いやろ?」
「臭い」
「えー?」
「臭い〜〜」
「なにこぼしたん…見せて」
小瓶のゆるんでた蓋をぎゅっと締めて、そんでから、
ティッシュにくるんでテッちゃんに渡す。
俺が動くたびになんか匂いが拡散されるッちゅーか、
もう、アカン…メマイがする。
「コレ…こぼれてたんか」
いぶかしげに俺を見るテッちゃんに、もう駄目やと完全降伏。
頼む〜〜
「…テッちゃん…」
「なん?」
「シャワー…貸して…」

困ったように笑いながらバスタオルの用意をそそくさとしてくれるテッちゃん。
本当にエエヤツやな、っていつも思う。
なんかいつも気が利くし、やさしーし、一緒にいて楽だなーって。
それに甘えててエエんかなって。
俺いっつもしてもらってばっかりでなんも出来んし。
そんな気持ちが腐ってて、
そのせいでテッちゃんに会うのが億劫になることもある。
会ったら、なにも出来ん自分に会うのと同じになるから。

指が服にくっつかんようにして脱ぐのは一苦労だった。
脱衣場で上半身やっと裸になって、もう一度手の匂いを嗅ぐ。
嗅がんとけば良かった…。
一瞬グラっと来て、なんか頭ボーっとなるし、
アカン、俺やっぱこう言うキッツイ匂いは苦手や。
匂いとかってんは、こう、そッと香るような、
風が吹いてチラッと気づく程度の匂いがセクシーなんや。
もう一度嗅ぐ。
なんか…俺、クセになっとらん?
テッちゃんに小さいタオル借りて、タイルの上に裸足で立つ。
冷た。でもお湯はあったかいなぁ。
テッちゃんのうちのシャワーはなんか柔らかい感じで、
ふわっとした雨が流れる。
羨ましいなぁ、こういうシャワーってエエなぁ。
柔らかいのってエエよなぁ…
おそるおそる指に湯を当てると、
熱気に当てられたアロマオイルがフワっと香った。
「kenちゃん…平気?」
シャワー室の外から、テッちゃんの心配そうな声が聞こえる。
俺はうずくまってた。
どうにも、立てん。
「なんか…変な感じや…体がだるい…」
雨に打たれてうずくまる。熱い、なんだか熱い。
「やっぱり、強すぎたんや」
そう言ってテッちゃんはおもむろにシャワー室に入って来た。
うずくまった俺の背中から、そっと抱き寄せてくれる。
「大丈夫?」
「だ…大丈夫や、一人で立てる」
「本当?無理しないでね?」
「し、してへん」
「本当に?」
そう言ったテッちゃんの指がつるりと滑って。
俺の腰骨からそっと下腹部をなで始めた。
「うあ、あ…っ、だ、駄目や、今、駄目なんやっ!」
ぎゅっと手を掴んでそれを止めて。いつもよりも高く感じる声。
テッちゃんの柔らかい舌が、首筋を後ろから舐めて、耳朶を犬歯が噛む。
「大丈夫…俺に任せて」
「い、イヤや…」
「なんで?つらいやろ?」
つらいから、してくれるんか?
いつも誰かに気を使って。俺に気を使って、大事にしてくれて。
また、俺を大事にしてくれるんか。
イヤや、こんなんじゃイヤや。
「さっき嗅いだ匂い、あったでしょ?」
「…ん」
「あれ、イランイランって言って、そう言う作用のあるアロマオイルなんや」
「な、なんでそんなもん持って…」
「kenちゃん来たら、焚こうと思っててん…」
片方の手が俺の髪を撫でて、そんで片方の手が俺の首にかけられる。
こんな堕落したみたいな俺の面倒を見てくれる優しい手。
ほっといてくれればエエのに。
甘えて…まうやんか…イヤなんや…こんなん…
甘えたらどんどん弱くなるから。
弱くなってもうたら、俺はもうテッちゃん無しじゃいられんかもしれん。
そうなったら怖いから。なにも出来ん自分も恥ずかしいから。
だから、そうなる前に、テッちゃんを振り切らな、アカンって…そう…思って…
「どうしてもイヤ?」
「……なんで俺を潰そうとするねん」
「え?」
テッちゃんがビックリしてんのは分かる。
分かるけど、ここで流されたら本当に俺は止まれんようになる気がする…
「そんな風に見てたの?」
テッちゃんが、そう言った。
物凄い冷たい声で。
ビクっとなって俺は、目だけでテッちゃんを見上げた。
俺は怖がってるんやない。だってなんで怖がる必要があるんや。
怖くない、テッちゃんが怒って俺に愛想尽かしたら、なんて、
そんなん、怖い…わけ…
「そう、ならエエわ。よく分かった。」
「て、テッちゃ…」
「潰されそうになってるなら1度潰れてみいな」

