「はい。」
いきなり部屋に入ってきたセルバンテスがそう言って儂に手渡したのは
綺麗に装飾が施された一つの箱だった。

「何のつもりだ、これは。」
「やだなぁ、知らないの?アルベルト。今日はバレンタインデーじゃないか」
バレンタインデー?そういえばそんな日もあった様な…フン!下らんな。
そんなことを思いながら儂は手渡された箱を押し返した。
「いらん、返す。」
「何でさ?せっかく君の為に…」
「いらんと言ったらいらん。」
第一、バレンタインデーって女が男に想いを伝えるとかそんなんじゃなかったか??
色々と考えている間にも儂の目の前でセルバンテスは貰ってくれと騒いでいた。
「何で貰ってくれないのさ?」
「うるさい!いらんと言ってるのが聞こえないのか!!」
そう言うと、セルバンテスが急に大人しくなった。
自分でも何故いらんと言ったのかがよく分からなかった。
何か気恥ずかしいものを思ったからか?……性に合わんな。
目の前で静かになっていたセルバンテスが何を思ってか、いきなり箱の包装を
丁寧にとり始めた。
「お、おい!」
これから何をするつもりだ?と考えながら見ている間に包装はとられ
箱が開けられた。
中は綺麗に並べられたチョコレートがいくつも入っていた。
セルバンテスはおもむろにその中から一つ取り出すと自分の口の中に運んだ。
そして、訳も分からずその様子を見ていた儂の首に腕をまわし少し微笑んだかと
思うと突然、儂の口を塞いだ。
「!!?」
あまりにもいきなりの事でどうする事も出来ずされるがままになっていた。
「ん…ふっ……」
大分、息が苦しくなって思わず声が洩れたと思うとようやく口が解放された。
「美味しいでしょ?」
「??………あっ!」
口の中には先程、セルバンテスが口の中に運んでいたチョコレートが入っていた。
チョコレートは温かさでじんわりと口の中を侵食していくように甘さが広がっていった。
「だって、君が全然貰ってくれそうに無かったから。残りもちゃんと食べてよね。
それじゃ、名残惜しいけどこれから仕事なもんでね。」
セルバンテスがドアノブに手をかけた瞬間、儂はその手を引っ張り自分の方に向かせ
有無を言わさずその口を塞いでやった。
そして、セルバンテスの口から運ばれたチョコレートをゆっくりと時間をかけて
渡し主本人に返した。
セルバンテスは少々ビックリしていたもののその瞳はどこか嬉しそうだった。
長い長い口付けの後、唇を離して
「……………………」
「なっ…!!?」
ヤツの耳元で一言。
セルバンテスという男は普段はコロコロと表情は変わるがあまり自分自身を出さない。
その男が耳まで真っ赤にしているなんて意外ではあるが。
「じゃ、じゃね」
そう言ってセルバンテスは出て行った。

セルバンテス、もっと自分を出してもいいんじゃないか?
儂はもっといろんなお前を見てみたいからな。


………本当に今日の儂は性に合わん。

コメント
茜さんからこんな素敵な小説を頂いてしまいましたよ!
赤くなってるセルが可愛いこと可愛いこと。食らっちまいたくなりますな。がぶり。
実は、茜さん小説かかれるの始めてらしいんですが
初めての小説がコレじゃァ今後に期待しちゃいますぞー。
セルバンテスが箱の包装を丁寧に取ってる姿がやけに可愛いです…v
誰かのために何かを買って来るっていう行動って好きなんですよ。
それを買ってるときはそのことしか考えないわけですからね、
貰う側としては誰かの頭の中を一瞬でも支配できたって言うことが嬉しい。