そう言った途端、俺はテッちゃんの体重で押しつぶされた。
背後から腕を押さえられて、もがいても思うように離れられない。
冷たいタイルが頬に当たる。
怖い、そう思って、それを打ち消せずにいる。
バランスを崩した俺の身体を冷たい床に押し付けたまま、
テッちゃんが俺の腰を探る。
「や、やめ…ッ!!ん…う…ッ」
ジワリと呼び覚まされて行く感覚が、
さっきからむず痒く滞っていた胸の苦しみと混ざって
異常な感覚になって行く。
「な、なんや、コレ…ぇぇッ!」
想像以上の神経のざわめきに、なんも考えられんようになりそうで、
そうなったらイケナイってことだけで懸命に頭を振ってみるけど…
「犯したるわ。快楽でゆがんでもうたらエエねん」
何度も冷たい声が聞こえる。
そんな声聞かされながら熱くなってく俺の身体は、多分もうどうかしてるんや。
強い力で持ち上げられた腰から指が滑って。
「欲しいって言うてみ?」
「イ、ヤや…」
「言うだけでイイから。ほら。言うてみいな。」
なんも言わん俺の其処に、無理やり指を埋めこんで掻き回す。
声が、出ない。
髪を掴まれて、痛みを感じて、それが快感で押し流されて。
なんで、こんな事すんねん、痛いやん、悲しいやん…
ずっとなにも言わんでいた俺に、気がつかんうちにテッちゃんは入ってきてた。
肩を押さえつけられて、1度上がった頭をもう1度床に押さえつけられる。
掠れた悲鳴が、聞こえた。俺の口から。
「ゴメンな、ゴメン…。」
首元でそう言うのが聞こえて。
抱きしめられたいって思った瞬間に、
俺の身体をテッちゃんの腕がぎゅっと強く抱いた。
「欲しいねん、kenちゃん、俺が欲しいねん。だから逃げんといて、お願いや…」
そう言ってもう一度強く抱きしめられて。
悲鳴みたいなテッちゃんの声が聞こえた。
「皆、逃げるねん、俺が一生懸命抱いても!
 大事なもんは皆、離れて行くねん!そんなんイヤや!」

「阿呆…ッ」
俺の口から勝手に言葉が漏れてた。そんでくだらない単純なばかげた言葉で。
「後ろからやったら…ッ…ん…俺が抱きしめれんやろが…」
勝手に、出た言葉は単純やった。
本当に単純やった。
テッちゃんの顔が見える体勢でやっと落ち着いた俺も単純やと思う。
でも、単純でエエんや。
だって、コレは全部。あのオイルのせいやもん。
俺のせいでもテッちゃんのせいでもないもん。
俺等がこんなにガキだったなんて、そんなん、恥ずかしいやん。
だから、オイルのせいやもん。

忘れたフリして、シャワー室は冷たくなって。
俺らが見せた醜態と、そこで得た大事なもんは
こっそり俺らの中にしまって置いて。
そんで、こっそり見せ合えばエエんや。
時々なら癖になるその匂いは、時々嗅げばええんやもんな。

抱いた瞬間に弱くなって
抱きしめた瞬間に優しくなって。
なんや、エエんやないか。

そう言って笑った。

気がつくまで、えらい時間かかったなぁ。なぁ。

テッちゃんが台所に向かったときに
そっと小瓶を倒しておいた。
コイツにはコレは上出来や。

指に残って消えない匂いは、テッちゃんの大事なもんの匂い。
嬉しいから、エエことにしとこ。

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